6.美しき都市リマントンと、初めてのリトスパ
関所を通り過ぎ、聞いていた通りにお昼ごろにセレニータ帝国、第三の都市、リマントンについた。
海沿いにレモンカラーの家々が立ち並び、キラキラと輝く深い海の色と相まって、目にも美しい都市だ。 まばゆい光を反射して、昔、図書室で盗み見た絵本の中にいるようだった。
街にも人が多くおり、活気があって、いい意味で騒がしい。
熟れた果実の深い赤色、道行く人々の色とりどりの衣服に、食欲をそそられる屋台の香り。 それらが混ざり合い、弾けるような喧騒となって耳に届く。
無色の瞳に、初めて世界が眩しいほどの輝きを持って飛び込んできた。
「はい、長旅お疲れ様でした。リマントンに到着。またカラーリス王国に戻る方は、三日後にここに来てくださいねー。帝都ロミアーナに行かれる方は、隣の停留所から夕方鐘五つ時に出発ー。」
馬車を降りる際に、御者が高らかに叫んだ。 ここまで乗せてくれた馬にそっとお辞儀をすると、小さく嘶き返してくれた。
先ほどの騎士の事が気がかりだけれど、あまり気にしてばかりもいられない。 リマントンにとどまるより、このまま帝都まで移動したほうがいいのかも。
むむむと停留所で悩んでいると、アンさんが声をかけてくれた。
「ルナちゃんはこれから帝都に行くのかい? 馬車を乗り継いで私も帝都に行くけど、よかったら一緒にどうかしら。おばさんと一緒じゃ退屈しちゃうかもしれないけど。」
「よろしいのですか。ぜひ、ぜひご一緒できたら嬉しいです。一人で旅をするのは慣れていなくて。ありがたく存じます。」
「あら、ありがとう。感謝をいうのはこちらのほうよ。帝都は栄えているけれど、その分何かと物騒だから、女二人旅なら助かるわ。でもね、ルナちゃん、本当は初対面の人に付いて行くのも、旅に慣れてないとか言うのもダメなのよ。あと、丁寧すぎる言葉遣いも危ないからね。」
ニコッと笑ってパチンとウインクしてくれた。
「ふふ、アンさんこそ、知らない人に声をかけて、一緒に行こうなんて言ったらダメじゃないですか。」
二人でふふふと笑いあった。 アンさんはすごくいい人みたい。
(——夜の馬車までどうやって時間を潰そうかしら。)
そうしたらアンさんから湯あみをしにいこうと提案してくれた。 お湯だけを貸してくれる施設があるらしい。
セレニータ帝国はこういう施設が多いの、とアンさんが教えてくれた。 日帰り温泉施設というらしい。
(——人に肌を見せるのは…。)
とためらいながら付いていくと、湯気が立ち昇る小さなウッドハウスが見えた。
入口からは数人の人が出入りしていて、出てくる人は、ホカホカと湯気が出そうなくらいに上気して、幸せそうな顔をしていた。
心配していた私をよそに、温泉は一人用の個室になっていて、ゆったりとお湯に浸かることができた。
お風呂はいい匂いのする木材で作られている。 壁や床は贅沢にも大理石でできているようだった。
体を洗ってお湯につかると、昨日からずっと緊張しっぱなしだった体は思いのほか凝っていて、疲れがお湯に溶けて出ていくように感じた。
(——はぁ…なんて気持ちがいいの。)
パシャっとお湯をすくい、お湯から出ている肩にかける。 えも言えぬ心地よさが広がり、はーっと無意識に声が出てしまった。
潮風を感じる露天風呂も初めてで、目の前いっぱいに水平線が広がり、
「世界って広いのだわ。」
と改めて感じた。
まだ公爵家を追い出されてから、たった一日しか経っていないのに、すごく遠い場所に来ているような気がする。
まだ家も職も決まっていないけれど、お風呂が心地よく、今だけは先のことは考えないことにした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!温泉て気持ちいいですものね




