【閑話】 モントローズ侯爵家騎士団長の告解
20話~25話の加筆修正いたしました。本筋は変わっておりません。
ほんの少し、細かいところが気になってしまう。悪い癖です。
お茶会を狙って、公爵令嬢を誘拐した。
この事実は、たとえモントローズ侯爵の命令とはいえ、騎士道精神に大きく反するものであった。
受け入れがたいと感じている者も多くいる。
彼女を護衛する騎士までも意識不明になるまで痛めつけ、生かしたまま運んでいることも、不愉快でならなかった。
「よし、そろそろ街道を抜ける。リマントンの国境まで、もうすぐだ」
そう、不愉快だ。
いくら『色なし』と呼ばれる令嬢であっても、これほどの非道を受ける理由はない。彼女もまた、一人の人間なのだから。
無意識のうちに奥歯を噛み締めれば、バキリと歯にひびが入る音が響き、口の中に金属のような苦い味が広がった。
「令嬢の状態はどうだ。意識はあるか。無傷で届けなければ、我々にも罰が下るぞ」
後方の馬車の御者に扮する部下に問いかける。
「はっ! ええ、今はお眠りになっているようです。出発時は少し暴れておられましたが……おそらく、日ごろから染色剤や薬草を扱っているせいで、睡眠薬の耐性ができていたのではないかと」
「そうか、ならばいい。ここから少し荒れるかもしれない。気をつけろ」
「承知いたしました、トロー騎士団長」
「捕虜の二人はどうだ」
護衛騎士の二人は、動かなくなるまで痛めつけた後、麻袋に入れて馬に括りつけてある。遠目からは特に変わった様子は見られない。
「大丈夫です。奴ら、もう虫の息ですから。カラーリス王国に着いたら、即刻処分します」
部下の報告に返事はせず、ただ頷いて前を向き直った。
こんな事のために、自分は侯爵家の騎士団長にまで登り詰めたのだろうか。こんな、人を人とも思わない行いをするために。
栄えあるモントローズ侯爵家の騎士団長に任命されたときは、世界が輝いて見えたものだが。
今は薄汚い家門に仕える我が身までも、汚れているような気がしてならない。
団長である自分に迷いがあるせいか、部下にも迷いが伝染し、隊全体が精彩を欠いている。
この行軍も、一糸乱れぬどころか、令嬢に傷をつけないという名分があるため、かなりゆっくりな移動となっていた。
誰もかれも、体が重い。機敏になど動けないし、動きようもないのだ。
自分は知っている。
彼女が、どれだけの努力をして日々を生き抜いていたのかを。
何をされ、何を与えられなかったのか。この目で、この耳で見聞きしてきた。
夜更けに一人で泣いていたことも、一度や二度では済まない。
ようやく解放されて隣国へ渡り、これからの人生はせめて幸せがあるようにと、密かに願っていたというのに。
(……こんな汚い私を、どうか、止めてくれ)




