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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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32.暗殺者にしか行けぬ道

可能な限り身をかがめ、空気抵抗を減らして全速力で馬を駆る。

それは、並大抵のことではない。ただ低くなればいいわけではなく、馬の奔走を邪魔してはならないからだ。


不意に、暗殺稼業で各地を走り回っていた日々を思い出す。


「コスタンツァ、急げ。奴らには一刻(いっとき)分の猶予がある。こちらは何としてもそれを埋めなければならない……あれしかないな」


あの頃より年齢は重ねたが、コスタンツァも私も、当時より巧く駆けている自負がある。体力の衰えはあっても、日々技術を磨き続けた成果だろう。


「ええ。崖を下るしかないわ」


乾いた大地を叩く蹄の音は心地よいが、これからの「崖下り」を思えば、流石に身がすくむ。


リマントンは、地図上の直線距離で見れば非常に近い。

だが、広大な森と起伏の激しい地形、なにより急勾配の崖があることで、街道は大きく南に蛇行している。

奴らの時間的優位を覆すなら、この森を突っ切り、崖を下るより他に道はない。


「馬にかなりの負担をかけてしまうわ。……ここは、人力で行くしかないわよ」


コスタンツァも私と同じ結論に至ったようだ。

しかし、ロープ一本に生身の体一つで空中に躍り出るのは、いつだって死の危険が伴う。老いた今の自分に、それが果たして可能なのか。

無意識に、手綱を握る拳に力がこもる。


「コスタンツァ。それができるのは、俺とお前だけだ。……覚悟はできているな」


部下たちには、自分たちほどの胆力がまだない。なにより実戦経験が乏しい。若い命を、この無謀な挑戦に賭けさせるわけにはいかなかった。


「あら、そんな大げさな。それくらいのこと、あなたも軽くできるのではなくて?」


私の不安を見透かしたように、コスタンツァが冗談めかして笑う。

彼女はいつも、私の弱気を拭い去ってくれる。私に全幅の信頼を置いてくれることが、何より嬉しかった。……そうだ、私はまだやれる。


「それにね、絶対にお嬢様を取り戻して、殿下とのかわいい赤ちゃんのお世話をするまでは、死ぬに死ねませんからね!」


(……赤ちゃん?)

思わず心の中で突っ込んだが、彼女はその夢を信じて熱く燃えている。今は邪魔をしてはいけない。


降下用のロープが馬に備わっていることを確認し、私たちは崖へ向かって全速力で猛追を開始した。

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