30.月明かりの追跡者
「三人一組でお嬢様を探しに行きなさい。どんな些細な情報でも構わないわ。見つけたら、必ず私かベルナールに報告すること。手ぶらでも一刻経ったら、いつもの報告地点に必ず戻りなさい。さぁ、お行きなさい」
いつもは庭師や料理人、侍女として『緑の淑女』で働く者たちが、さっと散開していった。
私もベルナールと動かなくては。
「とりあえず現場を見ることから始めましょう。この暗闇では、騎士たちの目では見つけられないものが、なにか残っているかもしれないものね」
「そうだな、コスタンツァ。あのお嬢様は賢い方だ。なにか手がかりを残してくださっているかもしれない」
足音をたてぬよう、また騎士たちの目につかぬよう、屋根伝いに移動を開始した。
「しかし、護衛騎士まで消えてしまうとは一体。我々だったら絶対にその場で仕留めて転がすが」
「ええ。でも騎士が殺害されたとなれば、彼らは血眼になって犯人を探すでしょう。
それを避けるためにあえて連れ去ったんじゃないかしら。痕跡を完璧に消して、死体を処理する時間も惜しいでしょうし」
「……とすると、この国にはあまり詳しくない、外国人の可能性が高いな。
死体なら第二都市のミラネッタに行く途中の崖か森に投げれば見つからないのは、この業界の人間なら誰でも知っていることだ。
それに、護衛騎士を連れ去ったとすると、それなりの腕前を持った複数犯なのは間違いない」
犯人像を固めるためにベルナールと意見を交換しつつ、誘拐現場に向かった。騎士たちが忙しなくデイルしているせいで、街中も落ち着きがなく、ざわついている。
着くなり、ベルナールがチッと舌打ちを連発した。
「騎士のやつらめ。現場を荒らしまわって、これじゃどれが誰の靴跡か見分けるのは無理だぞ」
「まあまあ、ベルナール。元々期待していなかったでしょう? いいのよ、ほかに手がかりが見つかるかもしれないわ」
月明かりの中、二人で周辺の捜索を開始した。
ベルナールではないけれど、私も内心で舌打ちする。
大量の騎士がここを見に来たらしく、現場は無残に踏み荒らされていた。
現場を中心に少しずつ外に広がって捜索してみたけれど、道端に咲いている雑草さえ、元がどんな花かわからないほどにぐちゃぐちゃに踏み抜かれていた。
屋根の上から俯瞰で見てみたが、ここは大きい通りが南北に通っていて、どちらにいったのかは見当もつかなかった。
外国人だろう、その手がかりだけで推測をするのは無理というものだ。
(——考えるのよ、コスタンツァ。私がさらわれたとしたら、どうする。薬を嗅がされたとしたら、意識が途切れる一瞬の間に、何ができる?)
お嬢様の衣服を思い返してみる。
最近買い足した、かわいらしい空色のベルスリーブのワンピースに揃いの靴。
良家のお嬢様にしか見えない、仕立てよく、余計な宝石飾りはなくレースと刺繍で飾られていた。
ネックレスは、自身で作ったという革ひもで、蜂蜜色のガラスを複雑な網目で編んである、マ・クラメ……。
蜂蜜色のガラス?
そう、あのネックレスを外すことくらいなら、意識が途切れる間際でもできるはず。
「コスタンツァ、お嬢様のネックレスを発見した」
ネックレスに思い至った時、ベルナールから痕跡発見の声がかかった。
その地点は、誘拐されたとされる地点より東に五十メートルほど行った、物陰。
「襲われてから、少し移動したのね。……ベルナール、これ、ガラスだけだわ。革ひもはどこかになかった? お嬢様が編んでいるから、結び目が特徴的なはずよ」
「いや、革ひもはなかった。ガラスと一緒にあったのは、これだけだ」
彼が指し示す先には、『MRM』と書かれ、丸く囲われていた。




