29.奪われた光、動き出す影
ルナリス嬢が戻らない。
そう報告が上がったのは、彼女を出迎えるために、自室で身支度していたときだった。
「どういうことだグレン。ハルト卿とライト卿はどうした」
「両騎士ともに行方がわからないとのことで……」
「なんだと!」
目の前が真っ赤に焼けつくような怒りがこみ上げる。
彼女が狙われる可能性は考えていたが、実際に狙われているという報告は上がっていなかった。
彼女が自分の手の中からいなくなってしまうなんて、考えられなかった。
沢山の護衛をつけると彼女が萎縮するからと、最小限に控えていたのが裏目に出てしまった。
「捜索隊を編成して、捜索に当たらせろ。グレン、コスタンツァとベルナールを呼べ」
「はっ? あ、承知しました。ただいま呼んでまいります」
さっと出ていくグレンの後姿を見ながら、内心ではどうしようもなく腸が煮えくり返っていた。
公爵家が彼女の価値に気づいて連れ戻しに来たか。それとも、元婚約者のほうか。
もっと違う勢力が彼女を奪いに来たのか。
「第一皇子殿下、お呼びでしょうか」
コスタンツァとベルナールが駆けこんできた。
二人とも、なぜ呼ばれたのかはすべてわかっているようだ。
いつものお仕着せではない、第一皇子直属の隊服に身を包んでいる。
きっとこの二人ならば、何か情報を掴んでくるはずだ。
グレンが捜索隊の編成に向かったことを確認し、私は口を開いた。
「二人とも、呼ばれたわけはわかるな。今はどれくらい動かせる」
「およそ三十名程かと。すでに支度はさせて、待機しております」
「よし、行け。グレンには気づかれないように行動しろ。気づかれたら、お前たちを隠していたことを叱られて面倒だからな」
(——幼いころに私を襲撃してきた二人の暗殺者を、侍女と執事に転職させて子飼いにしていたなんて知れたら、何を言われることか)
二人はさっと一礼すると、素早く出て行った。
あの二人に身辺警護を任せていたら、こんなことは起きなかったかも、と考えが浮かび、頭を振って打ち消した。
例え、グレンが、いやあの二人が自ら警護していたとしても、きっと今回の事はいずれ起きたのだ。
考えてもしょうがない。自分にできることをするだけだ。
「よし、国境を閉鎖のための伝書鳩は出したな。早馬と応援部隊もすぐに発て。旗を忘れるな」
グレンが置いていった護衛騎士に、矢継ぎ早に指示する。
どこへ行くにしても、国から外には逃がさない。
すべての国境を塞がねばならないが、まず一番近いリマントンからだ。
敵に先手を打たれている。後手に回ってしまったが……。
(絶対にルナリス嬢を取り戻す)
そう心に誓い、私はぎゅっと拳を握りしめた。




