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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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23.「お嬢様」と呼ばれて戸惑う夜

自室にご案内します、との侍女に連れられたのは、『緑の淑女(ダーマインヴェルデ)』と名前のついたパビリオーネだった。

夜ということもあり、月明かりに照らされて淑女のように佇んでいた。およそ、一人に与えられるようなものではないはずだった。


「あの、これは何かの間違いなのでは……」


「いえ、ラントンお嬢様。第一皇子殿下より、失礼のないよう、誠実にお仕えするように申し使っております。本日より、どうぞよろしくお願いいたします。後ほど、パビリオーネの使用人、全員でご挨拶させていただきます」


深く頭を下げたのは、侍女頭のコスタンツァ、というらしい。

母より少し年上くらいのグレーヘアをひっつめにし、眼鏡をかけている。厳しそうな見た目とは裏腹に、優しげなばあやのような雰囲気の女性だった。

首の詰まった黒のドレスワンピースに、白いフリル付きのエプロンをし、ヘッドドレスをつけていた。腰には、屋敷中の鍵を預かっているのだろう、鍵束がぶら下がっていた。


パビリオーネの扉前には、制服に身を包んだ騎士が並んでいる。

騎士たちからも礼を受け、ドキドキしながら、パビリオーネの玄関をくぐった。そこは、昼と見間違うばかりに明かりが灯され、今日から世話になる使用人たちが揃っていた。


「ラントンお嬢様、本日より、どうぞよろしくお願いいたします」


執事であるらしい、これまた好々爺のような男性の合図で、一斉に深く礼をとっている。私だけのために、これだけの人数が集められたらしい。


(――今日からここが我が家なのだわ)


「皆さん、頭をあげてください。私はルナ・ラントンと申します。こちらのほうこそ、本日よりお世話になります。何か至らないことがあったらご指摘くださいませ」


ふわりとカーテシーをすると、早速好々爺が私に声をかけてきた。


「ラントンお嬢様、使用人にそのような真似をなさるのはいけません。毅然とした態度で、私共に接していただければと存じます。しかしながら、お困りの際は喜んでお手伝いさせていただきます。なんなりとお申し付けくださいませ」


真っ白な白髪に、撫でつけられた髪。背筋はピンとして、細身の体に燕尾服とジレがよく似合っている。片目にはモノクルをし、白い手袋、黒のクラバットを締め、シャツは皺なく隙のない装いをしていた。名前は、ベルナール。


「わかったわ、ベルナールさん、いえ、ベルナール。これからよろしくお願いするわ」


今度は大丈夫だったらしい、ベルナールがニコッと笑ってくれた。

使用人はメイドや侍女、下働きの下男や庭師や馬番含め、十二名ほどがいるそう。護衛騎士たちも含めると、なんと総勢十八名の大所帯。


私だけのために、こんなパビリオーネを貸してくださっただけでなく、使用人まで。


(――申し訳ない気がするけれど、第一皇子殿下の好意を無下にすることもできないわ)


「ラントンお嬢様、今日はとてもお疲れのご様子です。お食事はお部屋で取られると伺っておりますので、後ほどお持ちいたします。その前に、お部屋にご案内いたします」


コスタンツァの言葉で、使用人たちが一斉に持ち場へと戻っていった。


部屋は、二階にある、南向きの一番大きな扉の部屋だった。この部屋こそが『緑の淑女(ダーマインヴェルデ)』という名前を冠する部屋なのだそう。

そっと扉を開くと、緑に統一された品のよい調度品が目に飛び込んできた。この部屋は、昼間にみると真の価値がわかる、とのことで、鑑賞は明日に後回しにすることにした。


コスタンツァと一緒に、持ち込んだ荷物が整理されているのを確認していると、先ほど玄関ホールにいた若い侍女が湯気の立つ夕餉を持ってきてくれた。


今晩はブラウンシチューのようで、ゴロゴロと大きめに切られたお肉がホロホロに煮込まれ、口の中でとろけていく。ブロッカリーとナンジン、チャカイモは煮崩れず、しかし、しっかり味が染み込んでいた。

柔らかな小麦の香り漂う白パンをシチューにつけて頬張ると、じゅわっと口の中に旨味が広がり、天にも上りそうなほどのおいしさだった。


夢中になって平らげ、少し休もうとコスタンツァが入れてくれたお茶を飲んでいると、ウトウトと眠気が押し寄せてきた。


(――お風呂に入って、明日の準備をして……)


と思う内、絡みつくような睡魔の誘惑には勝てず、そのまま深い眠りへと落ちていった。

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