20.知らないのは私だけ?
「初めまして、セレニータ帝国第一皇子、レオナルド・ディ・ルミナーレと申します。突然の来訪をお許しください。こちらは近衛騎士のグレン・ライハルト。これからの交流が、互いにとって実り多きものになることを期待しています」
そう自己紹介した皇子殿下は、胸に手をあて、背筋を伸ばしたまま腰から折るような美しいボウをして見せた。
「ルナ・ラントンと申します。私のような者に、そのようなお言葉を。身に余る光栄に存じます」
ゆったりとカーテシーをすると、周りの空気が変わったような気がした。
「ラントン嬢と呼ばせてもらうよ。さ、セシルもいったん研究室で話をしようか」
ぞろぞろと移動し、各々ソファに腰かけた。
いったいこれから何が始まるの。皇子殿下と同じ部屋にいるなど恐れ多い事だけど、楽にしろとのことで。
皇子殿下の掛けたソファの後ろには、グレンと呼ばれた騎士が立っている。
「あの、第一皇子殿下がわざわざおいでになったのは、どういう訳なのでしょうか」
一番端にいたセシルが、恐る恐ると言った具合で、手をあげながら声を発した。
「それはね、ラントン嬢のことで、話があったからだよ。そうだよね? 教授」
セシルの隣に座っていた教授が、ビクッとして体を丸めるようにした。
(——初対面の時の怖そうな印象が、ちょっぴり薄れたかも)
「さ、さようですな。皇子殿下。いや、これはまったく。うむ。そうですな」
ゴホン、と咳ばらいをして、教授が話を続けた。
「ラントン嬢、今朝ほどは大変な無礼な振る舞いをし、大変申し訳なかった。まさか本当に、無色の乙女だとは思わなかったのでな。試験をさせていただいたというわけだ。実をいうと、クリアするとは思っていなんだ。何かの間違いだろうと思ってな。いやしかし、これはすべて言い訳にすぎん、大変申し訳なかった」
二度の謝罪と共に、深々と頭を下げる教授に対し、私は慌ててしまった。
(——無色の乙女って、なんのことなのかしら)
「頭をお上げください、ガスパール教授。謝罪はお受けいたします。でも、無色の乙女とは、一体なんなのでしょうか」
「なんと、本当に知らないのですかな。では分かりやすいように、こちらをご覧ください。今は帝国民ですら、読まない絵本なのですが」
そう言って差し出してきたのは、一つの古びた絵本だった。
『無色の光の乙女』
表紙には、そうタイトルが記されていた。




