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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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15.訳ありドレスと幸運な出会い

「ルナちゃん、あ、お客様だから本当はいけないんだけど。いいかしら」


 コクリとうなずくと、優しそうに笑ったマーサさんがそのまま続けた。


「ありがとうね。このままルナちゃん、って呼ぶわね。ところで、今日はなにか探し物? かなり悩んでいるようだったけれど」


 私は正直に、仕事が決まったこと、自分で洗濯できて脱ぎ着のできる、目の詰まったリネンのドレスが欲しいこと、ただし華美でないものを希望することを伝えた。

 マーサさんは驚いたようだったけれど、少し待つよう言われ、売り場をプラプラと歩いて時間を潰した。


(――あ、靴のことを伝えるのを忘れた! マーサさん、二度手間になってしまうかも。ごめんなさい)


「ルナちゃん、これなんてどうかしら。サイズは多少なら詰められるから大丈夫よ」


 数着のドレスを小脇に抱え、箱に入った何かを積み上げ、淀みない足取りで歩いてくる。マーサさんの顔が見えないわ。けれど、慌てて駆けよると「これくらい大丈夫」と微笑まれてしまった。


(――え、このお店の方ってこれが普通なの?)


「さっきのルナちゃんの話を聞いて、そうだ! と思ったのよね」


 試着室にドレスや箱をドサリとおろしたマーサさんは、一息ついて、話してくれた。


「三か月前かな。ルナちゃんと同じくらいの女の子が、職場用にってオーダードレスを注文してくださったんだけれど。出来上がる前に職場が合わなかったとかで、取りに来られなくて。何回か催促しても代金を支払ってもらえず未納のまま、倉庫にしまわれてたのよね。これなんだけど」


 そう言って、順番に見せてくれた。

 装飾を極限まで削ぎ落とした、けれど丁寧な仕立てのリネンドレスだった。指先で触れると、リネン特有のさらりとした、けれど芯のある強さを感じた。


 深い夜の色をしたそのドレスは、背中の編み上げがない。代わりに、胸元には同じ布で包まれた小さなくるみボタンが、一列に律儀に並んでいる。これなら、誰の手を借りずとも、自分だけで身支度を整えられる。


「作業もしやすそう。それに、この生地なら……」


 華やかさはないけれど、鏡の前で合わせてみると、無彩色の私の瞳が、濃い紺色の生地に映えて、まるで研ぎ澄まされた水晶のように透き通って見えた。


「これいいでしょう? 一番ルナちゃんに合うと思ってたの。それから、これも」


 基本は同じ形のドレス。けれど、グレーのようにも銀のようにも見えるそのドレスは、袖口にレースがあしらわれており、地味に見えるのに目が離せない、そんな魅力を放っている。


「それからこれね」


 少し襟高のドレス。テラコッタカラーで首元が隠れる分、袖口がベルスリーブになっていて、バランスを取っているみたい。


(――袖が邪魔になるんじゃ)


 と思っていたら、これには袖口を止めるための紐がついていて、作業中はこれで止めればいいということだった。


「マーサさん、全部素晴らしいです! ちょっと大きいですけど、これ以上詰めたら動けなくなるかもしれませんし。三着とも、このまま購入できますか?」


「そう? 肩口とかちょっと詰めたほうがよさそうだけれど」


 うーんと言いながらマーサさんが私の周りをぐるりと回った。


「そうね、この程度ならいいかもしれないわ。そうそう、そろいの靴もあるのよ。足のサイズは合うと思うのよね。ほら、どうかしら」


 奇跡のように、足のほうはぴったりだった。これもこのまま購入していこう。


(――編み上げブーツとはここでさよならね)


「マーサさん、それで、代金はおいくらになるのですか。オーダードレスとそろいの靴が三足、かなりのお値段と思うのですが……」


「あ、それなら心配いらないわ。全部で金貨九枚だから」


「えっ、そんな! 何かの間違いではないでしょうか。金貨十八枚にはなるはずですよ。だってこんなに上質で、オーダーだし、靴もあって」


 あまりにお安すぎて、身振り手振りで説明してみたけれど、ふふふと笑うマーサさん。


「いいのいいの。このまま眠らせておいてももったいないし、もう未納で帳簿処理しているの。ただであげてもいいくらいなんだけど、それだと流石に私が怒られちゃうからね」


 いたずらっ子のように笑ってウインクしてくれたマーサさんのご厚意に甘えることにした。

 薔薇の雫亭(ローズドロップイン)の宿代で金貨四枚と銀貨六枚を支払い、ドレス代は本当にギリギリだと思っていた。心から安堵した。


(――お金に悩まされることくらい、辛い悩みはないわ)


「実をいうとね、私、結構偉いのよ。だから、何か困ったことがあったら、いつでも相談に来て頂戴ね」


「――あの、マーサさん、ほかにも化粧品とか、ネグリジェとか細々したものが入用で……このまま他もいいですか?」


 あらまぁ、と笑うマーサさん。

 本当に偉い人だったみたいで、お手頃だけれどいいものを選んでくれて、大荷物になった私ごと、お荷物お届けサービスの馬車で「薔薇の雫(ローズドロップイン)」まで送ってくれた。


 このマーサさん、「月桂樹の輪(ローレルサークル)」の大物で、今後ルナリスは末長い、それは長いお付き合いを続けることとなるが、それはまた別の話。

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