【閑話】 第一皇子の強要
「やぁ、エマ。今日はオーウェンはいるかな」
職業紹介所に入ってすぐ、エマの姿を見つけて声をかけた。
振り返ったエマは、すぐに私が誰かわかったらしく、「お待ちくださいませー!」と言いながらオーウェンを呼びに走っていった。
こういうの、目立つからあんまりやってほしくないんだけどなぁ。
ほら、みんなびっくりしているよ。
「お待たせしました、第一おう……レオ様!」
奥から走ってきたオーウェンは、すでに顔色が悪い。
汗もビショビショにかいて、ハンカチが気の毒になった。
「奥に入らせてもらっていいかな。いいよね? オーウェン」
コクコクとうなずくオーウェンを尻目に、奥に入らせてもらうことにした。
ソファにどっかりと腰をおろすと、オーウェンとエマは恐縮したように立ち尽くしている。グレンはソファの後ろに直立不動の姿勢で立っていた。
「それでね、彼女、は誰なのかな」
「恐れながら、彼女とはどなたのことでしょうか」
「オーウェン、オーウェン。とぼけちゃだめだよ。さっき広場で乗馬していた、銀の髪の彼女だよ。わかるだろう?」
ダラダラと汗をながすオーウェンが黙って、スキルシートを差し出してきた。
「ルナ・ラントレ。平民なのに姓があるのは珍しいな。帝国貴族に、この姓のものはいない」
グレンに差し出すと、黙って首を横に振った。知らないということだろう。
「このスキルなら、貴族だろうな。グレン、彼女のことを少々調べてくれ。人員は何人使っても構わないから。ただし、口の堅いものだけに絞れ。で、オーウェン、彼女にはもう仕事を紹介したのかな」
サッと一礼したグレンが、部屋の外の部下に命令を伝えに行った。
「い、いえ。能力が高かったため、今から心当たりに彼女のことを話し、明日、紹介しようと考えておりました」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
オーウェンが相当に緊張しているようだ。エマはぶるぶる震えている。そんなに怖いかなぁ。
「それはいいことを聞いた。心当たりって、例の伯爵家だろう? 彼女はもったいないさ。私のところの工芸総監のところに彼女が欲しいなぁ。ねぇオーウェン、1件くらい案件を追加してもいいだろう?」
にっこり笑ってねだってみると、顔が真っ白で汗だくの彼と目が合った。
まぁ、僕が言ったら入れないわけには、いかないよねぇ。
「も、もちろんです。ほかは、王宮の臨時講師にしようと思っておりました」
「あーあの雑用のね。人手不足で大変なのはわかってるんだけど、彼女はもったいないさ。使いつぶされてしまうよ。安月給なのもあるしね。私のところを選ぶように、うまく話をつけてくれ。給料は一番いいはずだし、休みもそこそこ。条件は悪くないはずさ。彼女なら、工芸総監とうまくやるだろうしね」
ふふふと笑うと、いつの間にか戻ってきたグレンがいぶかしげな顔をしているが、まぁ、そのうちわかることさ。
「承知いたしました、第一皇子殿下」
深々と頭を下げる二人にひらひらと手を振って、王宮へと帰ることにした。
(――さて、早く彼女を迎え入れる部屋を用意しないとね。どんなものが好きかな。あ、その前に工芸総監に話をしないといけないか)




