13.彼女の知らないところで、全ては動き出している
「エマさん、ルナです。本日もお世話になります。」
翌日、また職業紹介所を訪れ、エマさんに挨拶した。
(——今日はどこに紹介してもらえるのかしら。)
と、ワクワク半分、怖さ半分である。
「ラントレ様、すぐにご案内しますね。」
昨日と同じ執務室に通され、オーウェンさんも間もなく現れた。昨日よりなんだか具合が悪そうな顔色で、心配になる。
「ラントレ様、昨日お約束したお仕事の案件、三つご用意しましたので、ご紹介しますね。」
目の下に隈を作ったオーウェンさんが、詳しく教えてくれた。
一つ目。伯爵家の家庭教師。十歳になるご令嬢の家庭教師を探しているそうで、今まで何人も辞めさせている、少々困ったご令嬢とのこと。住み込み可で、お休みは月に四日。お給料は金貨二十五枚だとのこと。今日からでも受け入れOKだそうで、相当お困りなのがわかった。
(——ちょっと保留ね。困ったお嬢様相手は苦手かもしれないわ。)
「ありがとうございます。オーウェンさん、この件は私には少々難しいかもしれません。お嬢様を教育だできるだけのスキルがないかと存じます。」
二つ目。王宮の臨時文官。文官といっても臨時なので、通常のような国の運営にかかわることはできないそう。細々とした雑用や、雑多な書類整理など。入寮可、お休みは同じく月に四日。寮費と食費、雑費で月々金貨六枚かかるらしい。お給料はちょっとお安くて、金貨十八枚と銀貨五枚。入寮は五日後から可能。
(——いくら臨時でも王宮となると、私には苦しいかもしれないわ。)
「王宮だなんて、願ってもないのですが、この国のマナーを本格的に習っていないので、失礼があるかもしれません。最後をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「最後なのですが、、、。」
オーウェンさんは、何度も口を開いたり閉じたり、口に出すか出すまいか、とても悩んでいる様子で教えてくれた。
(——昨日以上に汗をかいているみたい。もしかしてご病気なのかしら。)
三つ目。セレニータ帝国の新部署での開発部門の臨時職員。昨年から新しく設置された部署だそう。帝国の学園の教授が工芸総監という名前の上役で。最初はよかったそうだけど、そこの工芸総監が気難しい方とかで、どんどん人がやめていき、一定水準の教養がある人であれば、誰でも雇い入れるんだとか。通いでも住み込みでもいいそうで、住み込みなら三食付きで、月々金貨三枚という破格さ。お休みは月に六日もある。給料は金貨二十九枚八銀貨。
(——教授の気難しさが引っかかるけれど、これが一番いいかも知れないわ。マナーが多少お粗末でも、許してもらえるんじゃないかしら。甘い考えかもしれないけれど。)
「オーウェンさん、ありがとうございます。三つ目がよさそうに思うのですが、こちらは私程度で大丈夫なのでしょうか。一番はマナーや言語なのですが。」
「ええもちろん。先方からの希望、あ、いや、ゲホン。一定水準以上の教養をお持ちですから、十二分に大丈夫ですよ。しかし、よろしいのですか。もしかしたら、工芸総監殿と合わない可能性も、イタタッ。」
エマさんがオーウェンさんの足を、これでもかと踏んづけているのが見えた。
「あら、お二人ともどうされたのですか。」
「いえいえ、なんでもありません、御心配には及びませんよ。」
エマさんがぎこちなく笑みを浮かべた。
「ご安心ください、ラントレ様。自信をもっておススメいたしますよ。住み込みでよろしいですか。三日後には、部屋が整うそうですよ。」
「ありがとうございます。では、お願いします。」
「はい、かしこまりました。」
オーウェンさんが足を痛そうにしている間に、エマさんと話をして決めてしまった。
(——もしこの選択が間違っていたとしても、私が決めたことだもの。何度だってやり直せるわ。)
その後、服装や持ち込んでいいものなどを詳しく聞き、職業紹介所の登録カードを受け取った。このカードが身分証明兼紹介書になるとのこだった。このまま必要なものを買うため、月桂樹の輪に向かうことにした。
「エマ、お前、心配じゃないのか。」
手を振って去っていくルナリスの背を見つめながら、オーウェンがぽつりと呟いた。
「だって、第一皇子殿下からごり押しされているのに、私達ごときが止めることなんてできませんよ。オーウェン様だって、無理でしょう?」
ため息を吐きながら、エマが答える。
「まぁそうなんだが。辛い目に合わないことを祈るしかないな。」
2人で見送りながら、心の中で彼女に幸あれと祈った。




