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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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【閑話】 第一皇子の瞬き

必死に食い下がって止めに来るグレンをまぁまぁ、まぁまぁ、と幾度も宥めて、私室の外に締め出した。


豪奢な寝台の下の箱から、平民がよく着ているひざ丈のチュニックとズボン、ヨレた靴を取り出して身に着け、髪と肌に砂をつけて布でこすって汚した。装身具は外して、大事にしましておく。


第一皇子の身だが、普段は侍女に身の回りの世話をやらせるけれど、こういう時のために一人で身支度できるよう、練習しておいた甲斐があった。


ドアを何度も乱暴にノックしていたグレンは、ようやくドアが開いたと思ったら、主君が小汚い格好で準備万端にニコニコしているのを見て、がっくりうなだれた。


「後で俺が、誰にどれだけお叱りを受けると思っているのですか。」


「まぁまぁグレン。お前の分も用意してあるから、着替えて一緒に行こう。」


「——なんで俺の分もあるんですか。」


「まぁまぁグレン、細かいことは気にしないほうが、いいこともあるんだ。」


すべてまぁまぁの一言で片付けられ、殿下の手によって世話されるわけにも行かないグレンは、しぶしぶ自ら身支度した。


「はぁ——それで殿下、行く相手はあるんですか。あてもなく彷徨うわけにはいかないですよ。」


「あぁ、それなら目星はついている。カラーリス王国からほど近いリマントンに留まるとも思えない。第二都市のミラネッタに行くならば、王都からしか夜行馬車は出ていない。歩くのは、女性にとってはかなり遠い道のりだし、一人だと目立つ。とすると、リマントンから首都行きの夜行馬車に乗ったはずだ。あの騎士の報告通りなら、首都にはもう、ついているはずだ。カラーリス王国のいうところの色なしなら、まともな職もないはず。おそらく職業紹介所だろう直。まず職を探すのが先だろうからな。職業紹介所に行ってみるとしよう。久しぶりに運営状況をオーウェンに確認するのも悪くない。」


王宮の隠し通路からこっそりとグレンと抜け出した。


(——グレンの奴、顔を汚しても元の顔がいいから妙に目立つんだよな。)


通りで辻馬車を拾って、職業紹介所へと向かっている途中、噴水前の広場に人だかりができていた。御者に礼をいって降りて近づいてみると、少女が乗馬している。


人ごみの間から覗き込むようにして見たところ、サーモンピンクに小花柄のフレアワンピースにベージュのコルセットをし、茶色の編み上げブーツを履いた、細身の少女だった。エマが馬の近くにいるところから察するに、職業紹介所の乗馬テストなのだろう。


(——あんな細身の子が乗馬?)


と見ていると、横乗りをし、颯爽と駆け始めた。ドドッドドッと蹄の音が聞こえる。噴水を背に疾走する彼女は、先ほどの印象とは異なり、凛々しい乙女に思え、人々の視線が彼女に釘付けになった。


無造作に流した銀髪が日の光を吸い込んで白銀に輝き、翻る水色のストールが春の空の色を映し出す。ふわりと大きくはためくワンピースの裾は、まるで彼女が空を飛んでいるかのような錯覚さえ抱かせた。


彼女が通り過ぎた後には、まるで花が開いたかのような華やかな余韻だけが残されていた。


「春の妖精か。」


思わず口から飛び出してしまった。彼女の瞳は、無色。彼女こそが無色の乙女だった。目の前を通った時、ドクンと心臓が跳ねあがった。


(——どうした、この気持ちはなんだ。)


馬と一体化して駆けた彼女は、エマのもとに戻ると、すぐに職業紹介所へと戻ってしまった。


「グレン見たか、彼女だ。とても美しかったな。瞳は報告通りの無色。あの騎士に褒美をやることにしよう。」


こそこそと後ろに立っていたグレンに話しかけた。


「う、うつくしい?はい、でん…レオ様。どうしちゃったんですか。あ、いや、はい、彼女のようですね。」


「そうだな。しかし、平民にしてはあの見のこなし。なにか訳アリのようだ。あまり過去を探るのはマナー違反だが、、、。彼女について興味が湧いた。オーウェンから話を聞いてみることにしよう。あの分だといろいろ期待できそうだぞ。」


「い、いろいろ?色々ってなんですか…レオ様。」


「お前、さっきからちょっとうるさいな。彼女が出てきたら、オーウェンに会いに行くぞ。」


人波が引き、私たちも少し離れたところで時間を潰すことにした。私たちの後方で、カラーリス王国の侯爵家の騎士が数人、鋭い視線でこちらの様子を伺っていたことには、気づかぬままに。

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