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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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2.努力すら許されない、色なしの孤独

ガタッという音とともに、ルナリスは目を覚ました。


婚約者のアドリアンと待ち合わせをしていたのに、いつも通りすっぽかされて帰宅途中、馬車の中で眠ってしまったようだった。


辛い思い出ばかりの夢で、落ち込む。 ただでさえすっぽかされて落ち込んでいるのだから、どうせなら楽しい夢を見させてほしい。


けれど、無理もない。楽しい思い出など何もないのだから。


アドリアン・ド・モントローズ、侯爵家令息で、ルナリスの婚約者だ。 彼は淡い金髪で、クロムグリーンの瞳を持っている。


出会ったときから、どこか瞳に濁りや翳りのようなものが感じられて、あまり目を合わせたことがなかった。 家同士の家格の釣り合いと、経済的利益によって結ばれた婚約だ。


十歳の頃に結ばれた婚約に、私達の意思などあるわけもなく。 色なしの私が愛されることはない、と思うけれど、ほんの少しの歩み寄りも見せない彼のことはまったく好きではない。


それでも、将来は伴侶になるのだからと、月に一度の交流を持とうとしている。


だが、こうして反故にされてしまう。 今月こそは、と思っても、毎回期待が裏切られ、心がすり減る一方だった。


まれに手紙が来たかと思えば、トラブルの解決の知恵を貸してほしいとか、来客のもてなし方法について助けてほしい、というような手紙で。


「こういうときばかり、調子が良すぎるわ。」


思わず文句が口から飛び出すけれど、見捨てるわけにも行かなくて、助言を書いて返事をしている。 ただ、お礼の手紙はもらったことがなかった。


色なしであることの引け目をなんとか補おうと、努力はしてきた。


色なしに教えることを渋り、何人もの家庭教師が去って行ったが、残ってくださった数名の先生が、私に厳しく教えてくれた。 大陸共用語を始めとした言語、算術、学術、礼儀作法、刺繍に芸術、ダンス、乗馬など。


将来は夫となるアドリアンを支えるため、ありとあらゆる努力をした。


「——ルナリス様、この数式の解法、どこで学ばれたのですか?この解法はまだお教えしてないはずです。」


私は小さく答えた。


「あの、図書室の本を、読んで応用してみただけです。」


「なんと。本だけでこのような。」


最初は差別的感情を隠さず、鞭打ちや過剰な叱責などをされた先生方からも、お褒めの言葉をいただけるようになった。 褒められたことなどない私は嬉しくて、勉学に励む時が唯一、心が休まる時間だった。


しかし、妹よりも褒められるようになり、両親の怒りを買ってしまった。 特に父の怒りは凄まじかった。


「色なし風情が調子に乗りおって!」


と罵られ、先生方はクビにされてしまった。 叱られているときはどこか他人事のように感じ、遠くに意識を飛ばしていた。


そうしなければ、その場に立っていられなかったから。


悲しみに沈む私を期待していたらしい使用人たちは、感情を表に出さず、父に言われることを黙って受け止め、俯かずに凛と前を向く私に興味を失ったようだった。


涙が零れ落ちそうだったが、唇をかみしめ、なんとか我慢した。 口内に鉄の味が広がり、なかなか消えてくれなかった。


それ以来、図書館や自室でコソコソと隠れて自習する日々である。


時折、廊下でフェリシーに会うこともあった。


「お姉さま、今日もお人形のような何も映さない瞳ね。お姉さまにとってもぴったりだわ。あ、でもお姉さまに会うなんて、なにか悪いことが起こらなければいいのだけれど。」


桃色の瞳がきらりと輝き、クスクスと笑われて、この世から消えてしまいたくなった。


愛らしい桃色、そう褒めそやされるのを聞くたびに、ギラギラとした色の底で、死んでいく別のどす黒い色が見え、素直に美しいとは思えなかった。


でも、もうそんな日々はもうじき終わる。


数年すればアドリアンと結婚し、この家を出ていける。 その日を心の支えに、日々を生きている。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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