11.職探しは波乱の予感? ざわつく受付と謎の呼び出し
アンさんに教わった通り、職業紹介所を訪れていた。
街の景色に溶け込むような、淡いコスモス色の石造りの大建築だった。見上げるほどに高いアーチの入り口の上には、帝国の象徴であるオオカミと月桂樹の紋章が誇らしげに掲げられている。
(——ここが、新しい仕事を探すための場所なのね)
窓から漏れ出す光は温かく、入り口を抜ける人々の表情もどこか明るい。カラーリス王国の、あの冷たく閉ざされた公爵家の門扉とは何もかもが違っていた。
(——ここで仕事を見つけて、虐げられた過去の人生を忘れるくらい、自由で楽しく過ごすの。大変なこともあるかもしれないけれど、あの家での事を思えば、なんでもできるわ。そして、いずれお店を持って、お休みの日には子どもたちに勉強を教えたい。やりたいことならたくさんあるの)
一歩足を踏み入れると、そこは外の喧騒が嘘のように穏やかで、それでいて人々の熱気に満ちた空間だった。
高い天井の先にある大きなバラ窓からは、朝の柔らかな光が降り注ぎ、大理石の床に宝石を撒き散らしたような色彩を落としている。
(——すごい……。なんて立派な場所なの)
磨き込まれた長い受付カウンターの奥では、大勢の職員たちが相談者の話に熱心に耳を傾けていた。壁一面に広がる掲示板には、数え切れないほどの仕事の依頼がピンで止められ、整然と並んでいる。
カラーリス王国では、瞳の色だけで門前払いをされるのが当たり前だった。けれど、ここでは話を聞いてもらえる。ルナリスは胸に手を当て、トク、と高鳴る鼓動を感じた。
(——ここでなら、私も、誰かの役に立てるかもしれないわ)
そっと受付に近づくと、ポニーテールの受付嬢が歩み出てくれた。
「職業紹介所にようこそ。ここにいらっしゃるのは初めてですか? もし初めてでしたら、一番最初に登録カードを作らせていただきますので、こちらに必要事項を書いて、受付に提出してくださいね。登録には銅貨六枚いただきますので、ご準備お願いいたします。申し遅れました、私はエマと申します」
スキルシートと羽ペンを渡され、必要事項を埋めていく。
氏名、年齢、趣味や特技、長所短所、話せる言語、希望する仕事や、住み込みを希望するかなど。勉強していたことが無駄にならないといいけれど、と祈るような気持ちで書いた。
「はーい、拝見しますね。お名前はルナ・ラントレさんとおっしゃるのですね。趣味はマ・クラメ? 特技……ふむふむ、ん? んん?? ラントレさん、こちらに記載いただいた内容は、すべて本当のことでお間違いないでしょうか」
「え? ええ。そうです。嘘は書いていないかと思いますが」
エマさんが急に怪しむような顔で、書類と私の顔をいったりきたりチラチラと見ている。
(——なにかマズイことを書いた?)
急に不安になり、落ち着かなくて手を開いたり握ったり、ソワソワしてしまう。
「私の一存では判断しかねますので、上長に確認して参りますね。少々お待ちくださいませ」
タタッと走り去るエマさんは、少々ハゲ気味、いえ、頭髪がお寂しい中年男性のもとへ走り寄ると、小声で何かを話し合っている。
時折二人でこちらをチラッと見るのが、不安な気持ちを増長させる。
ややしばらくして、エマさんが戻ってきた。
「ラントレさん、少々お時間いただいて、奥でお話を伺ってもよいでしょうか」
「ええ、大丈夫ですわ」
受付カウンターの奥の応接に通されるようだ。
相談者たちの好奇の視線が背中に突き刺さるのを感じた。




