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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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9.さよなら、夜行馬車の賑やかな友人たち

馬車の中は、早朝からとてつもなく賑やかだった。 御者が時折振り返って目を細めていたが、おばさま達に睨み返され、何も言えずに肩をすくめている。


(——おばさまのパワーってすごいのね)


私の手持ちの革紐だけでなく、刺繍糸や麻紐、毛糸にリボン、レースまで飛び出した。 皆が教えた包み方を真似して、めいめいに色んなものを包み始める。


ビー玉のようなガラス玉、小ぶりの宝石、水晶の結晶。 そのうちに、教えていないようなアレンジまで加わり、ネックレス以外にもバッグやタペストリーまで出来上がり始めた。この馬車の中でお店が開けそうなほどだ。


こんな知識で、皆に喜んでもらえるなんて。 とても誇らしい気持ちになった。


(——人の役に立つのって、こんなに嬉しい気持ちになるのだわ)


「そういえば、この編み方ってなんていうの?」


「あ、お教えしてなかったですね。ミクラムって言うんですよ」


「ミクラムかぁ。……もしかして、カラーリス王国から来たの?」


背中を冷たい刃で刺されたような悪寒が走った。 ここ数日、気を抜いていた。こういうことを言われる可能性は、想定していなければならなかったのに。


「——っ、あっ、えっ。はい、そうですけど……なぜ、どうしてわかったんですか」


できるだけ悟られないように動揺を抑え、聞き返してみた。


「ミクラムって、カラーリスの言葉かなって思って。もしセレニータ風に言うなら、そうね。マ・クラム……かしら」


言葉遣いまで、気を付けなければいけなかったのだ。


「ありがとうございます。今後は気を付けますね。マ・クラム、マ・クラムです」


自然に笑ったつもりが、少し顔が強張ってしまったかもしれない。 一瞬、気まずい空気が流れたけれど、アンさんがうまく取り成してくれた。


昼を過ぎたころ、徐々に王都ロミアーナがその姿を現した。


アンさんから聞いていた通り、遠目にも紅花石(ペルロザータ)の淡いピンク色が見えてきた。 雲一つない晴天にピンク色がよく映えて、とても美しい。


目に見えないはずの光の粒子が踊り、複数の色が混ざりあってキラキラと輝いている。 これから私はあそこで生活するんだと思うと、その光が私を祝福してくれているように感じた。


「はい、長旅お疲れ様でした! 王都ロミアーナに到着! またリマントンに戻る方は、四日後にここに来てくださいねー!」


馬車が止まると、御者が一息に叫びだした。


「ロミアーナに就職の方は、職業紹介所へ! お泊りならすぐそこ『薔薇の雫亭(ローズドロップイン)』! お買い物なら、石鹸から鍋、手頃なお着替えにお土産までなんでもござれ『月桂樹の輪(ローレルサークル)』! お風呂なら日帰り温泉施設(リトスパ)自由の泉(リベルタ・フォンス)』までー!」


(——これだけ知っておけば、なんとか生活はできそう)


「あれって宣伝料をもらってるのよ」と、アンさんがこっそり教えてくれた。 持ちつ持たれつ、うまくできている。


感心していると、一緒に過ごした女性たちが次々と声をかけてくれた。


「ルナちゃん、マ・クラメを教えてくれてありがとうね。またどこかで会えたらいいわね」


「ルナちゃん、元気でね。またね!」


二日間一緒だった皆さんに、精一杯手を振ってお別れをした。


ルナリスは、まだ知らない。 この『マ・クラメ』が、後にセレニータ帝国で大流行することを。


アクセサリーにとどまらず、ベッドカバー、ラグマット、ドレスにスカートと、信じられないほどの発展を遂げることを。


そして、最初にこの技法を持ち込んだルナリスが、後に深い敬意を込めてこう呼ばれるようになることを。


——『ルナリス・ラ・(結ぶ乙女)レガッツァ』と。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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