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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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8.きれいな瞳と言われて。初めて知った人の温もり

帝都までは、丸二日、馬車に揺られることになる。 途中、一日目の夜は幌馬車で野営になるらしい。


さすがに馬も御者も二日間眠らずに移動するのは無理だということは、世間知らずな私でもわかる。


日中は小休憩が何回かあるものの、基本的にはずっと馬車に乗りっぱなしだ。 ほかの乗客は暇つぶしを用意していたようで、刺繍や編み物、読書や昼寝など、思い思いに過ごしている。


ふと、気になっていたことをアンさんに尋ねてみた。


(……私の瞳を見たはずなのに、なぜアンさんは親切なままだったの? 隣国に親族がいるからだと思っていたけれど)


「あら、珍しいきれいな瞳ねって思っただけよ」


アンさんは事もなげに言った。


今まで言われてきたこと、されてきたことが走馬灯のように思い出され、喉の奥がツキンと痛くなった。 上を向いて泣くまいと我慢したのに、あっという間に視界が歪み、堰を切ったように涙が溢れだした。


十八年間、誰にも言われることのなかった、たった一言。


それが暗闇に輝く星のように、温かく私の心を照らしてくれた。 ずっと、存在を認めてほしかった。どん底から救い上げてほしかった。


胸の奥で押し殺して泣いていた私を拾い上げてくれたのは、家族でも、婚約者でもない。昨日出会ったばかりのアンさんだった。


「ひっ、う、うあぁ……っ」


突然みっともなく泣き出した私に驚き、ほかの乗客たちがわらわらと集まってきた。


編み物をしていたおばあさまは、編み上がったばかりのストールを私に巻いてくれた。 刺繍をしていたおばさまは、帝国の国章である『狼と月桂樹』が刺されたハンカチを差し出してくれる。


慌てて返そうとしたけれど、


「いいのよ、貴女にあげる。今の貴女に必要なものよ」


とおばさまは優しく微笑んでくれた。 アンさんも私の背中をトントンと、涙が止まるまで撫で続けてくれる。


「どうしたの、大丈夫よ。辛かったのね……」


その優しさがまた嬉しくて、泣き止んだ後もしばらく甘えてしまった。 ほかのおばさま方や、私より幼い子まで、私が落ち着くまでずっとそばにいてくれた。


ようやくひと心地ついた頃には、目はパンパンに腫れ上がり、前がよく見えないほどだった。 それでも、皆さんに何かお礼をしたい。


鞄の中に何かないかと探してみる。 大した持ち物はなかったが――ひとつ、思い当たった。


(そうだ、あのネックレスがあったわ!)


成人の儀の時に押しつけられたネックレスを、鞄に放り込んだままだった。 蜂蜜のような色合いの、オレンジの色ガラス。これならプレゼントしても喜ばれそうだ。


さらに、ブーツの革紐が切れた時用の予備も大量にある。


(こっそり公爵家の備品庫から持ち出してきてよかった。でも、ただガラスを通すだけじゃ芸がないわね……)


そうだ、と私は思いつく。 結び目で幾何学模様を作りながら、宝石を包む技法。 遠い昔に侍女の間で流行ったそれを思い出し、一つひとつ心を込めて編んでいった。


夢中になっているうちに、馬車は野営の場所に到着した。


前の小休止で御者が卵サンドと野菜スープを買い込んでいたため、あとは火を起こすだけだ。


(夕飯付きであの運賃って、意外とお得なんじゃないかしら)


木を拾い集めて火を起こし、熾火になったところに大きめの石を置いて鍋を乗せる。 直火だと鍋底が焦げてしまうらしい。


こうした生活の知恵も、一人暮らしのために心のメモにそっと書き留めた。


少し早めの夕飯後、色ガラスのネックレスをみんなに渡すことにした。


「皆さん、これ、色ガラスなんですけど……先ほどのお礼に、あの、よろしかったら……」


編み込み方を少しずつ変えたネックレスをそっと差し出す。 すると、「あら素敵」「かわいい」と、どこからともなく声が上がった。


「これ、どうやって作っているの? ただ紐に通したわけじゃないのね。編み込んでいるのかしら。あら、よく見たら全部編み方が違うじゃない」


「えっ、本当だ! これどうやって作ったの。よかったら教えてもらえない?」


全部同じ色の色ガラスだからどうかなと思っていたけれど、私が思っていたよりもずっと喜んでもらえた。 みんな道中暇なようで、明日の朝から作り方を教えてあげることになった。


(——前にかなり流行ったと思ったけれど、この国には入ってこなかったのかしら。交流があまりないから、仕方のないことなのかも……)


理由を考えたけれど、お腹が膨れて眠くなってきた。 今日はこのまま、心地よい眠気に身を任せることにした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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