7.公爵家の影を脱ぎ捨てて
湯あみを終え、日帰り温泉施設のガウンに着替えた。
アンさんと待ち合わせをして、施設内の食堂で軽食をとることにした。 湯上りには名物のレモネードを飲むのが定番らしい。
スッキリとした味わいでのど越しがよく、ぽかぽかと火照った体に染み込んでいくようだった。 軽食を食べながら、昨日から気になっていた帝都のロミアーナについて、色々聞いてみることにした。
「職探しなら、職業紹介所が一番よ。変な求人はあらかじめ向こうで調べて弾いてくれるし、依頼人の身元確認もバッチリだもの。お家探しなら、住み込みの求人も出てると思うから、それを見てからでも遅くないわね。もしお家を借りるなら、職業紹介所でも紹介してくれるから、聞いてみるといいわ」
ロミアーナは石造りの街並みで、街全体が紅花石で作られているという。 夕暮れ時には街中がバラ色に染まり、広場には巨大な噴水がいくつもあるらしい。
カラーリス王国では、平民が楽しめるような場所は少なかった。 だから、どういう場所なのかいまいち想像がつかない。
(……うーん。バラ色って、リシーの瞳みたいな色かしら)
こてっと頭を傾げて考えていると、アンさんがクスクスと笑った。 ロミアーナの想像ができないことを伝えると、
「直接見るのを楽しみにすればいいわ」
と言ってくれた。
その後、日帰り温泉施設を出ると、アンさんとブラブラとお客を見て回ることにした。 セレニータ帝国風の衣服を持っていなかったため、アンさんに見てもらって、三着ほどワンピースを購入した。
すべてワンピースなのだけれど、こちらは体の線が出ないような、ゆったりとした衣服が主流らしい。 着回しできるようシンプルなものを選びたかったのだが……。
「若いのだもの!」
というアンさんの押しに負け、サーモンピンクで小花柄のもの、ブルーでホワイトレースが付いたものをおススメされて購入した。 一枚だけはシンプルなものを、と半ば無理やりネイビーのワンピースを選んだ。
着心地もよく、これからまた夜行馬車に乗るのにも都合がよさそうだった。 着ていたグレーのワンピースは、店主に頼んで処分してもらうことにした。
まとわりついていた公爵家の陰気な雰囲気が体から離れ、スッキリとして、自然と笑顔になった。
(……ブーツも新調すればよかったかしら。ロミアーナに着いたら、また買えばいいわね)
そうこうしているうちに夕方になり、停留所から帝都ロミアーナへ出発する夜行馬車へと乗り込んだ。 一度乗っているから、もう慣れたものだ。
連日座ったまま眠りにつくのは体が辛いけれど、眠っている間に目的地に連れて行ってくれるこの馬車は、本当にありがたかった。 さすがに馬車を貸し切るだけのお金は持っていない。
お財布の中には、金貨があと三十三枚と、銀貨、銅貨が少々。 あまり無駄遣いせずに倹約しないと、あっという間になくなってしまうだろう。
乗る日を意識したわけではなかったが、たまたまこの馬車は女性ばかりが乗っていた。 おしゃべりに夢中になっている乗客をよそに、私はあっという間に寝入ってしまった。
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