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第五部:概念の対話、そして父親の真意

放課後、シニェデは図書館で一人、机に向かっていた。両親の対立から生まれた「概念の衝突」というテーマは、彼女の心を掴んで離さない。量子力学、哲学、そして未来の自分からのメッセージ。これらが織りなす「概念」という壮大なパズルを解くため、彼女は資料を探し回っていた。


そんな彼女のもとへ、携帯電話の着信音が鳴る。画面を見ると、父からの着信だった。珍しいことだ。普段、業務連絡以外で父から電話がかかってくることはない。


「もしもし、お父さん?」


「ああ、シニェデか。今、どこだ?もしよければ、迎えに行こう」


「図書館にいるよ。どうしたの?」


「いや、少し話したいことがあってな。今日は早く仕事が終わったんだ」


図書館の入り口で父を待つ。父は、普段のビジネススーツではなく、少しカジュアルなジャケット姿だった。車に乗り込むと、父は無言で車を走らせる。行き先は、いつもの家路ではなかった。到着したのは、街の喧騒から少し離れた、静かな丘の上にあるカフェだった。窓からは、都会の夜景が一望できる。


「お父さん…」


シニェデが遠慮がちに話しかけると、父はコーヒーを一口飲み、静かに話し始めた。

「お前が弾いていたピアノ、聞いたぞ」


シニェデは、昨夜の演奏のことを言っているのだと気づき、少し身構えた。父は、あの演奏をどのように評価するのだろうか。感情的な母とは違い、彼の論理的な評価は、時に残酷なほどに真理を突くことがある。


「あれは、お前の技術を披露するための演奏ではなかったな。ましてや、コンクールの課題曲でもない」


父の言葉に、シニェデは戸惑いを隠せない。

「うん…そうだよ。あれは、ただ…」


「いいんだ。お前の内側から湧き出てくる、感情そのものの音だった。それは、とても理性的な音だった」


父の意外な言葉に、シニェデは驚きを隠せない。理性的。感情のままに弾いた音を、なぜ父はそう表現するのだろう。父は、シニェデの疑問を察したかのように続けた。


「多くの人間は、感情に流されると、論理的思考を放棄してしまう。それは、まさに感情というパラメータに自分の思考が支配されてしまうことと同じだ。だが、お前が昨夜弾いた音は、感情そのものを表現しつつも、それを音楽という一つのシステムに昇華させていた。それは、感情というパラメータを、別の次元から客観的に観測し、体系化している行為に他ならない。それは、論理を超えた、極めて高度な理性の働きだ」


父の言葉は、シニェデの心を深く揺さぶった。

「お父さんが言っていた『感情的な分析は、何の結論も導き出さない』っていうのは…」


シニェデが尋ねると、父は静かに頷いた。

「そうだ。だが、それは、感情をただ垂れ流すだけの行為に対してだ。感情を観測し、体系化し、新しい概念を創造する行為は、最高の理性だ」


そして父は、窓の外に広がる夜景を指さしながら、一つ話を始めた。

「人の幸福度は移動距離に比例するという説がある。この説は、単純に旅をすれば幸せになれる、という意味ではない。多くの人は、旅に出ることで新しい景色や文化に触れ、普段とは違う自分を発見する。それは、これまで自分がいた世界から離れ、別の世界を観測する行為だ。そして、その観測によって、自分の中にあった『つまらない概念』が相対化され、新しい『楽しい概念』が生まれる。それは、自分と他人との違いを、当然のこととして受け入れられるかどうかという心のあり方に繋がっている。そして、その多様性を受け入れることができる心が、結果として幸福度を上げている。私は、この説をそういうふうに解釈している」


父の言葉は、まるで一つの物語のように、シニェデの心に染み込んでいく。父は、ただ論理を振りかざすだけの冷徹な人間ではない。彼は、何かの説があったとしても、それを鵜呑みにするのではなく、その説が持つ本質的な意味を、深く、そして多角的に考える人だった。それは、母の「信義」とは異なるが、同じくらいに深い愛の形なのではないかと、シニェデは直感的に理解した。


「お母さんも、きっと…」


シニェデがそう呟くと、父は静かに頷いた。

「お前のお母さんは、人の感情という、最も不確実なパラメータを、誰よりも深く理解しようと努めている。それは、私にはできないことだ。だから、お前のお母さんの言葉を、私が完全に理解することは難しい。だが、それでも、彼女の言葉には、私にはない真理があることを知っている」


父の言葉を聞きながら、シニェデは、二人の間に存在していた「概念の衝突」が、実は「互いの概念を認め合うことのできない」という、深い根源的な問題だったことを悟る。そして、その問題は、彼女の昨夜の演奏によって、わずかに、しかし確実に揺らいだのだ。シニェデは、自分の行動が、観測者としての役割を終え、創造者としての新しい一歩を踏み出したことを、改めて実感した。

父親という存在ほど目立つくせに意味がわからないものというものはなかなか少ない気がします。

母親は目立つ場合も目立たない場合もわかりやすい。

そんなに単純ではないと思いますが。


量子とは概念を物理的に観測したものであるという仮説を衝動的に物語にしたものです。考察は自由ですし、同時多発的にみなさまにも起きた事だと思うので、批評はしていただいても構いませんが、批判はご自身でなんらかの概念でしていただければと思います。(優しく見守ってください。概念の二次創作は二次創作とも思いませんよ。恐らく私が思いついた事も何かの積み重ねで二次創作的な出力に過ぎないのです。)

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