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第四部:概念の共鳴

翌朝、シニェデは静かに目覚めた。朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋を淡い光で満たしている。いつもなら、この時間はもう両親のどちらかがリビングで新聞を読みながら、不平不満を口にしている頃だ。だが、今日は家全体が、どこか静寂に包まれている。彼女はそっとベッドから抜け出し、リビングに向かった。テーブルの上には、二つの飲みかけのマグカップが、昨日と同じ場所に置かれていた。昨夜の喧騒の痕跡は、それだけだ。両親はもう、それぞれの仕事へと向かった後だった。彼らの間に、昨夜の音楽がどのような作用をもたらしたのかは分からない。しかし、シニェデの心には、昨夜とは違う、わずかな、だが確かな変化があった。彼女は、世界が自分の行動によってわずかに揺らぐ感覚を、確かに掴んでいた。


学校へ向かう道すがら、シニェデはふと、未来の自分の言葉を思い出す。「愛する人とその概念を分かち合うことで、世界に新しい量子もつれを生み出したの」。愛する人。それは、家族だけを指すのではないだろう。もっと広く、もっと深い繋がりを築くこと。それこそが、彼女が次に取るべき行動目標なのではないだろうか。


昼休み、シニェデは屋上の隅で一人、パンを食べていた。その横に、クラスメイトのマップリンが、顔を伏せて座っている。マップリンは、いつも明るく、クラスの中心にいるような子だった。だが、このところ、彼女の顔から笑顔が消えていることを、シニェデは気づいていた。以前のシニェデならば、ただ傍観するだけだっただろう。しかし、今の彼女は違った。


「マップリン、どうかしたの?」


シニェデの問いかけに、マップリンは少し驚いたように顔を上げた。

「え?ううん、なんでもないよ、シニェデ」


マップリンはそう言って、再び顔を伏せた。その態度から、彼女が抱えている問題が、簡単に話せるようなものではないことを悟る。無理に聞き出すことはしない。それは、父の論理的な問い詰め方と同じだ。母の感情的なアプローチとも違う。シニェデが選んだのは、未来の自分が示唆した、「新しい概念の創造」だった。


「マップリン、今度、一緒に勉強しない?」


シニェデの言葉に、マップリンは再び顔を上げた。

「勉強?シニェデって、いつも一人でやってるじゃない」


「うん。でも、一人だと、いつも同じ考え方しかできないことに気づいたんだ。もしかしたら、二人でやったら、新しい発見があるかもしれないって思って」


シニェデは、正直に自分の考えを話した。それは、彼女にとって、これまでの自分を否定するような、勇気のいる行動だった。しかし、マップリンの顔には、今まで見られなかった、わずかな興味の色が浮かんでいる。


「…そう、だね。私も、最近なんだか、勉強が全然面白くなくて…」


マップリンの言葉は、まるで固く閉ざされた扉の隙間から漏れる、小さな光のようだった。彼女が抱えている問題は、きっと勉強のことだけではないだろう。それでも、その言葉の背後に隠された、彼女の心の中の葛藤が、シニェデの内面と共鳴しているように感じた。


二人の間に、新しい「縁」が生まれた。それは、母の「つまらない」概念を消費するでもなく、父の「正しい」概念を押し付けるでもない。シニェデが自ら創造した、「二人で新しい概念を探求する」という「楽しい概念」だった。この小さな一歩が、どこまで繋がっていくのかは、まだ分からない。しかし、シニェデは、この新しい「量子もつれ」が、マップリンを、そして自分自身を、新しい世界へと導いてくれることを信じていた。彼女はもう、箱の中に閉じ込められた猫ではない。未来の自分からのメッセージを胸に、自らの手で観測し、創造する道を選んだ、一人の「観測者」から「創造者」へと変わった少女だった。

量子とは概念を物理的に観測したものであるという仮説を衝動的に物語にしたものです。考察は自由ですし、同時多発的にみなさまにも起きた事だと思うので、批評はしていただいても構いませんが、批判はご自身でなんらかの概念でしていただければと思います。(優しく見守ってください。概念の二次創作は二次創作とも思いませんよ。恐らく私が思いついた事も何かの積み重ねで二次創作的な出力に過ぎないのです。)

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