***土曜日の朝***
母は僕が朝寝坊だから心配して起こしに来てくれたのだろう。
慌てて“朝ご飯の支度が!”と丸分かりの嘘までついて出て行ったのは、きっと照れ隠し。
起こすはずの自分が寝てしまったのだから、それも仕方がない。
“もしかしたら、このまえ病院に行ったことと関係あるのだろうか?”
本人も父も、全然問題ない。と言っていたけれど、あの元気で病院嫌いな母が病院に行ったことと、あの夜の父の雰囲気が気になった。
知らない間に手がさっきまで母が寝ていたところに置かれていた。
“暖かい”
朝食は、ほうれん草にブロッコリーやトマトにレタスそれに枝豆とツナの入ったサラダ。
他にはハムエッグとコーンポタージュに、コーグルト。
軽く焼いたパンの乗ったお皿の隣には、イチゴやブルーベリーなどの果実ジャムが入った器が添えられていた。
朝から手抜きは一切なく、僕の健康と好みを考えてくれている母に感謝しながら一緒に食べた。
食事を摂る前と後に祐くんは必ず両手を合わせて「いただきます」と「ごちそうさま」を言ってくれる。
そして好き嫌いなく美味しそうに食べてくれるし、必ず「美味しい」と言ってくれる。
パパも同じようにしてくれるけれど、表情を余り顔に出さないパパと違い祐くんは私に似て表情が豊かだからより嬉しく感じる。
これこそ、作った甲斐もあるというもの。
それにウチの男子は必ずと言っていいくらい、食器などの片づけを手伝ってくれるし、祐くんは洗い物を手伝ってくれる頻度が高い。
この日も「母さんは支度していて良いから」と率先して片付けと洗い物をしてくれようとした。
でも私は甘えない。
先ずは「ありがとう」と伝えて、一緒にすれば時間も半分になるからと2人で並んで食器を洗った。
正直言うと、実は私は思いっきり祐くんに甘えている。
祐くんに食器を洗ってもらい、自分の用事を済ませるよりも、こうして祐くんと並んで食器を洗うのは私にとって至高のひと時なのだ。
朝食の片づけが終わると私たちはそれぞれの部屋に分かれて、出かける支度をした。
私は祐くんのチョイスする服装が分かっているので、それに合う服をコーデした。
部屋に戻った僕は母の化粧の雰囲気と、朝僕の部屋を出て行くときに「おしゃれする」と言っていたことから、迷わず綿パンのコーデの方を選んだ。
そして最後に洗面所で髪を整えていると、お洒落をした母が鏡の後ろでニコニコと笑顔を見せていた。
「母さん、綺麗‼」
振り返った途端、僕は母に向かって言った。
母の服装は僕の綿パンよりも更に色の薄いアイボリーのチノパンに濃紺のTシャツ、それにミントグリーンのジャケット……? なんか僕の服装と色合いが似ていない??
いつもは電車を利用して行くショッピングモールに、今日は車で行った。
「さあ!ハリキッテ行きましょう‼」
車を降りた母は、初めてのホラー映画鑑賞にヤル気満々。
発券機で予約していた券を購入した母は、颯爽と売店に向かう。
「ねえポップコーン食べるでしょう?」
「あー……どっちでもいいよ」
「もーっ!はっきりしないな。 映画と言えばポップコーンが付き物でしょう。Bセットにするからポップコーンとドリンクの種類を選んで!」
BセットのポップコーンはLサイズでハーフ&ハーフの注文対応ができるので僕たちは、塩とキャラメルにしてドリンクは2人ともフルーツミックスにした。
「あと、ホットドックとか要らない?」
「いいよ、食べに来たんじゃないんだから」
「そ、そうね……」
「お手洗いは大丈夫?」
「僕は大丈夫。 母さんは行っておいた方が良いんじゃない」
「私も大丈夫よ!」
「そう? なら良いんだけれど、ホラー映画だけど、大丈夫?」
「……う~ん、やっぱ行っておく」
母は足早にお手洗いに向かって行った。
雑踏の中に、次第に消えていく母の華奢な背中を見ながら、どうか母の希望通り楽しい映画鑑賞になるようにと思った。
GW期間だけの日刊投稿予定でしたが、1日おまけしますネッ(⋈◍>◡<◍)。✧♡
次回は5月13日朝6時にお会いしましょう(^▽^)/