***土曜日の朝まで***
結局金曜日は、母をホラー映画に慣らすために費やした。
音の雰囲気に慣れてもらうため幾つものホラー映画のBGMを聞いてもらい、それから予告編は先ず映像を見ないで聞いてもらい、最後は予告編を何度も一緒に見て予備知識をつけてもらうことにした。
いつも子供みたいに落ち着きのない母が言うことをチャンときいて勉強をしている姿に、さすがに大学まで出ているだけのことはあると感心して僕もヤル気が出て熱が入る。
祐くんは思いやりがあって優しい。
私の我儘に、こんなに真摯に向き合ってくれるなんて。
高校生ともなれば反抗期で親との外出を嫌がったり、こうして一緒に勉強をすることも嫌ったりするはずなのに。
やはり私の育て方は間違っていなかった。
そう思うと、祐くんの期待に答えたくて俄然ヤル気も出て来る。
あしたは頑張らなくっちゃ!
寝る前に、あらかじめ用意していた服とは別に、もう一つ着ていく服のパターンを用意した。
あらかじめ用意していた物は、Gパンに空色のTシャツ、それに黒のパーカーと言うラフな服装。
あとで用意したのは、アイボリーの綿パンに薄いミントグリーンのボタンシャツ、それに紺色のジャケットと、少しお洒落で大人の雰囲気のある服装。
母がどのような服をチョイスするかによって、2つのうちどちらにするかを選ぶ。
親子とは言っても、一緒に出歩くのに服装が違い過ぎるのは不自然だから。
出発は8時だから、目覚ましは7時で大丈夫だろう。
どのみち母は、それより早く起こしに来るはず。
ある程度の朝食の支度を終え、お化粧を済ませ、着替える前に時計を確認した。
時間は6時45分。
この時間にまだ起きて来ないと言うことは、祐くんの目覚まし時計のセットは7時丁度に間違いない。
昨夜は遅くまで私のために頑張ってくれたからギリギリまで寝かせておいてあげるつもりだったけれど、思ったより時間に余裕があると暇を感じてしまう。
暇を感じると、悪戯心がムクムクと沸き上がるのが私の悪い癖。
ソロソロと音を立てないように階段を登り、ドアをノックしてから思った。
音を立てずに階段を登った意味がない事を。
しかしノックはマナー。
特に思春期の男子には必須!
コレを怠ると、大変な場面に遭遇してしまう恐れがあり、そうなればせっかく築き上げた良好な関係が崩れてしまう。
いまのところ祐くんにソノ兆候は見えないけれど……。
しばらく待っても返事がないので、いつものように「開けるよ」と小さく呟いてからドアを開く。
いつ見ても整理整頓がチャンと出来た綺麗な部屋に、私のリトルダーリンがスース―と可愛い寝息を立てている。
ベッドの奥にはハンガーに掛けられた洋服が掛かっていた。
しかも2種類の異なるアレンジのモノ。
きっと私の服装に合わせて選んでくれるつもりだ。
チャンと前日に出かける用意をしていてくれるだけでも嬉しいのに、私に合わせようとしてくれている心遣いに胸がキュンとなる。
様子を見るだけでギリギリまで寝かせておいてあげるつもりだったのに、愛おしくてソーッとベッドに潜り込む。
“暖かい! やっぱ祐くん最高‼”
そのまま横になっていると、迂闊にも寝てしまっていた。
「おまえ、ここで何をしている……」
どうやら、いつの間にか目覚まし時計が鳴ったみたい。
少し怒った表情で私をジッと見つめる祐くんの瞳は、まるで妖精の泉のように神秘的。
我が子ながら、惚れてしまいそうになるくらいのイケメン。
「祐くんのお布団って、あったかいネ」
「……答えになっていない」
「あっ! 朝ご飯の支度が! 祐くんも早く起きて‼」
朝ご飯の支度なんてもう終わっているのに、苦し紛れの嘘をついてベッドから飛び出す。
勢いのままドアのところまで走り、ドアを開け廊下に出る寸前で立ち止まる。
言い忘れたことがあったので伝えるため。
「私、今日チョッとお洒落しようかなって思っているけれど、いいかな?」
立ち止まって祐くんの表情をうかがう。
「良いんじゃないの、久し振りの映画鑑賞だし」
やっぱり祐くんは優しい♡