***親友、山田正人***
ピンポ~ン♪
丁度朝食を食べ終わったとき、玄関のチャイムが鳴った。
「ほら正人くんが迎えに来てくれたよ。早くしなさい」
「わかっている」
「忘れ物はない?」
「ないよ。子供じゃないんだから」
「ならいいけど」
「ハイ、お弁当。体操服は持ったの?」
「……」
僕は渡されたお弁当箱を包んである布を見ていた。
イチゴ模様の可愛い布。
これは小学1年の入学式のあと、母さんと一緒にイチゴ狩りに行ったとき記念に買ってもらった、お揃いのハンカチ。
母さんは僕の高校でのお弁当デビューまで、大切に取っておいてくれたんだ。
「だから、もっとマシな包みはないの?」
「あら、イヤなの?」
「イヤじゃないけれど、もう高校生だし……いけねっ体操服!」
お弁当箱をカバンに入れるとき、体操服を持っていないことに気付いた祐介は慌てて自分の部屋に取りに行く。
「もう、いつまで経っても子供なんだから」
母は二階に駆け上がる祐介の背中を見ながらクスッと笑い、玄関先で待ってくれている正人くんに「もう少し待ってね」と、ことわりを入れにいった。
「おはよう、行ってきまーす!」
体操服を取ってきた祐くんは、玄関で靴を履きドアを開けると待ってくれていた正人くんに元気よく朝の挨拶をした後に、振り返って私に晴れ渡った今朝の天気のように爽やかな笑顔を見せて手を振ってくれて胸がキュンとなる。
「いってらっしゃい‼」
母は、まるで子供のように元気よく手を振って祐介を送り出した。
「わりい、待たせたな」
「いや……」
正人は玄関のドアの方を見つめたまま、気のない返事。
「どうした? ああ母さんのこと? 気にしないで、まだ僕のこと小学生の子供だと思ってるみたいだから」
「いいよな。あんな綺麗なお母さんがいて」
「なに言ってんの。正人ってマザコンなの?」
祐介にそう言われて、正人は言葉を返さなかった。
自分が言った通り、祐介のお母さんは綺麗で可愛い。
幼稚園で祐介と出会った時から今も、その容姿は衰えることなく変わらない。
小学校の頃は、祐介が羨ましかった。
最初は祐介のお姉さんだとばかり思っていた。
正直、お母さんだと聞いて、驚いた。
しかも歳が、俺の母ちゃんと同じ歳だと知って更に驚いた。
祐介は、ひとりっ子。
もしも祐介にお姉さんとか妹さんとかいれば、俺は必ず恋に墜ちたに違いない。
「んっ、正人どうした?」
「あっ、いや、なんでも……ところで、朝飯なんだった?」
「オムライス」
「マジかよ!」
考え事をしていたら、急に祐介に顔を覗かれて焦って話を振った。
そう。
コイツの顔って、あの超絶美人のお母さんにソックリ。
特にキラキラ輝く大きな瞳と、女の子みたいに長いまつ毛なんかは、見つめられるとゾクゾクして思わずBLに走りそうになってしまう。
しかも俺の朝ごはんがお茶賭けご飯に漬物だったのに、朝からオムライスとは許しがたい。
俺の名前は山田正人
さっきも言ったように、祐介とは幼稚園からの長い付き合い。
中学の時は一緒にブラスバンド部にいたが、高校では文芸部に入っている。
まあブラスバンド部も文芸部も、俺のわがままに付き合ってもらっている。
そりゃあ野球部とかサッカー部で華やかな活躍が出来れば話は別だけど、そうでない限りモテる訳がない。
その点女子の多いブラスバンド部ならと思って入ったが、コレが全くの不発。
特に最大の問題だったのは、俺には全く音楽のセンスがなかったこと。
音楽のセンスがない俺が、同じブラスバンド部員にモテるはずがなかった。
高校では、仕切り直しと言うことで、これまた女子目当てで文芸部を選んだと言う訳だが、いまだに彼女は出来ないまま。
おかしい。
いや、実におかしい。
容姿端麗な祐介の傍に居れば、いつかはその“おこぼれ”に与れると思って今まで来たのだが、いまだに実現しない。
と言うより、そもそも俺自身の事よりも祐介に彼女が出来ないのが最近では逆に心配になっている。