***おべんとうコロコロ②***
地面に落ちたミニトマトはコロコロと転がり、私は慌てて追いかけて行く。
別に拾い上げて食べるつもりは無いけれど、放置するのはマナー違反。
コロコロと地面を転がるプチトマトを前かがみの姿勢で手を伸ばして追いかけるが、コイツなんだか私をからかっているみたいに右に左にと微妙に進行方向を変えながら進んで行くニクイやつ。
最後は、足がつまずいて、前のめりに転びそうになり手をついて踏ん張り、ようやく逃げるミニトマトを逮捕することに成功した。
正人に誘われて昼食を外で取る事になったが、正人が狙っていた広葉樹の下の特等席には既に椿先輩が座っていて、僕たちは緩やかな斜面の下側に座り弁当を食べていた。
「いーな、祐介の弁当ってチョッとしたアートだな」
弁当なのにアートとは、正人はいつも面白い事を言う。
「アートって、お弁当だよ」
「違う違う。オムレツの黄色にブロッコリーの緑、そしてミニトマトの赤。色の三原色がチャンと乗っているだろう? 俺のと比べてみろよ、ホラ」
正人が見せた弁当箱の中身は、のり弁の隅に肉じゃが乗っていて、見た目の色は黒と茶色だけ。
言われて見ると、確かに違う。
と、その時、僕たちの直ぐ傍を赤いミニトマトが転がって行く。
思わず自分のお弁当のミニトマトが落ちたのかと思って見ているとソコにはチャンとミニトマトが3つ乗っかったままで、僕の直ぐ傍を椿先輩が転がって行くミニトマトを、腰を曲げた姿勢で通り過ぎて行くのが見えた。
重力で買い物袋の底面のように張りつめた制服の胸。
半袖の隙間から見える肌の色。
腰を曲げていることにより露になった白い太もも……。
「あーっ、やっと取れた」
椿さんが転がっていたミニトマトを最後に拾い上げる時、スカートの裾から露になっていた太ももが更に露出して目のやり場に困っていると、正人が僕の膝に転がって来た。
「正人、どうした!??」
「いや、チョッと低空飛行を楽しんだ」
無事ミニトマトを拾い上げた椿先輩が、気まずそうに知らんぷりを装ってさっきまで自分が座っていたところに戻ろうとする。
僕たちは一連の流れで、その動きを目で追っていた。
今まで気にもしていなかったけれど、あんなこともあって自然に先輩の胸を見てしまう。
通り過ぎざまに見上げた胸は、意外に存在感があって結構大きくてドキドキしてすぐ目を反らす。
「意外だったけど、結構でかいな」
「うるさい‼」
何故かいつも通りの正人らしい言葉が、今はとんでもなくデリカシーに欠けた気がして嫌だった。
僕はまだ途中だった弁当をハンカチに包んで、教室に戻った。