***VS山田くんⅡ***
「と、とりあえず降ろしてくれる」
「あっ、ああ」
いつまでもお姫様抱っこされているままでは困る。
別に嫌ではなかったけれど、世間の目と言う物が気になって仕方ないことを山田くんに伝えると何故か滅茶苦茶驚かれてしまい、逆にコッチの方が驚いた。
「まさか椿先輩から“世間の目”なんて言葉が出るとは思わなかったです」
「どーいう意味よ!」
休日に遊びに来るのに、中学のスカートを穿いてくるなんて、と言いたかったが止めた。この人にとってこの程度の事は“当たり前”の一部に過ぎない。
地味メガネ先輩の“どーいう意味”はスルーして、いったい何であんな所でヘタリ込んでいたのかと言うことを聞いた。
トンビ座りをしていた理由を聞かれて、言いたくなかったので、私が先に質問したことに対して返答を返すべきだろうと言い返した。
山田くんが「何か質問されたっけ?」と言っていたのも無理はない。
先に私が聞いたのは単なる“成り行き上”の質問だったから。
「言ったわよ。なんで一人でココに居るのと。そしたら1人じゃないって言うから誰と一緒なのって聞いたのよ」
山田くんが忘れている様子だったので、私の好奇心がその時に聞きそびれたことまで付け加えて聞いた。
「同級生の女子と居た」
凄い! 山田のくせに、そういう所もあるんだ……。
「で、誰と居たの?」
私の好奇心は抑えられない。
案の定、山田くんは「なんで、そこまで言わなけれなければならないんだ!?」と反論してきたので、言わなければ私の事も教えないと突っぱねると「いいよ」とスルーされて一瞬焦った。
“なんで? 私の事に興味があったんじゃなかったの??”
しかしこんなポンコツ山田に負ける私ではない。
日頃鍛えた人間観察眼を生かして、ポンコツ山田の弱点を突いてやる。
「そっか、鮎原くんの一大事なんだけど……まあ、私には関係ないけれど」
そう言って立ち去ろうとすると、やはり私の予想通り山田くんの顔色は変わった。
やはり親友の事は気になるのだろう。
山田くんはアッサリと女友達の素性を明かし、一緒に映画を観に来たのものの映画を観終わるとサッサと帰られてしまったと悔しがっていた。
山田はやはりポンコツだと思った。
映画を観に来て観終わったのなら帰るのが当たり前なのに、なんで山田は悔しがっているのだろう?
それよりも私が気になったのは、何を見たのかというところ。
山田くんは「機関車〇―マス」だと教えてくれたので話の内容を知りたい私が聞くと、今度は地味眼鏡先輩が俺の質問に答える番だと突っぱねられた。
特に鮎原くんから口止めされているわけでもないし作り話でもないから言っても構わないだろうと思い、鮎原くんが20代後半くらいの大人の女性とデートしているのを見かけたことを伝えたが、山田くんは驚くどころか全然信用してくれない。
「祐介は、そんなこと絶対にしないよ」と、平然と言う始末。
「でも、わたし見たのよ。 すごい綺麗な人だったよ」
「在り得ないね」
「なんでよっ!」
「だって、祐介には母ちゃんが居るから」
「お母さん……」
“マザコン”
噂には聞いていたけれど、中学から高校にかけての今は丁度思春期のド真ん中だから特に異性の親に対しては何かと面倒な時期のはずだから噂は噂として信じてはいなかった。
「やっぱり噂は本当だったの!?」
「いや、マザコンとかじゃないけれど」
「!??」
お母さんが居るからと言っておきながらマザコンじゃないという山田くんの言葉に混乱する。
「いったい、どういうことなの? 逆マザコン?それとも母子カプセル??」
「いや、そう言うのとも違って、仲がいいって言うか……祐介、反抗期ないし……」
“反抗期がない!?”
「でも、若い女性と映画を観に行って、そのあと」
「映画って。何の映画?」
「断言できないけれど、終了時刻から考えるとおそらくホラー映画を観ていたのだと思うわ」
「ホラー映画かぁ……それじゃあ、祐介の母ちゃんじゃないだろうな……」
山田くんは、そう言うと急に考え込み困ったように言った。
「なんでホラー映画だったら、なんかマズい事でもあるの?」
「ああ、祐介の母ちゃんってホラー映画が大の苦手だから行くはずがない。そうなればメガネ先輩が言ったように他の女性を連れていたことになるだろう」
「チョッと、メガネ先輩って、何よ‼」
「とにかく祐介たちを探そう! どっちに行った?」
「この通路を通って向こうのモールに行ったわ!」
「よし! 行こう‼」
「うん!」
私たちは鮎原くんを追ったが、ポンコツ山田との不毛な時間を取られ過ぎて2人を見失い再び見つけ出すことは叶わなかった。