***衝撃のラブシーン***
「ねえ、どれがいい?」
どのネックレスが良いのか聞かれたので「コレが好きだな」と答えると、自分自身の首に合わせて鏡で見ることをしないで、まるで僕に見せるように僕が選んだネックレスをかざして「いいセンスしているわ」と大きな澄んだ目を悪戯っぽく輝かせ、ニッと口角を上げてレジに向かった。
リリスが祐介くんを連れてアクセサリーショップから出て来たあとシューズも買い、そのあとエスカレーターで2階に降りて服と雑貨店にも寄り買い物をした。
リリスの手にはアクセサリーショップの小さな袋だけが可愛らしくぶら下がっていて、他のお店で買った袋は祐介くんが率先して持っており、大きな袋で祐介くんの両手はまたたく間に塞がっていた。
嫌な顔一つも見せず、リリスの買った荷物を持ってあげる祐介くんのことを優しいと思うよりも、なんだかそんな彼氏を連れているリリスの方を羨ましく思った。
恋愛経験は無い私だけれど、もしもつき合うとしたらそんな優しい彼氏が欲しいな。
リリスと祐介くんは2階から、もう一つのショッピングモールを繋ぐ空中通路の方に向かう。
ここは遮るものが何もなく、万が一祐介くんが振り向いてしまえば直ぐに気付かれてしまうから。
距離を開けて様子をうかがっていると、通路の中央を少し通り過ぎたあたりでリリスが立ち止まってコッチを向いた。
慌てて通路手前の角に身を隠し、少し経って首を傾けて様子を見て驚いた。
私の位置からは祐介くんの背中の陰に隠れてリリスの姿は見えないけれど、彼女の白い華奢な腕が祐介くんの首に巻きついていることだけはハッキリと見えた。
そして祐介くんの頭が俯くと同時に、紙袋を持ったままの手はリリスを支えるように彼女の腰に回された。
“コレって、もしかしたら、もしかしているの??”
そう。
後ろから見る限り、2人のこのシルエットは恋人たちが抱き合ってキッスをしているシルエット!
こんな人通りのあるところで……。
鏡なんて見なくても、自分の頬がカーッと燃えるように赤くなるのが分かる。
まるで海外の恋愛映画の一場面を観ているような光景に膝がガクガクと震え、何かに掴まっていないと立っていられない気がした。
通路の途中で母さんが急に立ち止まり、僕の方を振り向いた。
どうしたのかと聞いても直ぐに返事をせずに、僕の顔を楽しそうに見てから言った。
「やっぱり首が少し寂しいわね」と。
首が寂しいなんて言われたことはないし、その意味が分からないでいる僕の首に母さんの指が伸びて来る。
「なに?」
「ほら、少し襟のあいたこの部分」
母さんの指が、僕の鎖骨と鎖骨の間を指し、徐に持っていたバッグからさっき買ったネックレスを取り出した。
「どうするの?」
「祐くんにあげる」
「えっ、でも、ソレ」
「実は最初から祐くんにあげようと思って買ったのよ。つけてあげるから、“うーん”して」
言われるまま、うーんして上を向くとネックレスのチェーンを持った母さんの腕が僕の首に巻き付く。
「いつの間にか背が高くなったよね」
「うん」
「ちょっと倒れそうだから、悪いけれど祐くん私の腰を支えてくれる」
「いいよ」
日頃は何をやっても器用にこなす母さんが、この時は何故か不器用に時間が掛かっていたのは屹度ハイヒールのせいなのだと思った。
履いたことはないから良く分からないけれど、四六時中つま先立ちの恰好を強いられる靴を履いていたらバランスもとり辛いだろう。
「いいよ。今度は私を見て」
言われるまま母さんの方に顔を向けると、首に手を回したことで着崩れた僕の襟元を直しながら首に掛ったネックレスを嬉しそうに眺めている母。
「どう? 荷物を降ろして良いから、自分でも見てみて」
母さんの腰を支えていた手からスルリと荷物を外し、首に掛ったチェーンを持ち上げて見た。
「うん」
「祐くん、ナカナカのセンスよ。それにネックレスも良く似合うわ」
「でも、本当に良いの?」
「だから、祐くんにあげるって言ったでしょ!」
「ありがとう」