第五話 内乱4
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白熱していた議論が止まりました。
ケールの落とした爆弾は、待ち望んでいた情報です。
王城を破壊するような派手な真似をせずにこっそりと侵入できるなら、国王陛下の救出にしてもだいぶ安全が確保しやすくなります。
余計な被害が出ないならばそれに越したことはありません。
けれども、その方法が王城に住まう王子二人からではなく、どうしてケールから出て来るのか?
全員の視線が集まってたじろぐケールに、代表してガザニア先輩が問いかけます。
「それは、どういうことだ?」
圧の強さに気圧されながら、ケールが答えます。
「占拠された後の王城から商会に発注が来ているんです。納品する馬車と一緒に少人数ならば王城に入れます。」
……へ?
全員の目が点になりました。
防御魔法による鉄壁の守りに、自分から穴をあける気ですか?
「王城はそこまで物資が不足していたのか?」
「いえ、最低一年分の食料の備蓄はあるはずです。定期的に点検して補充するからないはずはありません。」
コソコソと話す声が聞こえますが、完璧な防御があって籠城の備えがないはずがないのです。
「これが、注文書の写しです。」
ケールが持参した紙を広げますが……
「嗜好品が多いな。」
そこに記された品々は、どう見ても嗜好品、高級品で、この非常時に危険を冒してまで入手する必要のある品には思えません。
意図が分からずに皆で首をひねる中、一人だけ理解してしまった人がいます。
「……母上だ、これは。間違いない。」
そう言って、ニゲラ殿下が頭を抱えます。
ニゲラ殿下が頭を抱えるの、本日何回目でしょう?
それはともかく、これらは王妃様用の品々だということです。
言われてみれば、王妃様の母国であるインセクティア皇国風の品とか、インセクティア皇国から輸入したらしい高級品とかが入っています。
私はあまり詳しくないのですが、分かる人には王妃様向けの品だと判るらしく、何人かが得心したという顔をしています。
けれども、何故このタイミングでと言う謎は残ります。
幽閉状態から解放されて色々と物入りなのかもしれませんが、この非常時に不要不急の品を要求する神経が理解できません。
あ、もしかして、王妃様もフリュイテ侯爵達の事を良く思っていなくて、内乱を潰すつもりなのではないでしょうか。
国王陛下が人質になっているから仲間になったふりをして、内乱に対する外部の勢力を呼び込むために王城内に存在しない品々を要求したとか……
「幽閉される前の王妃陛下は、周囲の状況や他人の迷惑を一切顧みずに自分のわがままを押し通したそうです。おそらく今回も……」
「フリュイテ侯爵も王妃陛下の機嫌を取るためにその要求を受け入れたのだろうな。」
……全然違ったようです。
しかも、ニゲラ殿下も反論しません。
王妃様、どんな人物なんです?
あまり関わらない方が良さそうな気がします。
でも、まあ、王妃様の思惑が何処にあれ、これはチャンスです。
王城や魔法装置を破壊せずに王城に侵入できる手段が転がって来たのです。
罠である可能性は低いでしょう。
フリュイテ侯爵達は小勢です。
王都全体を支配できるだけの兵力を用意できなかったから、王城だけを占拠したのです。
王城を封鎖して直接の戦闘を避けているからこそ得られた優位であり、その優位を捨てて敵を城内に引き込もうとするならば、それは愚策です。
確かに、商品に紛れて潜り込もうとする少人数相手ならば、王城を占拠した手勢を集めて待ち構えていれば有利に戦い勝利することも可能でしょう。
けれども、その勝利に意味はありません。
兵力の差が大き過ぎるので、そんな少人数を倒したところで大勢に影響はありません。
むしろ、戦闘で消耗すれば丸損です。
彼等は、内乱に賛同する貴族が現れない限り、戦力を補充することもままなりません。
もちろん、侵入者の中にニゲラ殿下やアイビー殿下がいて捕縛できたならば、彼等にとって非常に大きなメリットになります。
けれども、よほど大きな餌でも撒かない限りは、王子が自ら乗り込んで来ることなど期待できません。
罠があるかもしれない危険な場所に、わざわざ王族が出向く必要はないのです。
工作員が潜入して、防御魔法を解除してしまえばそれで終わりです。
だから、これは考え抜かれた罠ではなく、相手のポカミスである可能性が高いのです。
つけ込まない手はありません。
問題は、一回しか使えないこと。
さすがに、一度潜入して失敗すれば、相手も警戒します。
同じ方法を二度も許すほど抜けてはいないでしょう。
だから、最初の一回で、最大限の成果を上げる必要があります。
第一目標は、防御魔法の解除でしょうか。
王城を守る防御魔法さえなければ、国軍でも近衛騎士でも自由に突入できます。
国軍の精鋭や騎士と正面から戦えば、チンピラを鍛えた程度の私兵では勝ち目はありません。
何なら、王族しか知らない隠し通路から奇襲をかけることもできます。
いずれにしても、これができないと元の木阿弥になって、私が収束陽光撃で王城を破壊する計画が再浮上してしまいます。
次に、可能ならば国王陛下の救出でしょうか。
国王陛下の安全が確保されれば、軍の突入もやりやすくなります。
内乱の失敗は確定しているので、後はいかにして被害を最小にとどめるかが問題となります。
そのためには、情報を精査して綿密な計画を立てる必要があります。
「これらの荷を王城に持ち込むのは何時頃になる?」
「品数が多いことと取り寄せるものもあるので何回かに分けますが、最初の一回は明日の朝の予定です。」
「王城のどこに届けるか分かるか?」
「荷物用の通用門を通って馬車でこの位置まで、城側から人手を出さないのならば、荷下ろしのためにこちらの倉庫まで行けるはずです。」
ケールが図面上で指示した地点は、確かに王城の内側、防御魔法の内側と思われる範囲内です。
「王城の端の方だが、一度入り込んでしまえば城内の構造は我々の方が詳しい。問題は、何人送り込めるかだが……」
「荷下ろしのための人手だと言えば五~六人。荷馬車に隠れればさらに二~三人潜り込めますが、見つかったら言い訳できません。」
ケールの答えを聞いてガザニア先輩が考え込みます。
慎重に進めるのならば、最初は偵察に徹して得られた情報を用いて確実な作戦を立てるべきでしょう。
けれども、そこで警戒されてしまうと次回以降何らかの対策を取られてしまいます。
手を出さないのなら、疑われるような行いは一切しない。
実行するなら、確実に目的を達する。
中途半端は絶対に駄目です。
下手に妥協した折衷案を採用すれば、何もしない方がましな悪手になりかねません。
それが分かっているから、ガザニア先輩も難しい顔で考えているのでしょう。
「明日の朝、最初の荷と共に最大戦力で侵入する。最初の一回目こそが奴らが最も油断している時だ。」
ガザニア先輩が決断を下しました。
この状況は相手のポカミスである可能性が高い以上、時間が経つほど相手が対策をしてくる可能性も高くなります。
最初の一回目を様子見に徹して、全く疑われなかったとしても、二回目以降には警備が強化されているかも知れません。
王城の絶対防御こそが彼らの生命線なのだから、穴が空いていると知れば当然塞ごうとするでしょう。
……あれ?
ガザニア先輩は議事進行役だけでなく、決定権も持っているみたいです。
そのことに誰も異を唱えません。
あ、そう言えばこれはただの会議ではなく軍議でした。
これから行うことが軍事行動だと考えれば、軍人としての地位と経験のあるガザニア先輩の判断は優先されます。
おそらく、二大派閥のトップが静観の構えを見せているのと同じ理由で、軍の上層部も表面上は動かないのでしょう。
どちらも裏では色々と準備を進めていそうな気がしますが。
ともあれ、今動ける軍の中で立場が一番上の人間がガザニア先輩だとすれば、作戦の立案計画実行の責任者がガザニア先輩と言うことになります。
身分的にはニゲラ殿下がこの場では一番上でしょうけれど、細かいことは専門家に任せて最終的に承認すればよい立場です。
「問題は、誰を送り込むかだ。城内に入るまでは悟られないように武装できないから、魔法使いが望ましい。」
「ならば、俺が行こう。」
ちょっと待てー、そこでニゲラ殿下は駄目でしょう!
何で守られるべき王子様が先陣切ろうとしているんですか!!
確かに、ニゲラ殿下は魔法を使えて、チンピラ上がりの私兵程度では敵わないほどの強さはあります。
けれども、ニゲラ殿下は第一王子です。敵の真っただ中に突っ込んで行って良い人間ではありません。
もしも敵に捕まってしまったら、人質が一人増えるだけでは済みません。
下手をすると、無理やり王太子にされて、手続きが終わったところで国王陛下が殺されてしまうかもしれません。
強制されたものであっても国王陛下が行えば正式な手続きになります。
けれども、この状況でニゲラ殿下が王太子になったり王位を継いだと言っても誰も認めないでしょう。
内乱が完全に鎮圧された後も残る、混乱の火種となります。
また、ニゲラ殿下が捕虜ではなく殺害された場合にもまた面倒なことになりかねません。
国の非常事態に貴族たちが一丸となればよいのですが、殿下の死の責任を追及するような形で政敵を追い落とそうとする者が出て来れば、やはり混乱が続くことになります。
特に内乱の後処理でごたごたしている状況では、どさくさに紛れて良からぬたくらみを画策する者が現れて余計な問題を引き起こす危険は高くなります。
余計な混乱を防ぐには下準備と根回しが重要。カルミア様と行った陰謀対策でそのことをよーく学びました。
「危険です、兄上! 場合によっては王妃陛下と直接対峙する可能性もあるのですよ。」
そうだ、そうだ。もっと言ってやれ。
それにしても、トロイの木馬方式で防御魔法を内側からこじ開ける工兵を送り込むだけではなく、そのまま内乱の首謀者を討ち取ることまで視野に入っているようです。
「ここは私が行くべきです!」
待てー! あなたも駄目でしょう、アイビー殿下。
アイビー殿下だって捕まれば、「見せしめに殺してよい人質」にされかねません。
どさくさで殺されてしまえば、後々面倒なことになりかねないのはニゲラ殿下の場合と同じです。
どうしてここの王族は自ら危険に突っ込んで行こうとするのですか!?
「いや、母上が出て来る可能性があるからこそ、俺が行く必要があるのだ。」
論点そこですか?
もう少し身の安全を考えましょう。
心意気は良いのですが、王族の命はこの程度の事で落として良いほど安くはないはずです。
誰か突っ込んでください!
私は貴族としては立場が弱いので、王族の話し合いに割り込めないのです。
より良い代案か重要な情報でも持っていればまだしも、ただのツッコミで口を挟むのはリスクが大き過ぎます。
ガザニア先輩……何考えこんでいるんですか!?
もしかして、王子が先陣切って突っ込むリスクとメリットを天秤にかけちゃってますか?
臣下として、いいんですか、それ?
議論は夕方まで続きました。




