第二十一話 正月
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もう一月です。年が明けました。
あけましておめでとうございます。
いよいよ三学期。卒業まであと三ヶ月ありません。
断罪イベント回避のための活動もそろそろ大詰めです。
学生の身分では学園外の陰謀までは手が出せません。
その代り、学園内で行われている陰謀に関しては徹底的に潰して行きました。
大変でしたよ。
流石は貴族の学園と言うべきか、大小様々な陰謀が巡らされていました。
まあ、大半は陰謀と言っても他愛の無いもので、私達に関係の無いものなのだったので、よほど悪質なもの以外は放置しています。
積極的に潰して行ったのは、ニゲラ殿下に取り入ろうとするものやカルミア様を陥れようとするものです。
勢い余って将来の国王(予定)に取り入って出世したいだけの人まで妨害してしまったかもしれませんが、そこはもう陰謀に頼らず実力で出世してくれとしか言えません。
中には、ニゲラ殿下を嵌めて弱みを無理やりに作ろうとするものもありました。
これは不味いです。王族を脅そうとするだけでハイリスクです。本人のためにも徹底的に妨害しました。
おそらく、早い時期に計画を潰された生徒が無謀な賭けに出たのでしょう。
本人はもう無理だと諦めても、家の方からせっつかれたら何もしないわけにもいきません。
経験の浅い学生ではリスク計算が甘い面があります。
下手をすれば関わった者全てを不幸にしかねない企みは、全力で潰すしかありません。
ほとんど成功の見込みの無い陰謀でもとりあえず潰しておかないと安心できない所が面倒です。
幸い、林間学校以降はゲームの面倒なイベントは発生していません。
ゲームではこの時期は個別ルートに入って各攻略対象とのイベントを進めることになります。
五人の攻略対象それぞれの抱える悩みや問題、ヒロインと結ばれるために避けて通れない障害などが提示され、それを乗り越えるために悪戦苦闘します。
基本的には恋愛イベントであり、ヒロインとの関係性無くして発生し得ないイベントです。
なので、そちらに関してはあまり気にする必要がありません。
小説でもこの時期は危険な事件は起こっていないとのことなので、三月の断罪イベント回避に専念できます。
何をするにしても、今の時点で噂にもなっていないほど影響力の無い陰謀は卒業までに間に合わないか既に失敗している可能性が高いです。
そろそろこの陰謀合戦も打ち止めになるでしょう。
……カルミア様にも気付かれない巧妙な陰謀と、下準備も根回しもろくに行わない稚拙すぎる陰謀(あるいは犯行)があり得るので油断はできませんが。
ニゲラ殿下がおとなしいことが救いです。
二年生の時も下がった成績を取り戻すために勉強に集中していておとなしかったニゲラ殿下ですが、三年生になってからも随分とおとなしい感じです。
三年生になった今も、殿下は勉強を続けています。
ただ、今からでも主席を奪ってやる! という感じではありません。
成績を上げるために効率的な授業の受け方をしていないようですし、授業以外にも自主的に勉強をしているらしいです。
カルミア様によると、ニゲラ殿下は「王になるための勉強をやり直している」と言っているそうです。
それが本当ならば、国にとってはとても素晴らしいことです。
次期国王に最も近い王子が、国王になるための勉強を真面目に行っているのですから。
もしかすると、クリスマスパーティーでカルミア様をきちんとエスコートし、表面的にでも仲の良い婚約者として扱ったこともその勉強の成果かも知れません。
おかげで、私達の作業もだいぶ楽になりました。
同じ第一王子の婚約者でも、殿下に疎まれて公式の場でもぞんざいに扱われる婚約者と、正しく婚約者として扱われていてゆくゆくは王妃になることは確実と思われる婚約者とでは、影響力が大きく異なります。
ニゲラ殿下がカルミア様を真っ当な婚約者として扱ったことで、学園内の陰謀合戦ではカルミア様が非常に優位に立つことになりました。
カルミア様を確実に追い落とせる算段でもない限り、第一王子の婚約者に正面から喧嘩を売るような者はそういないでしょう。
そして、ニゲラ殿下やカルミア様にちょっかいをかける陰謀を片端から潰して行ったので、さらに味方が増えて行きました。
誰だって勝ち馬に乗りたいですし、将来王妃様になったカルミア様に睨まれないためには、今の内から敵対していないことを示す必要があります。
謀略もやはり数が物を言います。味方が多い方が情報も集まりますし、打てる手も増えます。
小説では、この時期の悪役令嬢はニゲラ王子から見放され、ラバグルト公爵家からも見捨てられるだろうと思われていて、味方がほとんどいないのだそうです。
明示されてはいませんが、ゲームでも似たようなものでしょう。
そんな状態では謀略を行うにも防ぐにも、できることは限られてしまいます。
けれども、今のカルミア様は違います。
ラバグルト公爵家令嬢と第一王子の婚約者の両方の立場が有効で、名実ともに学園の女子のトップです。
こうなると、他の学生相手に権謀術数で負けることはまずありません。
そんなわけで、国にとっても私達にとっても良いことずくめの状況に見えるのですが、一方で懸念事項もあります。
ニゲラ殿下が将来の国王としてやる気を見せているということは、玉座が遠のいた時に内乱王子になる危険性も高いということです。
婚約破棄が行われると、その可能性が一気に高まります。
まあ、ここまでがっちりと陰謀の芽を摘んでいれば滅多なことは無いでしょう。
油断するつもりはありませんが、カルミア様側の体制は万全です。
怪しい動きがあれば自動的にカルミア様に連絡が来ますし、些細な陰謀ならばカルミア様が直接動くまでも無く潰すことができます。
むしろ、「カルミア様のため」と言って過激な行動に走ったり、変に暴走したりしないように抑えるのが大変だそうです。
何だか、今のカルミア様はとっても悪役令嬢です。
ニゲラ殿下に取り入ろうとする女子を排除するために嫌がらせ等が行われていたらそれを理由に断罪される可能性もありますが、その辺りはカルミア様もしっかりと対応しています。
つけ込まれるような隙は見せませんし、カルミア様を狙った陰謀もきっちりと潰しています。
ニゲラ殿下自身もカルミア様を排除しようとするそぶりを見せていないので、たぶん大丈夫です。
ただし、現状のカルミア様でも対応しきれない部分は存在します。
一つは学外で行われている陰謀。学園の生徒を掌握していても、学園の外で進められている陰謀までは手が出せません。
学園の外で行われる陰謀を学園の中に持ち込むことは難しいのですが、上手く持ち込まれてしまうと生徒の親の考えた計画がほとんど予兆なく始まるので厄介です。
もう一つは無計画な凶行。無計画な犯行までは予測しきれません。
やった本人は処罰されるでしょうが、凶行に倒れて物理的に退場では困ります。
全てに完全に対応することはできませんが、それでも考えられる範囲で対策を考えてはいます。
後はその時になってから臨機応変に対応ですね。
さて、陰謀の方は一段落して余裕ができたので、今日はもう一つの目的を果すことにしましょう。
私は、用意した物を出します。
「これが、試作品の第一号です。」
「これが……」
それは、お皿に乗った白くて丸い物体――お餅です。
昨年試験栽培で収穫されたもち米をいただいたので、お餅を作ってみました。
前世でももち米からお餅を作ったことは無かったので色々と試行錯誤しました。
まあ、蒸してつくだけなんですけど。
専用の器具もないし、水の量とか蒸す時間とか正確な値も知らないしで大変でした。
頑張った甲斐あって、なんとかそれっぽいものを作ることに成功しました。
それでは、実食です。
いただきます。モグモグモグ。
「……うん、ちゃんとお餅ですね。」
「ええ、まだ改良の余地はありますが、確かにお餅です。」
モグモグモグ。
お餅は及第点のようなので、もう一つ出してみます。
「餡子も作ってみました。これであんころ餅が食べられます。」
「お汁粉も作れますね。」
小豆は元からそれっぽいのがあったので、砂糖を入れて煮詰めました。
粒あんです。
とりあえず、お餅を餡子でくるんであんころ餅にしてみます。
カルミア様は逆に餡子をお餅でくるむようにして食べています。
モグモグモグ。
久しぶりの、いえ、今生では初めてのお餅を堪能します。
気分はすっかりお正月です。三が日は過ぎていますけれど。
これで添えられている果物がイチゴではなくみかんだったら完璧だったんですけど。
「これを他の人も食べてもらえれば、農作物としての米も普及するのですが。」
「お米は家畜の飼料のイメージが強いですからね。お餅になったところで食べてもらえるでしょうか?」
「小説では、米の粒粒が見えなければ大丈夫だそうです。」
「米粉パンとかなら食べるということですか?」
「おそらくは。ただ、今ある小麦のパンに取って代わることは難しいでしょうけれど。」
なるほど、既存の商品と同じものを作っても、よほど特徴が無ければ普及しません。
すごく美味しいとか、とても安いとか。
小麦よりも安いお米?
貧乏人は米を食え!
……なんか、違う気がします。
まあ、ともかく。
今回カルミア様と二人きりで試食したのは、一般的にお米が人の食べ物と認められていないからです。
この世界――少なくともこの国では主食はパンであり、ご飯は食べません。
お米自体はあるのだけれど、家畜の飼料扱いで人は食べません。
だから、お米が原料と言うだけで拒絶される恐れがありました。
出来上がったものが不味かったらなおさらです。
……まあ、それ以前に貴族相手に食べ物を出すのは手続きとかが面倒なのですけれどね。
とりあえず及第点の出来だったので、次はエリカにでも食べさせてみましょうか。




