第二十話 クリスマス
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早いものでもう十二月、クリスマスの季節です。
今年もやります、クリスマスパーティー。
思えば、去年はテロリスト騒ぎで滅茶苦茶になりました。
一昨年は……ダンスで振り回された印象しか残っていません。
それと、とてもお腹がすく日だということ。
クリスマスにあまり良い印象はありませんね。
今年のクリスマスパーティーはアイビー殿下率いる生徒会主催で行われます。
前生徒会の役員だった私は、現生徒会を補佐する立場でホスト側として参加することもできます。
けれども、今年はゲスト側で参加することにしました。
現生徒会も手は足りているようですし。
エスコート役も確保しました。
ナルシス君です。
身分的には釣り合わない相手なのですが、学園の行事に関してその辺りの制約は緩めです。
どちらも婚約者がいるわけでもないので別に問題ないという扱いです。
そして、利害が一致しました。
ナルシス君はとてもモテます。
顔良し、家柄良し、性格も良い。
婚約者も特定の恋人もいないとなれば、お近付きになりたいと思う女子も多いでしょう。
嫡男でないことも人気を後押ししています。
ナルシス君と結婚できてもサラバンド公爵夫人にはなれませんが、その分ハードルが下がります。
公爵夫人となるには家格が釣り合わなかったり能力的に問題がある令嬢でもチャンスがあるのです。
また、公爵家を継がないということは、入婿を探している令嬢にとっても可能性があります。
純粋な恋心から政治的な打算まで、ナルシス君が入学して以来多くの令嬢が彼にアタックし、そして玉砕してきました。
一見人付き合いの良いナルシス君ですが、実は深い付き合いを望みません。
友人はいるけれども親友はいない、恋人なんて論外。それがナルシス君です。
その距離感を測り間違えると嫌われることになるのですが、ライバルを出し抜いてナルシス君を射止めることに必死な女子にそこまでの理解を期待することはできません。
だから、エスコートのお願いが殺到するこの時期は、ナルシス君も憂鬱になるそうです。
何でもそつなくこなすナルシス君なので、エスコートするくらいならかまわないと言います。
ただ、一度エスコートしただけで彼女面して、次回も当然自分がエスコートされるものと思い込んだり、日頃からべたべたと纏わり付くようになる女子も多いのだそうです。
だから、エスコートする相手は慎重に選ぶ必要があるのだそうです。
同じような立場のアイビー殿下の場合はこまめなフォローをして特別な一人を作らないように調整しているそうですが……アイビー殿下のまねをしたらそのうち刺されると思います。
去年までは一つ年上のお姉さん(実姉)のエスコート役をしていたそうですが、既に卒業してしまいました。
そこで、私です。
私は今生で恋愛も結婚も一切する気はありません。
前世の魂いまだ健在です。私の心は、本質的におっさんなのです。
そんなわけで、恋愛やら結婚やらにがつがつしない安全な女子がナルシス君にとってちょうどよかったのです。
私は私で同じような事情を抱えています。
恋愛や結婚に必至になっているのは女子だけではありません。男子だって自分で良い相手を捕まえられなければ、政略結婚でどんな嫁がやって来るか分かりません。
養女とはいえ、伯爵家の令嬢と言う立場は、上級貴族から下級貴族までどこに嫁いでも不自然ではありません。
元平民と言う血統は上級貴族の嫡男の嫁としてはふさわしくありませんが、それ以外なら案外どうにかなるらしいです。
上級貴族の嫡男でも、妾とか愛人枠なら問題ないそうです。
そんな状況なので、交際を申し込まれたことも度々ありました。
これでも乙女ゲームのヒロインです。見た目だけなら美少女なのです。
中には突然「俺の愛人になれ!」などと言う独創的(?)な告白をしてくる者もいました。
愛人枠でないと迎え入れられない上級貴族よりも、下級貴族の令息にこの手の暴言を吐く者が多い傾向がありました。
私が元平民と聞いて強く出れば逆らわないだろうとか思ったのでしょう。
元平民であっても私はチャールストン伯爵家の看板を背負っていると言うことを理解していないあたり、「これだから田舎の下級貴族は」と言われてしまう一因となっています。
ゲームではニゲラ王子が虫よけになっていたのでしょう。
……そう言えば、一年生の頃一部の上級生の男子からお義兄様の義妹だということで距離を置かれていました。卒業後も続く防虫効果って、本当に何をやらかしたのでしょう?
それはともかく、この世界では虫よけ効果のある攻略対象とは距離を置いたので、自分でお断りしなければなりません。
お断りする技術は上達しましたよ。カルミア様にも色々と指導していただきました。
それでもエスコートしてもらう相手は選ばないと面倒なことになります。
一度エスコートしただけで相手は自分の女だと思い込み、貴族の作法に則ってきっぱりとお断りしても執拗に付き纏うストーカーになることもあるそうです。
そこまで極端なことは滅多にないでしょうが、余計な面倒事を抱える余裕はありません。面倒事はゲームのイベントだけでお腹いっぱいです。
けれども、エスコート無しでパーティー等に出席すれば、それはそれで悪目立ちします。
私的な小規模なものならばともかく、学園の行事であるクリスマスパーティーにエスコート無しで参加するとその後の活動に差障ります。
なんちゃって貴族の私は、学園外での貴族同士の繋がりありません。そのため、適切なパートナーを見繕うという点ではどうしても他の人に劣ります。
場合によっては現生徒会を手伝ってホスト側参加も考えていましたが、ちょうど今年のパートナーを探していたナルシス君と話が合ってエスコートをお願いすることになりました。
男性側はエスコートせずに参加しても(婚約者を放置したとかでなければ)それほど問題にはならないのですが、ナルシス君にエスコートをお願いする女子が多くて煩わしかったそうです。
お断りするには、「既にパートナーを決めている」と言うのが一番角が立ちませんからね。
そんなこんなで利害が一致したので、私はナルシス君にエスコートされてパーティー会場に入りました。
ナルシス君は公爵家の令息なので、入場は結構後の方です。
それからさして待つことなく、今回はゲスト側で参加するニゲラ殿下が入場してパーティーは始まります。
ニゲラ殿下はちゃんとカルミア様をエスコートしているようで一安心です。
ゲームではニゲラ王子ルートに入らなくてもカルミア様はエスコートされず、悪役令嬢が落ち目になっている事を演出しています。
カルミア様がエスコートされている時点でゲームのシナリオから外れています。
ニゲラ殿下も、少なくとも表面上はカルミア様を正しく婚約者として扱っています。
これならば婚約者との不仲に乗じて何か企む者につけ込む隙を与えずに済みます。
まだまだ油断はできませんが、断罪や婚約破棄からは少し遠退いた感じです。
パーティーが始まれば、エスコートしてくれたナルシス君と一曲踊り、後は自由行動になります。
元々ナルシス君とはエスコートする/されるだけのパートナーです。用が終われば別行動で問題ありません。
それに、あまりナルシス君を独占していると、ナルシス君狙いの女子たちの目が怖いです。
そうやって執着するから避けられるのですけれど。
さっそく寄って来る女子を巧みにかわすナルシス君を見送りながら、私も移動します。
そして、そのまま壁の花に……なることはできません。
去年までは壁の花に徹して先輩方のパーティーにおける社交のやり方をじっくりと観察して勉強させてもらう予定でしたが、今年はもう最上級生。見て勉強だけでなく、実践経験も必要なのです。
学生のうちに練習しておかないと、社会に出てからぶっつけ本番になってしまいます。
去年しっかりと勉強できなかったことが悔やまれます。おのれ、テロリストどもめ!
そうした私の事情とは別に、今年のクリスマスパーティーは勝負時なのです。
陰謀には時間がかかるものです。
入念な下準備と各所への根回しを行う必要があります。
行き当たりばったりな陰謀では成功は望めませんし、成功したとしても後が続きません。
ゲームにおけるニゲラ王子の断罪は強引で稚拙な陰謀です。入念な準備も行われておらず、だから悪役令嬢がお亡くなりになる必要があったのです。
けれども、ニゲラ殿下を唆して何らかの問題行為を行わせるための陰謀ならば、時間をかけて念入りに行われるはずです。
学生の思い付きで行われる稚拙な陰謀ではなく、実家や派閥からの指示ならば、事を起こすのが卒業間際だとしても下準備はずっと前から始まっているはずです。
場合によってはニゲラ殿下が入学した時から、学園外ではそれ以前から何らかの動きがあってもおかしくはありません。
もちろん、そんなに以前から行われているのは下準備の下準備くらいでしょうが、本当に事を起こすつもりならばそろそろ具体的な計画に基づく行動を起こす頃です。
実際に、怪しい動きをしている生徒は何人かいました。
何らかの謀略が進んでいることは間違いありません。
けれども、それらが成功しているようには思えません。
指示を出しているのが権謀術数に長けた古狸だとしても、それを実行するのは未熟な学生です。
学園と言う閉鎖された環境では一流のエージェントを送り込むことは困難です。
素人でしかない学生の行動に完璧を求めることはできません。謀略を完全に秘密に進めることなどできるはずもありません。
悪だくみは意外とバレます。何をしているのかまではバレなくても、何かしていることは結構知られてしまいます。下手に隠そうとするから却って目立つのです。
そうしてコソコソと何かしている者達の周辺を詳しく調べて行けば、何をやろうとしているのかもおおよそ見えてきます。
そうやって見つけてつぶした陰謀も幾つかあります。
また、私達が対処するまでも無く失敗した企みもあります。
ニゲラ殿下に取り入ったり、取り込もうとする試みはだいたい失敗しています。
ああ見えて、ニゲラ殿下は悪意には敏感です。下心を持って近付く者を見抜き、寄せ付けません。
ゲームでも、ニゲラ王子の周囲にいる者はニゲラ王子に対する悪意を持っていません。
ヒロインは非常識なだけで悪意も害意もありません。
他の攻略対象や悪役令嬢にしても王子を騙して自分の思い通りに動かそうなどとという邪心はありません。
ゲームではシナリオの都合ですが、悪意のある者をニゲラ王子が見抜いて遠ざけていたとすれば辻褄が合います。
この世界でも同様で、ニゲラ殿下にあることないこと吹き込んで取り入ろうとした者は、私達が何かするまでも無く、ニゲラ殿下から信用されず、避けられています。
失敗が続いて諦めてくれればよいのですが、家からの指示ではそうも言っていられないでしょう。
ニゲラ殿下に直接働きかけることができないのならば、次に有効な手は噂話で誘導することでしょう。
もちろん、噂だけで思い通りになるなどとは思っていないでしょうが、次の作戦の下準備として何らかの噂をばらまく行為は十分に考えられます。
そして、噂話を拡散させる場としてパーティー会場はうってつけなのです。
つまり、ここで流される噂話を収集分析すれば、次に行われる謀略を予見し、対策することが可能となります。
今日の私のお仕事は、パーティー会場を回って噂話を集めることです。
カルミア様も同様に動いていますし、後から女子のネットワークも駆使して情報を集めますが、直接見聞きした一次情報が多いに越したことはありません。
そんなわけで、社交界実践デビュー、行ってきまーす。




