第十九話 文化祭
リアクションありがとうございました。
治癒魔法の実戦訓練……じゃなくて、体育祭が終わると、次は文化祭です。
三年生の文化祭ともなると、最後に一発凄いことをしてやろう! とはっちゃける場合と、あまり変なことはせずに無難に終わらせようとする場合の二極化することが多いそうです。
私達のクラスは、去年の演劇をやり切って燃え尽きたのか、今年は定番で無難な喫茶店になりました。
この学園の文化祭です、喫茶店は今一つ面白みがありません。
裏方には学園が厳選したプロが入ります。
メニューも決まっていて、奇抜な飲み物や軽食で受けを狙うことはできません。
生徒が行うのはウエイター、ウエイトレスの仕事だけですが、メイド喫茶やらコスプレ喫茶やらも学園の規定に色々と引っ掛かるので実現できません。
結局、喫茶店は毎年どこのクラスが行っても似たような感じにしかならないのです。
私達のクラスにしても、「本物の王子様がウエイターをやっている」くらいしか売りがありません。
ついでに、模擬店はそこまで大規模にはできないので、人数はあまり必要ありません。
交代で行ってもクラス全員に出番が回ってこないくらいです。
なので、私は今年は(今年もと言うべきか)部活の方で重点的に参加しました。
今年は、園芸部も随分と人数が増えました。
入部希望者だけならば去年からアイビー殿下狙いの女子が多かったのですが、そこはきっちりとふるい分けを行いました。
まず、入部の条件として、土いじりができることを必須としました。
園芸部なのだから当然だと思うのですが、そこは貴族の御令嬢です。
土に触れないほどの潔癖症ではなくても、土を掘り返してミミズさんがにょろーんと出て来るともうだめ、な人も多くいました。
特に、アイビー殿下の正妻を狙える上級貴族の令嬢はほぼ全滅でした。
御令嬢は仕方ないにしても、そこで脱落した男子はちょっと情けないと思う。
その結果残ったのはほとんどが下級貴族の令息令嬢でした。
地方の下級貴族ほど農業の成功が領地の繁栄に繋がります。そして、大貴族のように別の誰かを雇って丸投げできるほどの余裕はありません。
地元の発展のため、普段から農業に関心を寄せていたり、どのような苦労も厭わない覚悟を持った者達が集まったのです。
なお、私はもちろん、カルミア様も、アイビー殿下も土いじりは問題なくできます。素手でミミズも摘まめます。
私は、前世とは関係なく、元貧乏な平民としてこの程度はお手の物です。たまに農家の手伝いに行ってお駄賃代わりのクズ野菜を貰ってきたりしていました。
カルミア様は、命がかかっているだけに本気度が違います。多少の苦手意識はあっても克服して突き進むでしょう。
アイビー殿下は……よく分かりません。王族としてそんな泥臭い作業を行った経験はないはずです。
ただ、アイビー殿下は楽しそうなんですよね、土いじり。それはまるで小学生が泥遊びや虫遊びをするかのような……まさか、ね……
さて、園芸部の新入部員は農業改革を目指す下級貴族だけではありません。
植物魔法に適性のある生徒も数名入部しました。
この国では魔法使いと言えば戦闘職です。
攻撃魔法の使い手、直接の魔法攻撃はできなくても同じ戦場に立って戦える者が尊敬されます。
それに対して、戦闘に参加しない、生産系の魔法使いは一段下に見られる傾向があります。
同じ生産系でも優秀な武具や魔法薬、攻撃用の魔道具を作る職人なんかは一目置かれるそうですが、戦闘に貢献しない植物魔法は生産系魔法の中でも下に見られるそうです。
兵糧が無くて戦えるのか! と言いたいところですが、食糧生産の主役は数多くの名もなき農民です。
植物魔法の使い手が農業を始めたとしても、ちょっと優秀な農民が一人増えるだけで大勢に影響は与えません。
大勢に影響を与えるほど、魔法使いの人数は多くありません。
だから、植物魔法の使い手は、魔法使いとしての評価は低いのです。
魔法科に入学させてもらえなかったカルミア様ほどではないにしても、適性が植物魔法と分かった時点でがっかりすることは多いのだそうです。
ところが、園芸部の活動はその評価を覆そうとしています。
元々は、カルミア様の生存率を上げるため、カルミア様自身の価値を高める目的で始めた活動です。
けれども、これが成功すれば植物魔法そのものの評価が上がります。
そして、既に成功の兆しが見えています。
学園内でも不遇だった植物魔法の適性者が、成功者の技術を学ぼうと入部を希望してきたのです。
こちらも下級貴族が多いです。上級貴族の場合、魔法で活躍することを諦めても色々と道はあります。
不遇な植物魔法で身を立てようと考えるだけあって、根性があります。入部試験もしっかりとクリアしています。
そうして入部した植物魔法の使い手と比較すると、カルミア様の魔法は頭一つとび抜けています。
成長促進に限っても他の生徒よりも強力ですし、品種改良の方向性を誘導したり、育成中の植物にどのような世話をすればよいかを知るような魔法に関しては、そんなことができる事さえ知られていませんでした。
カルミア様は三年生で他の生徒より先輩ではありますが、普通科の生徒で魔法の授業を受けていません。それなのにこの状況です。
小説では植物魔法を武器に色々と活躍しているらしいので、元から才能はあったのでしょう。
ただ、それとは別に、魔法の授業における植物魔法の扱いはとても軽いものなのだそうです。
魔法科の二年生になると、応用魔法の授業は系統ごとに分かれて行われます。
土系統と水系統の派生系統である植物魔法は、植物魔法の授業として独立して行われず、土系統の魔法の授業に振り分けられています。
魔法科二年生の後輩の話では、座学では土魔法の理論の合間にたまに植物魔法にも言及がある程度、実技ではそこいらの植物に魔法をかけろとほぼ自主練習のような状態だそうです。
小説の知識と独学で身に付けたカルミア様の方が魔法科で正規の授業を受けた生徒よりも先を行っているのです。
数ある魔法の系統の全てに最高の教育を施すことはまず不可能なので仕方のないことですが、植物魔法の不遇さが目立ちます。
そんな不遇な植物魔法の使い手が、園芸部に入ってからめきめきと腕を上げています。
基礎訓練の終わっていない一年生は理論と魔力制御を中心に練習して、滝行に合格した人から植物魔法の実技に移っています。
攻撃能力のほとんどない初級魔法や戦闘に使用されない魔法ならば基礎訓練が終わる前から自主的に練習することも黙認されています。
ただ、たとえ植物魔法であっても、暴走すれば爆発します。
なので、園芸部の方針としては基礎訓練が終わってから植物魔法の実技に入ることにしました。
一年生の魔法の授業でも、滝行を合格すれば初級魔法くらいは教えてもらえます。
だから、園芸部で行っている植物魔法の練習は、授業のカリキュラムに比べてそれほど先行しているわけでもないのです。
それにもかかわらず、園芸部に入ってからの上達ぶりは目を見張るものがあります。
魔法の授業、受ける意味があるのでしょうか?
植物魔法の不遇っぷりはさらに続きます。
土魔法の授業なので、実技の評価は使用できる土魔法で決まります。
最低合格ラインは土の初級魔法が使えること。
派生系統でも適性があれば初級魔法くらいは習得も難しくないはずですが、土魔法の使い手ならば入学前から初級魔法くらい習得しているものです。
初級魔法も使えない生徒への指導はおざなりになり、最も適性のある派生形の魔法については自習で当人任せ。
さらに、成績は土系統の魔法で評価されるのでどれだけ頑張ってもギリギリで合格止まりです。
同じ派生系統でも攻撃や防御に使用できる魔法ならばそれなりに評価されますが、効果が表れるのに時間がかかる植物魔法ではまともな評価もできません。
自分の適性を捨てて土魔法の習得に専念しても、成績は底辺争いしかできないとなれば、学習のモチベーションも下がります。
この事実を知ったうえでカルミア様を普通科に入学させたのだとしたら、実はラバグルト公爵の親心だったのかもしれません。
ほとんど放置状態だった植物魔法の使い手は、園芸部にやって来て才能を開花させました。
適切な指導が魔法の習得には重要だったということでしょう。
カルミア様が指導した二年生の後輩は、すぐに植物魔法を使えるようになりました。
そして、植物魔法が使えるようになると、割とすぐに土と水の初級魔法も使えるようになりました。
植物魔法を覚えたことで、魔法を使う感覚をつかんだのではないかと思います。
植物魔法を捨てて土魔法に専念するよりもよほど近道でした。
植物魔法自体がマイナーな魔法だったので、その初級魔法でも教わる機会がほとんど無かったのでしょう。
魔法が使えないまま入学するから魔法の習得が難しい。
成績が振るわない者が多いから教える方も熱が入らない。
大成する者がいないから魔法の存在が知られない。
何だか、不遇のスパイラルです。
今回、良い指導者に恵まれるだけでこの不遇のスパライルから抜け出せることが証明されました。
カルミア様が学園に掛け合って、魔法の実技の授業中にほとんど自主練習になる植物魔法の生徒に対して、その時間園芸部で練習することを認めさせました。
これで不遇が改善されればよいのですが……根本解決は難しいものがあります。
植物魔法の腕が上がっても正当に評価する基準がないので、成績は上がりません。
派生系統でも適性があれば初級魔法以上の魔法を習得できる可能性はあるので、最底辺の脱出はできるかもしれませんが、上位を狙うのは難しいでしょう。
園芸部の学生が教えるやり方も、何年か植物魔法の適性者が入学しなければ途絶える恐れがあります。
そして、不遇なのは植物魔法だけではありません。マイナーな系統の魔法の素質を持つ学生全てに最適な教育を施す余裕は学園にはありません。
お義兄様も闇魔法を教えることのできる教員がいなくてほぼ独学です。図書館で調べても「こんな魔法があるらしい」程度の情報しかなくて苦労したそうです。
まあ、この辺りは本来学園の課題です。
問題提起はしたので、後は学園の方で改善に頑張ってもらいましょう。
それはともかく。
人数の増えた園芸部は、ずいぶんと賑やかになりました。
多くの部員は領地を発展させるため、あるいは不遇な植物魔法で成果を上げて少しでも自分の境遇を良くするため、真剣に活動しています。
みんなで頑張ったので、今年の文化祭は去年よりも豪華になりました。
試作品の農作物の種類も増えましたが、品種改良した花もあります。
国として領として農作物が重要なことは間違いありませんが、贈答用、式典用と花にも需要があります。
必要な時に必要な種類の花を用意することができれは信頼を得られますし、美しい花、珍しい花を用意できれば尊敬されます。
単なる見栄の問題ではあるのですが、貴族は見栄で生きているところがあります。
特に大貴族に対しては、農作物よりも美しい花珍しい花の方が注目を引くので、そうした大貴族に取り入りたい植物魔法使いとしては優秀な農作物よりも重要になります。
そんなわけで、今年はカラフルな花が飾られているので園芸部の展示はとても華やかです。
農作物ばかりだと見た目的には少々地味ですからね。
花目当てに園芸部に寄る人も多く、文化祭は盛況でした。用意した花と種も完売しました。
もちろん、去年に引き続き農作物目的で訪れる人もいます。
ついでに、去年農作物の苗とか種とかを購入した人からは、作物の育成状況などを聞いています。
試作品なので全て上手くいっているわけではありませんが、そこそこ好評でした。
この分ならば、来年も園芸部は大丈夫そうです。
今後、園芸部が成果を上げれば、園芸部を立ち上げたカルミア様の評価に繋がります。
既に、下級貴族が中心ですか一定の支持を集めていますすし、植物魔法の地位の向上も始まっています。
園芸部を始めた目的はほぼ達成しました。
今後、婚約破棄されようと、公爵家から追放されようと、カルミア様を受け入れる先には不自由しないでしょう。
ただ、カルミア様の価値が高まっても、むしろそのことに警戒してカルミア様を排除しようとする場合もあるので要注意です。
最優先はカルミア様が死なないこと。
内乱王子を防ぐためには断罪&婚約破棄も阻止したいところです。
園芸部の方はもう後輩に任せても問題なさそうですし、私達は私達の問題に集中することにしましょう。




