第十六話 林間学校2
・2025年12月6日 誤字修正
誤字報告ありがとうございます。
ブックマーク登録およびリアクションありがとうございました。
ゲームでは、三年生の林間学校のイベントはどのルートに入ってもおおよそ似たような流れになります。
初めにルートに入った相手の過去や悩み事、あるいは家庭の事情が語られます。
ニゲラ王子ルートでは、実は十歳の時にニゲラ王子と出会っていたなどと言う事実もここで判明します。
それからすれ違ったり衝突したりとひと悶着あった後に和解し、絆をより深めたうえで強敵と戦うことになります。
抱えている問題や和解に至るまでのあれこれはそれぞれ違っていても、全体の流れは一緒です。
イベントを通じて一回り成長したように見せて、その実本質は何も変わっていないと言う点も一緒です。
そして、最後に戦う強敵が、祠に封印されていた魔物になります。
ニゲラ王子ルートとローレルルートでは『魔王』が。
ケールルートとガザニアルートでは『魔獣』が。
アスタールートでは『邪神』が。
それぞれ、封印を破って出現します。
ただし、ゲームでは三体の魔物に見た目上の差がありません。
別に、同じ魔物を別の名前で呼んでいるとかではなく。
満月を背景に現れる巨大な人型のシルエット。それが魔物の登場シーンです。
はい、同じ絵を使い回しています。
手抜きです。
グラフィッカーさんは主要キャラで手一杯で、外部に発注する予算も少なく、こう言ったところで手抜きの使い回しをやっていました。
戦闘モードでもシルエットのままなので本当に見た目の違いはありません。そもそも外見の設定自体在りません。
見た目に差はありませんが、能力には個性を持たせてあります。
まず、『魔獣』は物理戦特化です。
物理攻撃に対しては非常に硬く、ほとんどダメージが入りません。
攻撃も強力な物理攻撃で、ローレルが耐えきれなければあっという間に全滅しかねません。
逆に言うと物理の近接攻撃のみなので、ローレルが耐えきれれば負けません。
また、魔法攻撃に対しては耐性が低いので、攻撃魔法をガンガン当てれば勝てます。
ローレルの防御力を上げてアスター先生をローレル専属の回復役にして、それで足りなければヒロインも回復に回し、残りのメンバーで攻撃魔法を撃ち込むのが必勝パターンです。
逆に、魔法戦特化なのが『邪神』です。
魔法の効果を減衰させる特殊な場を周囲に常に展開している『邪神』に対して、攻撃魔法はほとんど効果がありません。
その一方で、『邪神』の放つ魔法は普通に効果を発揮するというなかなかに卑怯な仕様です。
魔法の撃ち合いでは、『邪神』に勝てません。
例外は光魔法です。減衰する前に着弾するので、光魔法による攻撃だけは普通に効果があります。
また、物理攻撃にも弱いので、ローレルが無双します。
メンバーの成長具合によって、ヒロインを回復要員に徹するか攻撃に参加させるかが変わってきます。
最後に、『魔王』はバランス型です。
物理攻撃も魔法攻撃もそこそこ効きます。
それなりに威力のある物理攻撃と魔法攻撃を放ってきます。
際立った特徴がないので地味に思えるかもしれませんが、特化していない分弱点も無く、純粋に強いのが『魔王』です。
巨大なシーサーペントに比べるとHPは少ないですが、防御力の高さや攻撃の多彩さを加味すると、イベントに登場する敵の中で単体で最強なのはこの『魔王』になります。
なお、イベント以外も含めてゲーム中最強の敵は、ダンジョンの50階層のフロアボスです。
マキシマムレーザーを三発耐えられる敵はこいつだけです。
さて、ゲームと同じ仕様ならば、『魔獣』か『邪神』ならば攻略方法があります。
ただし、誰のルートにも入っておらず、魔物の外見の情報もない現状では、どの魔物が出てきたのかすぐには判断できません。
戦いながら相手の性質を見極めて、正しい攻略方法を導き出す必要があります。
私はゲームの知識があるのでその点他の人よりも有利……とは言い切れないくらいにゲームの世界と乖離してきています。
出てくる魔物の性質はゲームと同じだと思うのですが、ゲーム知識が先入観となって判断を誤る可能性だってあります。
相手が強い魔物だけに、ちょっとした判断ミスが惨事を生みかねません。
そんなことを考えていたのですが。
心配事は全て無意味になりました。
何故ならば――
「出たぞ、あれが封印されていた魔物か!!」
「さ、三体もいるぞ!」
『魔王』『魔獣』『邪神』
三体まとめて登場です。
最悪です。
「まずい、あれほどの魔物が暴れ出したら結界が持たない。生徒の避難と軍の出動要請を!」
強い魔物がその内部で暴れると、魔物避けの結界はその機能を維持できなくなります。
強い魔物が暴れている現場に弱い魔物が近付いてくることはないでしょうが、それ以外の場所――例えば宿舎に残った学生が危険にさらされる恐れはあります。
私達は二手に分かれました。
現生徒会メンバーとカルミア様は宿舎に引き返して生徒の避難誘導と軍の出動要請を。
それ以外の人間――前生徒会関係者と騎士達はこの場に残って魔物の足止めです。
魔法研究所の魔法使いはどちらかと言えば研究者のようですが、それでも杖持ちの魔法使いです。一応戦力になります。
また、状況が許せば祠の封印装置を調べて再封印を試みるためにこの場に残ってもらっています。
さて、封印から解放された魔物を改めて見てみます。
三体とも二本足で立つ人型をしていますが、その身長は五メートル近くあります。
シーサーペントに比べればそれでも小さいですが、二階建ての建物の屋根に届くほどの巨人です。
そのうちの一体は、二足直立するオオカミのような姿をしています。
全身が剛毛で覆われ、頭部は獣の顔です。
おそらく、これが『魔獣』なのでしょう。
残念ながら、あまりもふもふではありません。
もう一体は、襤褸切れに身を包んだ骸骨のような姿をしています。
襤褸切れの外に出ている部分は骨だけで、筋肉も無しにどうやって動いているのか分かりません。
おそらく、これが『邪神』なのでしょう。
大鎌でも持たせたら死神にしか見えません。
最後の一体は、一番人に近い姿をしています。
布を巻きつけただけの半裸でマッチョな大男。厳つい顔と合わせて仁王像のようです。
おそらく、これが『魔王』で間違いないでしょう。
その頭部は、髪形なのか頭の形状がそうなっているのか、王冠を被っているような形に見えます。これが『魔王』の名の由来なのかもしれません。
三体の魔物は、封印から解放されても状況が分かっていないのか、周囲を見回すばかりで特に何か行動しようとはしません。
おかげで色々と手を打つ余裕がありましたが、その猶予時間も終わりのようです。
魔物達の動きが変わりました。そろそろ次の行動に移りそうです。
この状況で厄介なことは、三体がバラバラに別方向に去ってしまうことです。
個別に撃破したいところではありますが、一体でも強力な魔物が別々に行動すると、戦力を集中することが難しくなります。
手堅く一体ずつ倒して行こうとすると、後回しにした魔物がどこかで暴れて被害が出る恐れがあります。
だから、出動した軍が到着して戦力が整うまで三体ともこの場所に足止めしておきたい。
ニゲラ殿下はそう考えたのでしょう。
「奴らの注意をこちらに向ける! ファイヤーボール!」
ニゲラ殿下の放った火球が、魔物に届く手前で突然小さくなりました。
これが『邪神』の能力である魔法の威力を減衰させる場の効果なのでしょう。
「何だと!」
そのことを知らないニゲラ殿下は当然驚きます。
小さくなった火球は、そのまま進んで『魔王』にぶつかりました。
乾いた音を立てて破裂した火球は、大きさ相応に威力も小さくなっているようで、全くダメージを与えたように見えません。
ですが、魔物の気を引くことはできたようです。
直接攻撃を受けた『魔王』のみならず、『邪神』と『魔獣』も一斉にこちらを向きました。
私達を敵とみなしたようです。
三体の魔物は、互いに顔を見合わせると、その場で縦一列に並びました。
って、仲良しかよ! 同じ場所に封印されて友情でも芽生えたか!?
……いえ、そうではなくって。
これは不味いことになったかもしれません。魔物達は互いの能力を理解しています。
一列になった先頭に『魔獣』、二番手が『邪神』、最後尾に『魔王』の順に並んでいます。
『邪神』が健在な間は魔法攻撃はほとんど効果はありません。
けれども、接近戦による物理攻撃で倒そうとしても、『魔獣』と『魔王』が阻みます。
物理特化の『魔獣』だけでなく、『魔王』だって物理攻撃のみで倒すのは大変な強敵です。
その『魔王』が先ほどのお返しとばかりに魔法を放ちました。
それは一見、しょぼい火の玉に見えました。
けれども、一定距離進んだところでいきなり大きな火球に変わりました。
「うわぁ!」
慌てて避けたニゲラ殿下が先ほどまで立っていた場所に着弾した火球は、地面に大きく焼け跡を残しました。
どうやら『邪神』の作る場の内側では魔法の効果が小さくなりますが、場の外に出れば元の威力に戻るようです。
これが、『邪神』からは一方的に魔法攻撃ができる理由なのでしょう。
うーん、だいぶまずい状況です。
三体の魔物がバラバラに暴れる状況を危惧していましたが、三体が協力し合う現状もかなり厄介です。
こちらからの魔法攻撃はほとんど無効化されるのに、『邪神』と『魔王』は攻撃魔法を使いたい放題です。
十分に接近すれば魔物側の魔法も無効化されますが、物理特化の『魔獣』と物理攻撃もそれなりに強い『魔王』が行く手を阻みます。
この三体を相手に正面から戦ったら、国軍を動員してもかなりの犠牲を強いられることでしょう。
これはもう出し惜しみしている場合ではありません。
光の攻撃魔法ならば『邪神』にも通用します。『邪神』だけでも倒せばその後の戦いもかなり楽になるでしょう。
問題はどこまで見せるかです。
穿光ならばあまり目立たないのでコソコソと攻撃することもできます。
それとも、いっそうのこと派手な攻撃魔法を披露してしまいましょうか?
これまで奥の手として隠してきましたが、そもそもマキシマムレーザーを見せたとしても対抗策なんて思いつかないでしょう。
何だかもうそれで良い気がしてきました。
どのみちあの三体の魔物は倒さなければなりません。
どうせならばこれ以上被害を出さないように、手早く倒してしまった方が良いでしょう。
そうと決まれば……あれ?
「あの魔物達、同じ場所から全く移動していないのですが、もしかして動けないのでしょうか?」
「……確かに。もしかすると、封印は完全には解けていないのかもしれれない。」
ゲームでは出てくる魔物は一体だけ。残り二体の魔物を封印し続ける余力が残っていたのです。
祠の封印装置がゲームと同じならば、封印に綻びが生じてもいきなり三体全部が完全開放されるのは不自然です。
ですが、三体全ての魔物が出てきても封印は残っているとすれば、その封印の力で魔物が移動できないのだと考えれば、全ての辻褄が合う……気がします。
少なくとも、現在不自然に同じ場所に留まっている理由は、この場所から動けないからで間違いなさそうです。
つまり、足止めするために魔物の気を引いたニゲラ殿下の行為は意味が無かった……まあ不可抗力ですし、突っ込むのはやめておきましょう。
この状態がいつまで続くか分かりませんが、しばらくの間は魔物はこの場所を動けないでしょう。だとすれば……
ふと、空を見上げます。
ゲームのイベントでは夜でしたが、今は昼間。空は雲一つない快晴です。
炎天下に動けない魔物が三体。
これならば、この状況ならば利用できる魔法があります。
「大技行きます! 魔物から離れてください!」
「何をするつもり……だ……ぁ?」
問いかけるニゲラ殿下の声が尻窄みになりました。
私の放つ魔力を感じたのでしょう。
普段は完璧な制御で体内に抑え込んでいる膨大な魔力の一部を、私は今体外に出しています。
それは制御しきれずに漏れ出た魔力ではなく、魔法として使用するために完全に制御された魔力です。
今回はコソコソすることを止めたので、派手に行きますよ。
魔物達までもぎょっとした様子でこちらを見ていますが、そちらは無視します。
――高き天空に座し、全てを照らす太陽よ。大いなる光の根源に私は希う。
――命を育む日の光、その恵みを分け与え給え。
――千の光束ね、万の光集い来たれ。
――行く道を遍く照らし、邪なるものを退けたまえ。
呪文はかなりテキトーです。無くても魔法は発動します。
ただ、規模の大きな魔法では手順も多くて時間がかかるので、「色々やってるんだぞー」と周囲に知らせるために呪文を唱えてみました。
魔力を感知できる人ならばそんなことをしなくても分かるのですが。
魔物達も私が何かしようとしていることを理解したようです。『邪神』の場で守られているはずなのに何か危険を感じたのでしょう、『邪神』と『魔王』が魔法で攻撃してきます。
けれども、魔物の攻撃はニゲラ殿下やガザニア先輩が魔法で相殺し、ケールが風魔法で逸らし、ローレルが土魔法で防ぎます。
魔物の攻撃がここまで届かないので私は魔法の構築に専念します。
この魔法、実はそれほど複雑なものではないのですが、規模が大きいために時間がかかります。
それに、この魔法をこの規模で、つまり本気で放つのはこれが初めてです。少々慎重に行っています。
それでも、やがて魔法は効果を表し始めました。
ふっと周囲が暗くなりました。
比喩的な意味ではありません。
まるで照明が落ちるように、物理的に明るさが失われました。
誰かが空を見上げます。
本日は快晴、雲一つありません。
けれど、見上げた空には雲どころか、太陽も青空もなく、星すら見えない漆黒が広がっていることでしょう。
太陽の光は失われていません。ただ、光魔法で捻じ曲げられているだけです。
捻じ曲げられた光はどこへ行ったか?
それは魔物達の頭上です。
光の褪せた世界の中で、三体の魔物だけがスポットライトを浴びたように明るく照らし出されています。
ここまでが準備段階です。
今、数十メートルの範囲内に降り注ぐ太陽光は、全て三体の魔物の上だけに集められています。
そして、この範囲内に放り込まれた光は、全て今光っている範囲、魔物達の頭上に導かれます。
これは、照準です。
狙いは定まりました。
範囲内に味方の姿はありません。
後は魔法を発動するだけです。行きます!
「収束陽光撃!」
光を捻じ曲げる範囲を、一気に広げます。
最終的には、半径十数キロメートルの範囲の太陽光を、三体の魔物のいる十メートルにも満たない範囲に集中させました。
光はどんどんと強くなり、やがて目も眩むほどの強烈な光の柱に三体の魔物は飲み込まれて行きました。
――グオォオオオー!
魔物達の断末魔の叫びが上がります。
光魔法による攻撃は、『邪神』の作る場でも威力を減衰させることはできません。
それ以前に、この光は太陽光であり、魔法の光でさえありません。ある意味物理攻撃です。
その物理攻撃に強い『魔獣』であっても、打撃でも斬撃でもなく、太陽光を集約して発生する高熱には耐えられませんでした。
倒しそこねが無いように念入りに炙った後魔法を解除すると、魔物は影も形も亡くなっていました。
ただ溶岩状に溶けた地面が残るのみでした。
ちょっとやりすぎたかもしれません。祠もきれいさっぱり無くなっていました。
まあ、ともかく、真昼間に出てきたことが魔物達の敗因でした。
こうして、色々と傷跡を残したものの、死者も出ることなく無事林間学校は終わりました。




