第六話 ローレルの休日4
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それにしても、チンピラの数が多いです。
私が独りで歩いている女子だからか、貴族と判る格好をしていないからか、出会う度に絡まれます。
いえ、ケールのイベントを考えると、貴族と知っても手を出してきそうですね。
いちいち叩き伏せるのは手間です。
そうこうするうちに、またまた現れました、チンピラさん。
しかも、そこそこ人数がいます。
狭い裏路地で大勢屯されると邪魔なんですけど。
……あれ?
何だか険悪な雰囲気です。
チンピラ同士で仲間割れでしょうか? 二手に分かれていがみ合っているように見えます。
チンピラ同士で潰し合っているなら私が介入する必要は無いのですが……あ、向こうもこちらに気が付いたようです。
「嬢ちゃん、逃げろ。ここは危険だ!」
「上玉じゃねえか。おい、だけか逃げられないように捕まえておけ!」
……どちらに味方すべきか、非常に分かり易いですね。
降りかかる火の粉は払うまでです。
戦闘はすぐに終わりました。
十人くらいいましたが所詮はチンピラです。
人数はいても連携も取れていないので一人ずつ順に倒して行けばそれで終わりです。
対立していたもう一方のチンピラは、私に手を出してこなかったので放置しています。
敵対する気が無いのなら、話を聞けるかもしれません。
と、思っていたら向こうから話しかけてきました。
「あ、あんたは! あの時の姐さん!?」
誰が姐さんですか! どう見てもそちらの方が年上でしょうが!!
前世の年齢?
それを含めるとおっさんになるので却下です。
と言うか、前世の年齢を合算すると、この世界の基準ではそろそろ初老に入ります。
体は少女、魂は爺さん。誰得ですか?
無し無し、前世の話は無しで。
頭の中の葛藤を振り払って、改めて目の前のチンピラさんを見てみると……見たことがあるような、ないような。
「オレっす。去年の夏に姐さんにボコられた。」
ああ、言われてみれば確かにそんなこともありました。
王都の繁華街の裏通りを歩いてチンピラに絡まれたことは何度もありました。
当然、全員叩きのめしています。
あいにくとチンピラの顔なんていちいち憶えていませんが、それが去年の夏だというのならば彼らは王都在住の地元のチンピラです。
イントリーグ家の影響を受ける地元のチンピラは、基本的に堅気の人間、特に貴族相手にあまり酷い悪さをしません。
とはいえ、チンピラですから多少の迷惑行為や恐喝くらいのことはします。
特に私はあまり貴族向きでない場所に行く時は貴族に見えない格好をしていたので、余計に目を付けられやすかったのでしょう。
それを全て返り討ちにしていたら、そのうちに絡まれなくなりました。
これが地元の強みで、情報が共有されて、撃退されていないチンピラも私に手出ししなくなったのです。
私のことをヤバい女として周知されたのです。
アンタッチャブルな感じの私のことを「姐さん」等と呼ぶのは、彼らがチンピラだからです。
上品な笑顔の裏で権謀術数で殴り合う貴族の権力闘争とは異なり、裏社会の、特に底辺であるチンピラの人間関係は単純明快です。
強い奴が偉い。
力こそ権力。
力を示せば、敵対していても一目置かれるということです。
どこのガキ大将ですか!
チンピラを何度も撃退してきた私は、いつの間にやら尊敬の念を集めていました。
チンピラに慕われても嬉しくないんですけど!
それでも敵対しないのならば、話を聞けるかもしれません。
せっかくなので、少し情報収集しておきましょう。
「つまり、他所から来たならず者たちが王都で人攫いを始めたということ?」
「そうっす。俺達も迷惑しているっす。」
カランセの情報の裏が取れました。
ついでに、ケールのイベントの裏についても想像が当たっていそうな気配です。
王都に入り込んだならず者の中に、日常的に人身売買や営利誘拐に関わっている者達がいたらしいのです。
そうした奴隷商や人質を買い戻す仲介屋に伝手のある者が中心となって、王都で人攫いをする計画を立てたようです。
貴族や平民の中でも裕福な者が集まる繁華街で人を攫えば、高額の身代金を要求したり、奴隷としても高く売れることが期待できます。
成功すれば実入りの良い犯罪ですが、王都のチンピラがその犯罪に加担することはありません。
貧しい平民や不法居住者ならばともかく、貴族や裕福な家の者が攫われれば問題は大きくなります。
しかも、場所が王都となれば、国の威信にかけても犯人を見つけ出し捕まえようとするでしょう。
その捜査の手は、犯行に関わらない裏社会の人間にも及びます。
裏社会の人間にとっても、大迷惑なのです。
そんな傍迷惑な犯罪に加担した者は、たとえ捕まらなくても裏社会に居場所がなくなります。
だから、別にイントリーグ家の指示が無くてもそんな犯罪には加担しないし、むしろ妨害しようとします。
そんな犯罪に協力できるのは、もう王都を出て行くことが決まっている者だけです。
地元の組織の協力が得られないと、大掛かりな犯罪は困難になります。
そして、王都から大金が得られそうな人物を誘拐しようとすればかなり大掛かりになります。
金になりそうな相手を見つけて誘拐し、人質に逃げられないように拘束監禁し、ばれないように王都から連れ出す。
それぞれに人手が必要なので、少人数のグループでは大勢誘拐することはできません。
それに、監禁場所や馬車の手配などそれなりに金もかかるので、よほど高額の身代金が取れる人物を捕まえなければリスクに見合う利益が得られないそうです。
アウェイな土地でそんな割に合わないことは普通やりません。
ところが今回は事情が異なります。
王都のチンピラや裏社会の組織が協力しなくても、安易に犯罪に加担する者達が大勢いました。
王都の外からやって来たチンピラたちです。
貴族の私兵にもなれず、地元の組織に筋を通す心意気も一目置かれるだけの実力も無い者達は、最初から王都に居場所はありません。
それ故に、どれほど迷惑な行為でもはした金で引き受けます。
今回の誘拐を計画した主犯グループは、そうした者達を手勢として引き入れました。
そして、雇った手勢に誘拐を実行させ、主犯グループはどこかに潜伏して攫われた人を監視しつつ王都脱出の準備を進めていると考えられています。
同じ「王都の外から来た」と言っても、全員同郷と言うわけでもなく、彼らの間に連帯も仲間意識もありません。
一番危険なのが直接誘拐を実行する役割で、失敗すると衛兵に捕まったり地元のチンピラに袋叩きにされたりしますが、助けが来ることは無いそうです。
私も何人も叩きのめしていますが、仲間を連れて仕返しに来ることもありません。
そもそも互いに仲間と思っておらず、失敗したら切り捨てる捨て駒のような扱いなのでしょう。
結局、実行犯をいくら潰しても効果は薄く、主犯グループを捕まえなければ事件は終わりません。
ただ、その主犯グループが姿を現しません。
捕まった人実も同じ場所にいるはずですが……
「こいつらを締め上げても、人質の引き渡し場所しか知らされていないっすよ。」
実行役は誘拐した人質を決められた場所で引き渡すだけで、そこからどこへ連れて行かれるのかは知らされていないそうです。
ケールルートのイベントでは、騎士科の落ちこぼれを囮にして人質が連れて行かれる先を調べたと考えれば辻褄が合います。
ケールがボコられるイベントを潰したから、囮を使う作戦が行われず、誘拐犯を見つけられていないのでしょうか?
うーん、悪いことをしたとは思いませんし後悔もしていませんが、何かフォローしておきたいですね。
私が囮になってわざと捕まる手もありますが、それだと主犯の元に辿り着くまでにどれだけ時間がかかるか分かりません。
それに、私がしばき倒して放置したチンピラが万が一にも居合わせたら、わざと捕まったことがばれて警戒されるかもしれません。
何とか手早く解決できる方法は無いでしょうか……あ、そうだ。
「あなたたち、この近くで大型の馬車を停められて、そのまま怪しまれずに王都の外まで出られそうな場所知らない?」




