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第七話 一年前

・2024年11月3日

 誤字修正

 誤字報告ありがとうございました。


評価設定、ブックマーク登録および「いいね」ありがとうございました。

 私がチャールストン伯爵家の養子になってからもう四年になります。

 来年は学園に入学して、ゲームの本編が始まってしまいます。

 それまでにできる限りの準備をしなければなりません。

 何をどう準備すればよいのか分からないのが悩みどころです。

 ゲームのシナリオに私の望む結末はありません。

 攻略対象五人の誰かと結ばれるのは願い下げですし、逆ハーレムエンドは論外です。

 私にとって比較的穏当なのは、誰とも結ばれないノーマルエンドですが、その場合でもカルミア様やおそらくはお義兄様もお亡くなりになってしまいます。

 私自身のハッピーエンドを目指すならば、ゲームのシナリオを外れて、望む未来を自分で切り拓かなければなりません。

 そのためには力が要ります。

 貴族の礼法を勉強しているのもその一環です。政治力、つまり味方を増やそうと思ったら礼法は必須です。不作法でいつ大失態をやらかすか分からない人間と親しくなりたいとは思わないでしょう。

 幸い、私の礼儀作法は学園に行っても通用するレベルだと言われました。第一関門はクリアです。

……まあ、学園に入学してからも礼法の勉強は続くわけですが。

 礼法以外の勉強も大切です。

 ゲームの設定や前世の世界の知識に頼っていたら、どんな落とし穴があるか分かったものではありません。

 ゲームのシナリオから外れて行くのです、想定外はいくらでも出て来るでしょう。この世界の生の知識で対応しなければなりません。

 ここはゲームの中ではなく現実の世界です。設定にないこともたくさんあるはずです。それに魔法のある世界です。前世の常識の通用しないことも多いでしょう。

 あと、原作者やシナリオライターさんしか知らない裏設定とかもありそうです。前世の人はプログラマーだったので、そこまで詳細な世界設定を把握していないのです。

 何が起こっても対応できるように多くの知識を蓄えなければなりません。

 知識だけではなく、魔力や体力も鍛えていざという時にできることを増やしておきたいところです。

 もしも転生先がカルミア様で、頭の中お花畑のヒロインが現れたなら、迷うことなく「ざまぁルート」一択なので分かり易いのですけれどね。


 そうそう、最近魔法を一つ覚えました。

灯り(ライト)』の魔法です。

 小さな光の球が出てきて周囲を照らす簡単な魔法です。どこかの王子の漏れ魔法(リークマジック)にも似ていますが、こちらは全く熱を発しないLEDライトのような安全な光です。

 魔法の実践は学園に入学してからの予定でしたが、私の魔力制御の訓練が予定以上に進んでいるということで、失敗しても害のない魔法を一つ教えてもらいました。

 貴族の子息ならば入学前から得意な系統の魔法をいくつか覚えていることも珍しくないそうです。

 けれども、私の場合は少々事情が異なります。

 私が適性を認められた光魔法は、あまり詳しく知られていない魔法の系統なのです。

 光魔法に適性のある人が少ないということもありますが、光魔法の使い手のほとんどが教会に属していて、その魔法技術を教会が独占しているのです。

 お義父様が私を養女にした理由の一つが、私を教会に取られないためだったりします。

 私は教会に確保されませんでしたが、それはつまり光魔法を教えられる人が身近にいないということでもあります。

 ちゃんとした指導者無しで魔法の練習をするのは危険です。どんな事故が起こるか分かりません。

 と言いますか、経験済みです。効果の低い漏れ魔法(リークマジック)であの大惨事です。

 まあ、教会が秘匿しているから練習したくてもやり方が分からないのですけれど。

 ただ、灯り(ライト)のように、適性が無くても使える初級の魔法で危険性もないものはある程度知られていて、使える人もそこそこいます。

 使い方が分かっていて、失敗しても危険はなく、光魔法の中でも最も簡単。

 三拍子そろっていたためにこの灯り(ライト)の魔法を覚えました。

 適性があったためか、すぐに使えるようになりました。これで夜も照明に不自由しません。

 因みに、魅了(チャーム)の魔法は教会が秘匿している魔法の一つです。

 私は前世の人の知識と自分の適性魔法である光魔法について調べまくったことでそのような魔法の存在を知りました。

 お義兄様は闇魔法の中に魅了(チャーム)への対抗魔法が存在していたから知っていたそうです。

 しかし、一般的には知られていない、高度で危険な魔法です。

 漏れ魔法(リークマジック)として発動したことが不思議なくらいです。

 そうそう、お義父様とエリカにはお義兄様が魅了(チャーム)を解除する魔法をかけたのですが、いまだに猫かわいがりを止める気配がありません。なぜなのでしょう?


 魔法の他に、剣の扱いも学んでいます。

 普通の貴族の令嬢ならば必要ないことかもしれませんが、私の場合は魔法の才能を活かした仕事をする必要があります。

 そういった仕事の中には荒事の現場に出て行くようなものもあります。簡単な護身術程度でも、いざという時に身を守る手段は多い方が良いのです。

 それに、就職以前にもゲームでは荒事に巻き込まれるイベントは発生します。

 魔物に襲われたり、野盗に襲撃されたり、奴隷狩りや邪神教団に誘拐されたり。

 基本は攻略対象の個別ルートに入った後に発生して、その攻略対象に助けられることになります。

 攻略対象のルートに入らなければ発生しないイベントですが、完全にシナリオを外れた状態で本当にイベントが発生しないか、もし発生した場合ちゃんと助けが来るのかは不明です。

 それに、シナリオ通りに進めば私は助かっても無駄に犠牲者が出るものも多いのです。

 自衛のためにも、被害を拡大しないためにも使える手札は少しでも増やしておきたいところです。

 目標は、剣で筋肉バカのローレル・ベスビアスを超えること!

 白兵戦で学園最強の男に勝てれば大概の敵には対処できるでしょう。

 もちろん、脳筋男に腕力で対抗しようとは思いません。私はこれでもか弱い乙女なのですから。

……鍛えまくって筋肉男を超えるマッチョヒロインに!

 駄目です! 脳内で前世の人が「や~め~て~」と悲鳴を上げています。ついでにシナリオライターさんの高笑いも聞こえます。

 まあ、後々は強化系の補助魔法を使えるようになるはずですが、元の筋力が低ければ強化するにも限界があります。

 力が足りないならば技とスピードで補いうのが定番です。そのためには練習あるのみです。

 オリジナルの魔法剣も一つ思いつきました。

 魔法剣ですよ、魔法剣!

 せっかく魔法を覚えたので、応用してみました!

 と言っても、灯り(ライト)の魔法に攻撃能力はありませんが、そこは使い方次第です。

 それでは行ってみましょう!


幻影剣(ミラージュブレード)!」


 剣に手を添わせると、そこから剣が光を放ちます。

 剣に灯り(ライト)の魔法を纏わり付かせただけの、それ以外何の効果もない光る剣です。

 けれども、この派手に光ることに意味があります。


「剣士と戦う時には剣先ではなく、剣を振るう相手を見ろ」


 よく言われることですが、この剣は目立つ光に惑わされてどうしても剣先に意識が行ってしまうのです。

 これだけでも相手を攪乱する効果がありますが、この幻影剣(ミラージュブレード)は剣を素早く動かすと光が一瞬遅れて動くのです。

 制御が甘いと言われればそれまでですが、実体のない光の剣に気を取られていると、本体の剣にバッサリやられるという寸法です。

 フッフッフッ、幻影と踊れ!

 なんだか前世の人がノリノリです。

 それでは試してみましょう。幻影剣(ミラージュブレード)、夢幻切り!


 ――ゴツン!


「遊ぶな!」

「あ痛っ!」


 くっ、さすがはお義兄様です。いきなり見切られてしまいました。

 光の魔法剣は闇魔法の使い手には通用しないのでしょうか!?


「発想は悪くない。上手くすれば初見殺しの技になるだろう。だが、全ては剣術の実力があってのことだ。まずは普通の剣術を磨け!」


 はい。全く持ってその通りです。

 既に学園を卒業したお義兄様は、王都の政府関連機関に就職が決まっています。

 そこで何年か経験を積んだ後、チャールストン領に戻ってお義父様を手伝いながら領主の仕事を覚えます。

 つまり、この春休みが終わったらしばらくはお義兄様と会う機会も減ってしまいます。

 今のうちにお義兄様から教われることはしっかりと習っておきましょう。

 まず、剣は基礎からしっかりと!


 来年はいよいよ私も学園に入学します。ゲーム本編の開始です。

 いえ、この世界はゲームではありません。

 数奇な縁で貴族の一員となったフリージア・チャールストンの一度きりの人生です。

 精一杯生きて見せましょう!

 そのための下準備はしてきました。今年はその総仕上げです。


 さあ、運命(シナリオ)をぶっ壊しに行きましょう。


フリージアダイナミック(縦斬り)

フリージアクラッシュ(斜め斬り)

フリージアブルーフラッシュ(横斬り)


ただし、威力は変わりません。

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