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花咲く王国で恋をしない ~乙女ゲームの世界のヒロインに転生した元男ですが、何をすればよい?~  作者: 水無月 黒
第二章 二年生編

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第十三話 林間学校2

・2025年3月16日 誤字修正

 誤字報告ありがとうございます。


評価設定、ブックマーク登録およびリアクションありがとうございました。

 そんなこんなで、今日も夜の見回りをやっています。

 私が外の見回りに参加しているのは、照明兼探索係だからです。

 ダンジョンで鍛えまくった光探査(スキャン)が今日も冴え渡ります。

 見通しの悪い森の中だって、細い光線が通る隙間はいくらでもあるので詳細に調べることができます。

 時間がかかるのであまり奥までは調べませんが。

 夜遅くまで見回るので、睡眠時間をがっつり削られます。

 ニゲラ殿下は昼間に仮眠を取ったりしていますが、その分生徒会としての企画を主催する仕事は私やカルミア様に回ってきます。

 私は自由時間には独自に異変がないか調べているので、今年の林間学校はなかなかに忙しかったです。

 前世の人曰く、「三徹くらいは楽勝」とのことで、今のところ私は元気です。

 それでも睡眠不足は健康に悪いので、林間学校が終わったら十分に休息して、早寝早起きの生活に戻りましょう。

 無事に終わればよいのですが。

 今日は既に三日目、最終日の夜です。

 残念ながら、警備の兵士を動かせるだけの異常を見つけることはできませんでした。

 タイムリミットを過ぎ、ゲームのイベントそのものが不発に終わるのでなければ、私達が第一発見者になる公算が高いです。

 カルミア様の怪談が効いたのか、今のところ夜の宿舎を抜け出した生徒はいません。

 ただ、恐ろしい話は肝試しを盛り上げる効果もあります。

 また、例年最終日の夜に肝試しを行うことが多いそうで、最後まで気が抜けません。

 犠牲者を出さないためにも、取り締まりはしっかりと行わなければなりません。


 本日の見回りは、私の他にはニゲラ殿下、ローレル、そしてガザニア先輩が同行しています。

 既に生徒会役員ではないガザニア先輩ですが、どうやら去年は規則を破って肝試しを行う生徒を止められなかったらしく、今年こそはと意気込んで協力を申し出て下さいました。

 それにしても……林間学校の参加者は三学科の成績優秀者です。

 成績優秀な生徒が毎年毎年何アホなことをやっているのでしょう?

 成績優秀なことと、規則を守る優等生とは違うということでしょうか。

 なお、生徒会は規則違反を取り締まる側なので、生徒会入りしそうな生徒は肝試しに誘われないそうです。

 去年、ニゲラ殿下は肝試しに参加していません。誘われもしなかったそうです。殿下とワンセットで扱われるローレルも当然参加していません。

 去年はもちろん、一年生の時のガザニア先輩も誘われなかったそうです。

 毎年生徒会長に選ばれるのは魔法科か普通科の一年生の時の主席です。他の生徒会役員は成績上位者の中から生徒会長が選びます。

 つまり、一年生の時点で次期生徒会メンバーはある程度予測が付くのです。

 ニゲラ殿下は主席には成れませんでしたが、それでも学年二位で王族という立場から生徒会入りは確実視されていました。

 それに、王族や公爵家といった身分の高い人間ほど秩序を守る立場というイメージがあります。規則違反の行為には誘い難いのでしょう。

……平民からすれば、貴族の生まれだというだけで十分に秩序を守る側なのですがねぇ。

 ただ、想定外だったのがニゲラ殿下の交友範囲が狭くてあまり親しい者を作らなかったことです。

 ガザニア先輩は早いうちから自分の周囲を側近で固めてそのまま生徒会役員にしました。

 そのため、去年の生徒会はとても結束力の高い組織でした。

 一方、今年の生徒会はニゲラ殿下が当選した後に急遽メンバーを集めた寄せ集めです。

 私とかカルミア様とかニゲラ殿下を抑えるために生徒会入りしました。

 この生徒会メンバーを予測できた人はあまりいなかったでしょう。

 何が言いたいかというと、現生徒会メンバーの中に一人、昨年の林間学校での肝試しイベントに参加した者がいます。

 ケールです。

 ケール・イントリーグは成績優秀者ではありましたが、特にニゲラ殿下と親しいという印象はありませんでした。

 ゲームの攻略対象ということで一括りにしていたのは私くらいなものでしょう。

 何より、王都の悪の総元締めであるイントリーグ家は、秩序を守る側とは正反対のイメージがあります。

 ケールが生徒会に入るとは、誰も予想していなかったのでしょう。

 実は、ニゲラ殿下がケールを選んだ理由は消去法だったらしいのです。

 魔法科の成績優秀者の多くは私の主催した勉強会に参加していました。最初は女子を中心に行っていましたが、年の終わるころには男子も何人も参加していました。

 生徒会内で私の発言力が増すことを嫌がった殿下が、私との関りが薄かったケールをスカウトしたのです。

 こんな経緯では、夏休み時点で予測することはまず不可能です。

 そんなわけで、ケールは去年肝試しに誘われ、参加しています。

 本人は隠していましたが、証拠は挙がっています。

 ガザニア先輩は去年、肝試しの実施を阻止できませんでしたが、宿舎を抜け出した生徒を全て洗い出していました。

 去年の事を咎めるつもりはありませんが、ケールは去年監視の目を掻い潜って宿舎を抜け出した経験者です。

 せっかく情報源が生徒会内にいるのだから、利用しない手はありません。

 そこで、カルミア様がケールを締めあ……いえ、司法取引を持ちかけて宿舎を抜け出す手口を聞き出しました。

 その情報を基に、カルミア様が宿舎内の見回りをして肝試しに向かおうとする学生を取り締まり、宿舎内での取り締まりを逃れた生徒を外を見回る私達が捕まえます。

……何でしょう。こうしてみると、ラバグルト兄妹の連係プレーで取り締まっているみたいです。

 カルミア様によると兄妹仲はあまりよろしくないそうですが、仕事として協力する分には良いパートナーになるのではないでしょうか。


「よし、この辺りで探索を行え。」


 森を通る小道の途中でニゲラ殿下が指示を出します。

 確かにこの辺りで光探査(スキャン)を使うのが妥当なようです。

 小道の少し先、そのすぐ脇にひっそりと小さな祠が佇んでいます。

 わざと目立たないように置かれているのではないかと思えるほど地味な祠は、怪談で出てきた実物です。

 肝試しを行うならば、外せないスポットでしょう。

 実際、怪談を聞いたニゲラ殿下も少々ビビっています。表面的には取り繕っていますが、人魂が出ている時点で動揺していることが丸わかりです。

 まあ、仕方のない話です。

 あの怪談は私やカルミア様の創作ではありません。

 麓の複数の村に伝わる伝承を元にしています。

 祠に封じられているモノについては幾つかパターンがありますが、いずれにしてもろくでもない代物です。

 単なる伝説とバカにしてはいけません。荒唐無稽な存在でも、この世界では実在たり得るのです。

 少なくともゲームではヤバいのが封印されていました。

 実際に何が出て来るのかは来年のお楽しみ。

 いえ、対峙して対処しなければならない身としては楽しくも何ともありませんが。

 できたら来年もそれ以降も封印されたままでいて欲しいのですが、逆に何かの手違いで何の今すぐ出てこられると甚大な被害が予想されます。

 肝試しに来た生徒が、ノリで祠を蹴飛ばして封印が破れてしまったとかあったら嫌なので、全力で取り締まりに当たらせていただきます。


光探査(スキャン)!」


 今回は地上で立っている人影だけでなく、木の上に登ったり、地に伏せてやり過ごそうとする人も見逃さないように念入りに探査します。

 私の光探査(スキャン)で使用している光は、細くてほとんど散乱しないので視認され難く、大量にばらまいても気付かれません。

 相手にばれるリスクは少ないので、大量の光線を一気に放出してまとめて探査します。

 ダンジョンでたくさん練習したので、いちいち考え込まなくてもある程度の範囲の三次元構造を瞬間的に把握できるようになりました。

 後はその三次元構造の中から気になる部分を探し出すと……あ!

 そーですか、ここで来ますか。

 念のためにもう一度光探査(スキャン)を行って確認します。

 これは、間違いありません。


「森の奥からこちらに向かって来る多数の集団があります。人間ではありません!」

「は? どういうことだ!?」

「形状と大きさから推測して、おそらくはゴブリン。百体以上の集団です。」


 イベントが、始まりました。

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