第八話 夏休み
・2025年9月15日 誤字修正
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七月になりました。
夏です。
夏休みです。
と、その前に、ニゲラ殿下が落ち込んでいます。
一学期末の試験で、殿下は成績を四位にまで落としています。
万年二位から一位に躍り出たと思ったら今度は四位に。
短い天下でしたね、殿下。
月末の順位を上げることに固執して、真面目に受ける気の無い授業を受け続けた結果です。
そして、月末の順位はあくまで参考であり記録に残りませんが、期末試験の結果は学生の成績として卒業後まで残ります。
まあ、成績が落ちたと言ってもまだまだ上位グループにいるわけで、問題になるほどの事ではありません。
ただ殿下が勝手に落ち込んでいるだけです。
それでも、殿下の成績が下がったことを問題にして苦情を言ってくる人もいるのだそうです。何故かカルミア様に対して。
「何の権限もないのに責任ばかり押し付けないで欲しいですわ。殿下から相談されればアドバイスくらいできますのに。」
と、カルミア様も愚痴っていました。
やはりカルミア様を同じクラスにしなかったのは失敗です。ラバグルト公爵に圧力をかけてでも魔法科に入学させるべきでした。
誰の失敗だったのかは知りませんが。
そうそう、そのカルミア様ですが、順調に魔法の技術を身に付けて行っています。
才能があるとか前世の記憶で予備知識があったからとか、それだけではありません。
カルミア様は何かを始めるとすごい集中力を見せます。
勉強でも、鍛錬でも、時間をかけてだらだらと行うのではなく、決められた時間内にとことん集中して行います。
この辺りが才女と呼ばれる秘訣なのでしょう。
園芸部として確保した温室では、練習用に植えたハーブがすくすくと育っています。
それにしても、カルミア様の植物魔法は凄いです。
成長の早い種類を選んだとは言え、種を蒔いてから数日で収穫できるのです。
植物魔法は便利ですが、国中の畑にカルミア様一人で魔法をかけて回ることは無理があります。
つまり、農作物の収穫量を増やして国を富ませようという目的ではカルミア様一人では大した力にはなりません。
けれども、少量でも収穫のサイクルを劇的に加速する植物魔法は、品種改良と言う点ではとても優れています。
何年もかかる複数世代の交配を数ヶ月で終わらせることも可能なのです。
次の段階として、品種改良を行う作物の選定も済ましています。
最初は収穫量が多いとか、味が良いとか、目立った特徴のある作物を作る予定です。
まず注目と期待を集めれば、協力者が現れます。
優れた農作物を作ることは、領地運営においては結構死活問題です。
短期間で成果を出せると知れば、資金や試験栽培用の農地を提供しようとする貴族は必ず出て来るでしょう。
むしろ、ラバグルト公爵家がカルミア様の魔法を活用しない理由が判りません。なんででしょう?
いくら武門の貴族でも、領地の税収のほとんどは農民から徴収したものです。
この国の平民の九割は農民ですからね。農業無くして国は成り立ちません。
まあ、それはともかくとして、カルミア様の魔法で品種改良を行う以上、その協力者はカルミア様個人の味方になります。
上手くいけば、ラバグルト公爵家に頼らない政治力を得ることができます。
あまり目立ち過ぎると良からぬことを考える輩もよって来そうですが、その辺りはあまり心配していません。
実際問題として、最初からとんでもなく優秀で農業革命を起こすような品種を作れるとは思っていません。
温室で育てた作物が、畑でも同じように育つとは限りません。まったく育たずに枯れてしまうかもしれません。
そこから先の試行錯誤が長いのです。
その長くかかる試行錯誤を理解せずに、目先の利益に飛び付く者は門前払いで構いません。
そう、開発とは時間がかかるものなのです。
それなのに、「このくらい簡単でしょ」とか言って気楽に仕様変更を入れやがっがガガガ……
おっと、前世の思い出には深入りしないことにしましょう。
とにかく、真面目に農作物の品種改良を望む者ならば長期的な視野に立ち、その上でカルミア様の品種改良の速さを評価するはずです。
目的の品種が誕生するまでにはそれなりに時間もかかり長い付き合いになるので、良好な関係を築こうとするでしょう。
信用できる味方になりやすい相手なのです。
貴族相手の見極めと交渉はカルミア様の方が得意なのでお任せするとして、スポンサーが付いた後が本番です。
病害虫に強いとか、想定する領地の気候や土質で良く育つことが求められます。
品種改良した種や苗を用意するところまでは魔法で加速することができますが、実際に栽培して確認するには年単位で時間がかかります。
つまり、カルミア様が卒業するまでには間に合いません。
冤罪で断罪されて品種改良の作業がストップしてしまうと困るので、味方に付いて庇ってもらえる可能性が高くなります。
多分に打算の要素がありますが、善良なだけで何もできない人よりもずっと良いでしょう。
そして、実績が認められれば色々とできるようになるはずです。
お米とか、白米とか、ご飯とか!
いえ、フリージアとして転生して十六年、すっかりこの世界の住人になったのですが、時々無性に和食が食べたくなるのですよ。
正に、ソウルフード!
大豆っぽい豆もあるようですから、少し改良すれば色々と再現できるのではないでしょうか。
味噌とか醤油とか豆腐とか納豆とか。
海が近いから魚や海藻も手に入ります。
ご飯に味噌汁の朝食も不可能ではないのです!
そして、お米があるならば日本酒も作れます。
枝豆をつまみに熱燗で一杯……ハッ!
私まだ未成年です。それに、乙女ゲームのヒロインが飲酒と言うのも……うう、お酒~
ま、まあ、そう簡単に実現する話でもありませんし、日本酒ができるころには私もヒロインを卒業して、お酒を飲める大人の女になっているはずです。
もっとも、この世界ではあまり未成年と言う概念はありません。
未成年と言うか、子どもの権利のような概念が無く、平民なら私たちくらいの年ですでに働きに出ています。
子供には酒を飲ませないことが多いですが、体に悪いからと言うよりも、「味も分からない子供に飲ませるのがもったいない」というのが一般的みたいです。
学園では生徒の飲酒は禁止されています。まあ、こっそり飲んでいる生徒は一定数いて半ば黙認のようですけど。
私は飲んでいませんよ。優等生なので。
実のところ、私には何か問題を起こしてしまった時に庇ってくれる後ろ盾が学園にはいません。
迂闊なことをしてお義父様に迷惑をかけてはいけないので、結構慎重に優等生やっています。
盛大に話が逸れてしまいましたが、今年の夏休みの目標は試作品の農作物を作って、信頼できる協力者を見つけることです。
場合によっては試験農場の視察という名目で一時避難もできますし、もしも婚約破棄や断罪で公爵家を追い出されたとしても受け入れ先ができます。
カルミア様にとっては命綱になるかもしれません。
ただ、その前に片付けなければならない仕事があります。
臨海学校。
林間学校。
今回は生徒会役員と言う立場上強制参加、それも運営する側として参加します。
当日だけでなく、生徒会として準備も行わなければなりません。一応企画は夏休み前に終わっています。
そして、当日になれば、去年の臨海学校での大蛸との戦いがチュートリアルであったことを知るでしょう。
とても忙しい夏になりそうです。




