第六話 ダンジョン演習4
・2025年1月26日 誤字修正
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人のいる方向に向かってダンジョンを進んでいると……さっそく出合いました。
……人間ではなく魔物でしたが。
こちらに気付いたゴブリンが向かってきます。
ダンジョン内の魔物は、ダンジョンの外の魔物と姿や能力は同じなのですが、その行動は少し異なっています。
ダンジョンの魔物は、人を見れば襲ってくるのです。
魔物なんてみんなそんなものと言う気もしますが、本来臆病なゴブリンは一匹だけで人を襲うことはまずありません。あったとしても小さな子供や弱っている人を見つけた場合くらいです。
その臆病なゴブリンがいきなり好戦的なのは、ダンジョンに支配されているからだと言われています。
まあ、いくら好戦的でも弱い魔物なので、単独で向かってくればただのカモです。
ただ、今日は後衛の予定だったので私は剣を持ってきていません。
ゴブリンくらいなら素手でも倒せますが……今日は魔法を使って倒してみましょう。ちょうど杖を持ったままですし。
「穿光」
ゴブリンがばたりと倒れました。うーん、やっぱりオーバーキルですね。
今使ったのは、私が開発した攻撃魔法、穿光です。
はい、私が作りました。
魔法の授業では光系統の攻撃魔法は教わっていません。と言うよりも、アスター先生自身が知りませんでした。
たぶん、危険性の高い魔法については教会が自粛したのではないかと思います。
攻撃魔法の他にも魅了や洗脳と言った魔法も使えないそうです。
光魔法の使い手を育成する目的は治癒魔法にあるので、国や学園としてはこれで十分なのでしょう。
私としては物足りないので、勝手に新しい魔法を作ることにしました。
作ったと言っても、光を発する灯りの上位版で指向性を持たせて強い光を発する光線の魔法と、光を任意の場所で反射させたり屈折させたりできる光操作の魔法を組み合わせただけです。
光を細長く伸ばして遠くの様子を探るための魔法が「光探査」。
強い光を一点に集中して対象に孔を穿つ威力を出したのが「穿光」。
実はどちらも同じ魔法の組み合わせだったりします。
光魔法の光は、レーザー光線ではないのですがかなり細くまで絞り込むことができます。
その細く絞り込んだ光を一点集中して、魔力ゴリ押しで強い光を流し込んでやれば殺人光線の出来上がりです。
発動すれば最速の魔法ですが、「光線」と「光操作」の二つの魔法を同時使用する関係で発動にちょっと時間がかかります。
それと、一点に集中させることから、単体攻撃専用です。相手の数が多いと使い難い魔法です。
貫通力はそこそこあるので、一直線に並んでいたらまとめて倒せるかもしれませんが。
ただ、本当にピンポイントの攻撃なので、正確に急所に当てないと倒せません。
色々と課題の多い魔法ですね。
さて、倒したばかりのゴブリンを見ると……消滅しています。
これがダンジョンの魔物の特徴です。
ダンジョンの魔物は、死ぬと死体を残さずに消滅します。
それは、ダンジョンの魔物が魔力でできているからだと言います。
この世界の魔力は、容易に物質化します。
水魔法で出す水や土魔法で作った土は魔力が変質してできたものです。時間が経つと魔力に還元されて消えます。
実は、治癒魔法もスペリオルヒール以上の魔法は物質化した魔力で破損した組織や欠損部位を補います。ヒールやハイヒールに比べて上位の治癒魔法が患者への負担が低く魔力の消費が大きい理由がここにあります。
魔力で作り出した物質は時間と共に魔力に戻って消えて行きますが、生体内にあるうちは体内の魔力の影響で比較的安定して存在します。
人体を構成する物質は数ヶ月で全て入れ替わると言います。治療後、魔力で作られた物質が通常の物質と置き換われば完全に元の肉体に戻ったことになります。
一方、ダンジョンの魔物はダンジョンから供給される魔力で食事の必要がありません。その体はほぼ全て物質化した魔力で構成されているので、死ねば魔力に戻ります。
そして、黒くて小さな石を一個残します。
魔石と呼ばれるその石は魔力を多く含み、魔道具などに使われるダンジョン資源です。
つまりお金になります。
ゲームでは、倒した魔物の数に応じて得られる魔石がお金扱いで、装備やアイテムと交換できました。
この世界では学園に通っているのは貴族の子弟なのだから、小銭を稼ぐような真似はしないと思うかもしれません。
けれども、貧乏貴族でなくても学生が自由にできるお金は制限されている場合も多いそうで、ダンジョンで小遣い稼ぎをする学生も珍しくありません。
私としても、チャールストン伯爵家に頼らずに使える資金があれば何かと重宝します。
私は魔石を拾って先に進みました。
しばらく進むと、今度こそ人間を発見しました。
そこにいたのは、ケールです。
最初に探知した位置からほとんど動いていません。
遭難したらその場を動くなを実践していたのでしょうか……あ!
「や、やあ、フリージアさん。奇遇ですね。」
ケールのセリフがバグっています。
まあ、バグではなく挙動不審なだけですが。
理由は分かっているので、さっさと次に行きましょう。
「浅い階層の宝箱は大した物は入っていなくて罠の危険があるので割に合いません。放置した方が良いかと。」
「そ、そうだね……はぁ。」
現在進行形で宝箱の罠に引っかかって苦労しているというのに、まるで懲りていないと言いますか、要注意人物がここにももう一人いました。
それだけ宝箱が魅力的だとも言えます。
冒険者の出世話の多くは、ダンジョンで宝箱を見つけるところから始まります。
財宝を見つけて大金持ちになった。
凄い武器を見つけて英雄になった。
国宝級の魔道具を国に納めて貴族に叙された。
それは、多くの冒険者が夢見て果たせない非常に稀な幸運ですが、それ以前にこんな浅い階層でそんなに凄いものが出て来る筈もありません。
この階層の宝箱に入っているのは、薬草とか安物の武具とかがせいぜい。下級のポーションが出て来れば大当たりです。
学生の小遣い稼ぎ程度の価値しかないのに、罠はそれなりの頻度で仕掛けられています。
パーティーをバラバラにする転移系の罠は非常に稀ですが、油断をすれば命に関わる危険な罠は珍しくありません。
罠を見つけて解除する技能がない限り、宝箱に手を出すのはリスクが割に合わないのです。
渋るケールを引っ張るようにして先に進みました。
ケールと合流したことで、私は自分の行動を少し変えました。
戦闘はケールに任せて、私は支援に専念することにしました。
今日の私は回復要員として参加しているので、ケールと二人だと前衛がいません。
私が素手で前衛をやっても良いのですが、ゴブリン程度ならば灯りの魔法でも牽制くらいにはなります。
光の攻撃魔法は見せません。
攻略対象五人は敵になる可能性もあるので、不用意に手の内を見せる必要はないでしょう。
光探査の方は仕方がないので見せます。
使える場面の限られる魔法ですし、現状を打開するには必要な魔法です。
数分間集中していなければならないので、隠れてこっそりと使うわけにもいきません。
魔法を使わずに闇雲に歩き回るのも非効率です。
ただ、悪い事ばかりではありません。
味方が一人でもいれば、魔物が近付いてきても魔法を中断しなくて済みます。
制御の難しい魔法なので、光探査を実行しながら別のことをする余裕はありません。
一度中断したら最初からやり直しになるので、魔物に邪魔される心配がないのは有難いです。
どうせなら、ケールが探索系の魔法を使えたら任せてしまえたのですが。
風魔法なら探索系の魔法もありそうな気がします。エコーロケーションとか。
ですが、ケールには使えません。
魔法を学ぶ生徒全般、特に男子生徒に多いのですが、強力な攻撃魔法ばかり憶えようとする傾向があるそうです。
気持ちは分からなくもありませんが、魔法は攻撃だけではありませんよ。
「お前たち二人だけか? 他の者は見なかったか?」
次に合流したのは、ガザニア先輩でした。
ケールと合流した場所から一番近くにいた人の場所に向かったのですが、到着した時には既に誰もいませんでした。
そこでもう一度光探査を行ってみると、ちょうどこちらに向かって来るところだったのですぐに合流できました。
ガザニア先輩は自分が転送された場所を中心に、少しずつ範囲を広げながら歩き回って散り散りになったメンバーを探していたようです。
互いに動き回っていればすれ違う可能性もありますが、堅実な方法です。
今回ガザニア先輩とアスター先生はこの階層の地図を持っています。
歩き回って地形を確かめることで現在位置の確認も行っていたようです。
そこに、私の描いた地図を付き合わせることで、正確な現在位置を割り出すことにしました。
私の地図は罠で転移した後に魔法で探査して描いたものなので、現在位置を把握しています。
二つの地図がほぼ一致したので、推定した現在地が確定しました。
脱出までの最短ルートも判明しました。
今回は珍しい転移系の罠と言うイレギュラー(しかも引っ掛かったのはアスター先生)だからこのままダンジョンを脱出して、後は本職の冒険者に任せるという手もあります。
ですが、私の魔法で人の居場所を見つけることができます。
そこで、このまま全員と合流することになりました。




