表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲く王国で恋をしない ~乙女ゲームの世界のヒロインに転生した元男ですが、何をすればよい?~  作者: 水無月 黒
第二章 二年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/82

第五話 ダンジョン演習3

ブックマーク登録および「いいね」ありがとうございました。

 視界はすぐに戻りました。

 とりあえず、身体に異常はありません。

 周囲を見回すと、相変わらず洞窟の中のようなダンジョンの光景。

 ただし、先ほどまでとは明らかに別の場所です。

 そして、私以外の人はいません。

 ニゲラ殿下も、ローレルも、ケールも、ガザニア先輩も、アスター先生も見える範囲にいません。


――サァー


 私は自分の血の気が引く音を聞きました。

 今の私は、真っ青な顔をしていることでしょう。


 これは……

 この状況は!


「バグったぁ!」


 ぎゃあぁぁーーー!

 私は頭を抱えて叫んでしまいました。


 いえいえいえいえ。

 ちょっと待ちましょう。

 落ち着きましょう、私。

 ここは、深呼吸です。


 ヒッヒッフー。

 あ、違った。

 スーハー、スーハー。

 スーハー、スーハー。


 深呼吸してどうにか気持ちを落ち着けます。

 落ち着いて考えれば、慌てることなど何もありません。

 これはゲームではありません。現実の世界なのです。

 バグっぽい現象が起きても、徹夜で虫取り(デバッグ)して修正モジュールを配信する必要はありません。

 直さなくて良いのです!


 ふう。


 さて、改めて現状を確認してみましょう。

 発端は、アスター先生が通路の端に隠れるように置かれていた宝箱を見つけたことです。

 見つけただけならば良かったのですが、無造作に開けようとしました。ガザニア先輩が止める暇もなく。

 まさか、先生がいきなりやらかすとは思いませんよね。このメンバーの中では一番付き合いの長い私でも思いもよりませんでした。

 運の悪いことに、あの宝箱には(トラップ)が仕掛けられていました。

 おそらく、転移系の魔法が仕込まれていたのでしょう。

 私達はダンジョン内の別な場所にバラバラに転移させられてしまいました。


 実は、この状況はゲームにもあります。

 ゲームのダンジョンパートは、単独(ソロ)から六人までのパーティーで挑めます。

 つまり、攻略対象五人全員をダンジョンに誘うことができます。

 この時、探索メンバーの好感度の合計が一定値を超えることがイベント発生の条件の一つです。

 ただ、攻略対象全員参加のチュートリアルでは、全員の好感度を最低限にしておかないとその条件を満たしてしまうので、チュートリアルではこのイベントが発生しないという条件を追加しています。

 この処理を入れ忘れた状態で行ったテストプレイでは、ダンジョンのチュートリアルでいきなり転移(トラップ)のイベントが発生しました。

 しかも、チュートリアルのイベントを転移(トラップ)のイベントが乗っ取るイレギュラーな形になってしまい、処理の都合でどちらのイベントも終了済みのフラグが立ちませんでした。

 結果としてダンジョンチュートリアルと転移(トラップ)のイベントを無限に繰り返すことになってしまったのです。

 致命的なバグです。

 これが気付かないまま世に出ていたらと思うとゾッとします。

 だから、間際になって余計なイベントを入れるんじゃない! バグを出したと責められるのはこっちなんだぞ!!

 あああ、ちゃんと直したよな、俺。変な条件で再発したりしないよな?

 いや、待て、落ち着け、俺……じゃなくて、私。

 もう一度落ち付きましょう。

 全ては前世の話です。

 今更どれほど酷いバグが見つかったとしても、今生の私にはどうすることもできません。

 前世の人の責任を私が負う必要はないのです。

 つまり、どんなバグがあっても、私には関係あません!

 むしろ、私自身がバグです。


 ゲームの話は良いとして、問題はこれからどう行動すべきかです。

 アスター先生が引っかかった(トラップ)は、範囲内にいる人間をランダムに転移させる魔法を発動させるものでした。

 パーティーを分断することが主目的で、「石の中にいる」のような致命的なものではありません。

 浅い階層ではあまり見ない珍しい(トラップ)ですが、転移させる範囲には制限があるそうです。

 まず、同じダンジョンの中にしか転移されません。別のダンジョンとか、何処か知らない国に飛ばされることはありません。

 それから、階層を超えて転移することもあまりありません。あったとしても、決まった場所に送り込むタイプで、パーティーをバラバラにするランダム転移では例がないそうです。

 だから、ここはまだダンジョンの一階層目で、他の五人もこの階層のどこかにいるはずです。

 いま、私の取り得る行動は二つあります。

 一つは、この場で救援を待つこと。

 もう一つは、自分から動いて他のメンバーと合流すること。

 遭難した場合はその場を離れずに救助を待つのがセオリーですが……

 今回は気にせず動くことにしましょう。別に私は遭難したわけではありませんし。


 積極的に動くと言っても、ただ闇雲に歩き回ればよいと言うものではありません。

 重要なことは、なるべく早く全員が合流することです。

 ただ、無理をしてまで急ぐ必要はありません。

 この階層の魔物は弱いので、一人で戦っても問題ありません。

 攻撃手段の最も少ないアスター先生でも負けることはないでしょう。

 ですが、それぞれが勝手に動き回っていたら合流は難しくなります。

 最悪、行き違いになってしまって、いくら探しても出合えないなどと言うことになりかねません。

 こういう場合に備えて、予め集合場所を決めておけば良かったのでしょうが、即席のパーティーでそこまでの連携は無理でした。

 まあ、どうしても合流できないときは各々ダンジョンから脱出すればよいだけなので、永遠に会えなくなるなどと言ったことはありません。

 ただ、私としてはチュートリアルはさっさと終わらせて次に行きたいのです。

 なので、さっさと全員見つけてダンジョンを出ましょう。

 ゲームではそれぞれ決まった場所にいるので、適当に歩き回っていれば合流できます。

 どこに行けば誰と合流できるのか、ゲーム上の設定ならばだいたい憶えていますが、ここでゲームの知識に頼るのは危険でしょう。

 既にバグっていますからね。

 ここは、前世の知識ではなく魔法を使うことにしましょう。

 私は杖を取り出しました。


光探査(スキャン)


 魔法を発動すると、細くて弱い光が無数に放たれます。

 注意して見ないと見落としてしまいそうな弱い光に、攻撃力はありません。

 これは探索用の光です。

 直接光を操る光魔法では、発した光が何処まで届いたかを感覚的に知ることができます。

 そこで、細い光を大量に放つか、あるいは上下左右に振ることで光を当てた対象の形状を正確に把握することができます。

 これだけだと目の前の物体の正面の形状しか分からないので大した使い道がないのですが、光魔法は光の進行方向を曲げることができます。

 つまり、この場所から光の届く範囲を調べたら適当な位置で光を曲げ、その地点から光の届く範囲をくまなく調べる。

 これを繰り返すことで、広範囲の地形、そこに存在する人、物、魔物等全て把握することができます。

 名付けて光探査(スキャン)。私のオリジナルの魔法です。

 オリジナル魔法と言っても、光を発する魔法と光を曲げる魔法を組み合わせただけです。

 欠点は……無茶苦茶大変なこと。

 長さ情報を集めて形状を再現するだけでも面倒ですが、それを何度も繰り返して結果を繋ぎ合わせなければなりません。

 また、解像度は低めです。

 いえ、その気になればかなり詳細な3Dデータが得られるのですが、それを頭の中で組み立てるのは無茶です。

 コンピュータにでも処理させることができれば楽なのですが。

 それから、結構時間がかかります。

 目の前の地形を計測するだけならば一瞬なのですが、得られた情報を整理するために一呼吸必要です。

 その後、次に計測を行う地点(ポイント)を選定して、光を曲げる操作を行います。

 範囲が広がるほどに計測地点、光を操作して曲げる回数、得られた情報をまとめる作業量が爆発的に増えて行きます。

 処理量が多いので時間がかかります。それほど広くはないこのダンジョンでも階層一つ調べるだけで数分間は専念する必要があります。

 ダンジョン全域をくまなく探査して、魔物の行動をリアルタイムで把握するなんてことは不可能です。

 後は、閉まった扉の先とか、完全に透明な壁とかは判らないのですが、今は問題ありません。

 魔法で調べた結果を紙に書き写して行くと、あっという間に一階層分の地図(マップ)が完成します。

 何だか見覚えがあります。

 ゲームのダンジョンの地図(マップ)は前世の人が作成しました。この世界のダンジョンも同じ構造のようです。

 その地図(マップ)中に、人や魔物らしき姿もおおよそ確認しました。

 ゴブリンは小さいので、あまり詳細に調べなくても人と区別がつきます。

 人に関しても、詳しく調べれば誰が誰なのか判りますが、そこまで調べる必要はありません。

 今この階層にいる人は私達六人だけなので、見つけた全員と合流すればそれで終わりです。

 一番近い人は……こっちですか。

 近い順に合流して行きましょう。



デスゲームよりも怖いデスマーチ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ