表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/56

第四話 ダンジョン演習2

・2025年1月13日 誤字修正

 誤字報告ありがとうございました。


ブックマーク登録および「いいね」ありがとうございました。

 準備万端整えて、いざ、ダンジョンへ入ります。

 学園の管理するダンジョン、通称「ローズダンジョン」は、地下へと降りて行く階層型のダンジョンです。

 内部は、階層によっても異なりますが、入ってすぐは洞窟のような通路が入り組んで迷路を形成しています。

 中には魔物がいて、極稀に宝箱があって、資源の採取を行える場所があります。

 各階層のどこかに次の階層へと降りる階段があって、その手前にはだいたい少し強めの魔物がいます。

 基本的にゲームの仕様と同じです。

 学園創立前からダンジョンを調べていた研究機関は、学園の一部となった後も調査を続け、今では十階層まで地図(マップ)が完成しているそうです。

 ただし、今回はダンジョンを探索する練習なので、地図(マップ)は支給されていません。探索しながら地図(マップ)を作ることも演習の範囲内です。

 おそらく、アスター先生は地図(マップ)を持っていて、確認しながら付いて来ているのでしょうけれど、それに頼るのは最後の手段です。

 セオリーに従って、丁寧にマッピングしながら探索を行います。


 先頭を歩くのはニゲラ殿下とローレルの二人です。

 この二人は前衛です。

 守護騎士ローレルが前衛であることに異論のある人はいないでしょう。覚醒後も魔法よりも剣が得意な安心の壁役(タンク)です。

 ニゲラ殿下は魔法が得意ですが、剣技の授業も受けていて帯剣が認められています。

 ダンジョン実習は騎士科と合同で行われ、前衛が足りなければ騎士科の生徒を連れて来るのだそうですが、今回この二人が前衛を務められるため魔法科のみのパーティーになっています。

 その前衛二人の後に、私とケールが後衛として続きます。

 その気になれば私も前衛をできるのですが、今回は後衛で回復・支援要員です。

 さらにその後に続くガザニア先輩とアスター先生は指導者として来ているので、口は出しますが手は出しません。

 この二人が戦闘に参加するのは非常事態に限られています。


 先頭を行くニゲラ殿下が妙に浮かれています。注意散漫と、ガザニア先輩から何度も注意を受けていました。

 理由はみんな知っています。

 月末の試験で初めて単独一位を取ったのです。

 一年生の時から一度も取れなかった一位をついに達成して、有頂天になっています。

 でもそれって、受ける授業を絞らなかったってことですよね?

 きっちりと授業を絞ったうえで成績が上がったのならば良いのですが、満点を底上げして一位を取っても後々困ることになります。

 まあ、困るのは殿下であって、私が気にする必要はありません。

 ただ、カルミア様にしわ寄せが行くらしく、「事前に相談してもらえればアドバイスもできたのに」と愚痴っていました。

 カルミア様にはニゲラ殿下の受ける授業に何の決定権もないのに、理不尽なことです。

 何でも、ニゲラ殿下の受けている授業の中には、テストでは高い点数を取れるけれども成績は厳しく付けることで有名な授業が含まれているのだそうです。

 学期末に成績を落とすことが目に見えています。

 けれども、今現在のニゲラ殿下は絶好調です。

 出てくる魔物を次々に倒して行きます。


 ダンジョンの最初の階層に出てくる魔物は、ゴブリンです。

 ファンタジー作品では定番の弱い魔物です。

 非戦闘員には脅威になり得ても、まともに戦える者が正面から一対一で戦って負けることはまずありません。

 そして、この階層のゴブリンは一体ずつ現れるので、負ける要素はありません。

 ですが、それは気を抜いて油断してよい理由にはなりません。

 弱い魔物でも、不意を突かれれば負傷くらいします。

 私とアスター先生がいるから、いきなり致命傷とかでなければどうにでもなりますが。

……殿下は一度痛い目に遭った方が良いでしょうか?

 それはともかくとして、ダンジョン内では注意深く行動しなければならない理由が戦闘以外にも存在します。

 ダンジョンは、正確な地図(マップ)を用意して、可能な限りの情報を集めてもその場に行かなければ分からないことがあります。

 それは、魔物の配置であり、宝箱であり、(トラップ)です。

 ダンジョンに現れる魔物の行動は、だいたい同じ場所にいて来た人に襲いかかる「待伏せ(アンブッシュ)」とダンジョン内の一定の範囲を動き回る「徘徊(ワンダリング)」に大別されます。

 このうち、「待伏せ(アンブッシュ)」はいる場所が分かってますが、「徘徊(ワンダリング)」は何処で出会うか分かりません。

 目の前の魔物と戦っているうちに、気が付くと背後から別の魔物がやって来たなんてこともあり得ます。

 ゲームでは単なるランダムエンカウントなのでそこまで気にする必要はないのですが。

 宝箱はダンジョンから得られる各種アイテムが収められている容器類の総称です。

 いかにも宝箱といった形の箱から、粗末な木箱や樽にしか見えない物、果ては木の洞とか岩壁に空いた穴にアイテムが置かれていることもあるそうです。

 問題は、報告のあった宝箱はほぼ全て中身が持ち去られた後だということです。

 せっかく見つけた宝箱の中身を持ち帰らない人はあまりいないでしょう。持ち帰らないとしたら、持ち帰れない事情があります。

 ゲームと異なり、この世界のダンジョンでは宝箱が再設置されることもあるそうです。ただ、どんなタイミングでどこに宝箱が現れるかは分かりません。

 冒険者は、一度探索したダンジョンであっても新たな宝箱が設置されていないか確認しながら探索するそうです。

 ただ、浅い階層では宝箱があっても大したものは入っていないことと、(トラップ)が仕掛けられている場合があることから、学生が宝箱を探すことは推奨されていません。

 ダンジョンの(トラップ)はある意味魔物よりも厄介です。

 回避不能でいきなり即死全滅するような強烈なものは滅多にないそうですが、何の準備も無くまともに引っかかれば致命傷に至る危険なものも多く、負傷や装備の破損でも戦闘に影響が出ます。

 そして、(トラップ)もまた位置を変えます。

 一度発動するか解除された(トラップ)は消滅し、時間経過で再設置されます。

 その際、(トラップ)同じ場所に再設置されるとは限りません。

 なので、どれほど正確な地図(マップ)があったとしても、(トラップ)に注意しながら探索しなければなりません。

 本職の冒険者は、レンジャーや盗賊(シーフ)といった斥候の専門家をメンバーに入れることも多いそうです。


 やや注意散漫でも、ニゲラ殿下は順調に進んで行きました。

 多少油断しても問題ないほどに敵は弱く、隣のローレルも的確にサポートしています。

 (トラップ)も最初の一階層ではあまり気にする必要はありません。

 数も少ないですし設置も雑なので、通路の中央を不自然なものに気を付けながら歩いていれば避けられます。

 ダンジョン演習のチュートリアルは、一階層目を歩き回って何度か戦闘を行うだけなのでもうそろそろ戻ることになるでしょう。

 今回、私の出番はほとんどありませんでした。

 誰も怪我をしないので、治癒魔法を使っていません。

 魔物は弱いので、強化魔法も必要ありません。普通の攻撃でもオーバーキル気味です。

 ダンジョンの中は天井がうっすら光を放つ感じでそこそこ明るく、灯り(ライト)の魔法も必要ありません。

 同じ後衛でもケールはガザニア先輩の指示でたまに攻撃に参加していますが、今回の私は回復支援要員なのでそれもありません。

 仕方がないので、周囲の警戒をしながらマッピングをやっています。

 チュートリアルが終われば、次からは好きなメンバーを集めてダンジョン探索を行うこともできます。

 何なら、単独(ソロ)で探索しても良いでしょう。私ならば、前衛も後衛も一人でできます。

 深い階層まで潜らなければ、単独(ソロ)でもどうにかなります。

 そんなことを考えて、私まで注意散漫になっていたなどと言うことはないはずです。

 けれども、それは起こりました。


「おや、こんなところに宝箱が。」


 背後から聞こえてきた声は、アスター先生のものでした。

……あの、それ、ニゲラ殿下が見落としたからあえて言わないでおいたのですが。

 殿下がうっかり宝箱に興味を示したら、ろくでもない問題が起こる予感しかしません。

 けれども、ニゲラ殿下を警戒しただけでは足りなかったのです。

 やらかす人間は、殿下一人ではありませんでした。


「まずい、(トラップ)だ!」


 ガザニア先輩が警告を発するも時すでに遅く。

 足下に大きな魔法陣の光が広がり、次の瞬間視界が真っ白に染まったのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ