第三話 バジル・チャールストン
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自分一人で解決できない問題は、解決できそうな人に手伝ってもらいましょう。
そんなわけで、私は助けを求めにやって来ました。
お義父様?
いえいえ、駄目です。
確かに相談には乗ってくれるでしょうし、頼めば手を貸してくれるでしょうけれど、私を甘やかしたがる最先鋒です。この件に関してはちょっと当てになりません。
同じ理由でエリカも無理。家庭教師の先生方もすっかり甘くなっていて頼りになりません。
では誰を頼ればいいか?
適任者が一人いました。
チャールストン伯爵マロウ・チャールストンの一人息子。次期チャールストン伯爵領領主予定のバジル・チャールストンです。
私のお義兄様ということになります。
このお義兄様ですが、小説版ではカルミア様の理解者です。つまり、まともな人です。
カルミア様と協力して、頭の中お花畑な義妹や乱心した内乱王子たちと戦う格好良い役どころです。
頭の中お花畑にならないように頑張りますので、是非とも見捨てないでいただきたいところです。
しかし、お義兄様は義妹と、カルミア様は実の兄と対決することになるのだから皮肉なものです。
ゲームではあまり出てこないお義兄様ですが、「ざまぁルート」ではヒロインの罪を告発する重要人物になりますし、「皆殺しルート」ではカルミア様を守って脳筋騎士や内乱王子と戦ったりします。
ヒロインのハッピーエンドルートでは全く姿を現さないお義兄様なのですが、明記はされていないものの、どこかでお亡くなりになっているのではないかともっぱらの噂です。
この国の未来のためにも、お義兄様には是非とも元気でいてもらわなければいけません。
それに、お義兄様に何かあるとチャールストン伯爵家が大変なことになります。
貴族の家の場合、跡取りに何かあった時のために次男や三男がいそうなものですが、チャールストン伯爵家ではバジルお義兄様唯一人です。
チャールストン伯爵夫人は数年前に亡くなっており、後妻も愛人もいないので今後も兄弟が増える見込みはありません。
私も養女になったとはいえ形だけの貴族なので、お義兄様の代わりは務まりません。
平民を貴族の養子にすることは、有能な平民を貴族の嫁や婿に迎えたり、貴族の肩書が無いとできない仕事をさせるための常套手段なのだそうですが、養子になった元平民には制限があります。
血統を重んじる貴族社会は、貴族の血を引かない庶民を真の意味で貴族の一員とは認めないのです。貴族と同じような扱いを受けても、私が貴族家の当主や領地の領主になることはありません。
バジルお義兄様に何かあった場合、チャールストン伯爵家の分家から養子を取ることになるのだそうです。
私は意を決してお義兄様の部屋へとやって来ました。
「お義兄様、少しよろしいでしょうか?」
お義兄様は現在十五歳、八月には十六歳になります。昨年から王都の学園に通っています。
普段は王都にいますが、今は学園の長期休暇でチャールストン伯爵領に戻ってきています。
今を逃せば次は夏まで会う機会はないかも知れません。
「フリージアか。何の用だ?」
うわぁ、私、めっちゃ警戒されてます。
別にお義父様の愛情を一身に受けている私に嫉妬しているとかではないでしょう。
将来国を揺るがす悪女になる片鱗をどこかで感じ取っているのかもしれません。
ですが、だからこそ頼れるのです。
「お義兄様、私に魔法を教えてください!」
「どういうことだ? 魔法の練習ならばもう始めているだろう?」
訝しみながらも、お義兄様はちゃんと聞いて下さいます。ここはしっかりと説明して協力を取り付けなければなりません。
「私、意識せずに魅了の魔法を使っているのではないかと思うのです!」
「漏れ魔法か!」
これが前世の人の知識を利用して考えた、現状を説明できる理由でした。
魔法は高度な技術で、正しい訓練を続けなければ使えるようにはなりません。
ですが、多量の魔力と魔法に対する高い適性があると、習ってもいない魔法を無意識に発動してしまうことがあると言います。
これを漏れ魔法と呼びます。
例えば、火魔法に高い適性を持つニゲラ王子は、ゲームで使用される表情のCGの中に火の玉が人魂のように浮かんでいるものがあります。
これは感情が高ぶった際に無意識に火魔法が発動するという設定を反映しています。
私の場合、光魔法に適性があるのだから光の玉が浮かんでもおかしくないのですが、今までそのような現象が発生したことはありません。
けれども、直接目に見えない形で魔法が発動していたとしたら?
あまり知られていないことですが、光魔法と呼ばれる魔法の系統には、精神に干渉するタイプの魔法も存在します。
魅了もその一つです。
極めれば人を操り人形のように自在に操ることもできる恐ろしい魔法ですが、漏れ魔法で無意識に発動する魔法ならばせいぜい人から好意を向けられ易くなる程度でしょう。
それでも今のような甘々な状況を作るには十分な影響力があります。
「それで、魔法を使えるようになってどうするつもりだ? 今のままでも十分に皆に愛されているだろう?」
そんなことを言いながら、お義兄様は小声で呪文を唱え、何か魔法を発動しました。
たぶん魅了への対抗魔法でしょう。
お義兄様はなんと闇魔法の素質を持っています。今のチャールストン伯爵家には、珍しい光と闇の魔法の才能を持つ者が両方揃っているのです。
光魔法と闇魔法は互いに相殺するようなものが多くあります。
闇魔法の素質を持ち、私よりも先に魔法の修行を始めたお義兄様は、私の光魔法への対抗手段を持っているはずなのです。
実際、お義父様、エリカ、家庭教師の先生方が日に日に甘々になって行く中、お義兄様だけは私と距離を取り、今もこうして警戒しています。
このこともお義兄様を頼った理由です。
「漏れ魔法を抑え込みます。魔法で無差別に好意を向けられてもうれしくありません。それにこのままでは勉強に支障が出てしまいます!」
偽らざる本心です。
無差別にばらまかれる魅了なんて、ストーカー製造機です。
それに勉強ができないのも困りものです。
ゲームで攻略対象のルートに入るには相手に応じて特定のパラメーターを上げる必要があるのですが、逆にパラメーターを上げないまま、つまり全然勉強をしないでいると「ざまぁルート」や「皆殺しルート」に入ってしまいます。
国のためを思うなら、一応生き残れる「ざまぁルート」が狙い目なのですが、一生バカ王子の面倒を見なければならないなんて、どんな罰ゲームなのでしょう。
それにしっかりと勉強してちゃんと国か領地の要職に就かないと、私を拾い上げてくださったお義父様に申し訳が立ちません。
「いいだろう、協力しよう。だが漏れ魔法対策は基礎訓練あるのみだ。楽な道は無いぞ!」
「はい! よろしくお願いします、お義兄様。」
無事お義兄様の協力を取り付けた私は、その日から特訓を始めるのでした。
・マロウ
誕生日:8月25日
花言葉:柔和な心
・バジル
誕生日:8月18日
花言葉:忍耐力と勇気