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花咲く王国で恋をしない ~乙女ゲームの世界のヒロインに転生した元男ですが、何をすればよい?~  作者: 水無月 黒
第一章 一年生編

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第十六話 臨海学校3

・2025年11月17日 誤字修正

 誤字報告ありがとうございました。


評価設定、ブックマーク登録および「いいね」ありがとうございました。

 臨海学校の二日目です(移動日を除く)。

 今日の天気は快晴、絶好の海水浴日和です。

 水泳教室以外は今日もほとんど自由時間なので、みんな思い思いに過ごしています。

 海で泳ぐ者。

 ビーチスポーツで盛り上がる者。

 遊び疲れて休憩する者。

 砂浜には海の家にしか見えない施設もあります。

 シャワーや更衣室、ロッカーなどもあります。

 一日水着で過ごすため更衣室はあまり使いませんが、塩水を洗い流すためのシャワーはちょくちょく利用されています。

 そして、海の家らしく軽食も食べられます。

 焼きそば、焼きイカ、焼きトウモロコシ。

 なぜにそのような食べ物があるのかは、もう気にしないことにします。

 そして、海の家のスタッフもまた生徒の連れてきた使用人です。


「お嬢様、かき氷はいかがですか?」


 今日はエリカがこちらに来ていました。人目があるのでテンションは抑え目です。

 有能なメイドであるエリカは、ちゃんと配慮ができます。チャールストン伯爵家のイメージを落とすような言動はしません。

 その配慮を私と二人きりの時にも発揮して欲しいものです。

 この海の家のスタッフは、使用人たちに人気の仕事だそうです。自分の主人の様子を見ることができますから。

 まあ、中には主人と離れてほっと一息つく使用人もいるそうですが。

 使用人は学園生活で唯一最大の味方であり身内です。使用人から嫌われないように気を付けましょう。


 なお、この世界にもかき氷はあります。氷を削るだけでできるので不思議はないでしょう。

 ただし、夏に氷を用意するには冬場にできた氷を氷室に入れて夏まで保管するか魔法を使うしかありません。

 どちらにしても高くつくので、庶民には縁のない貴族か大金持ち用の贅沢な食べ物です。


 さて、エリカに見送られた私は……とりあえず砂浜を走っています。

 やはり砂場を走るのは足腰の鍛錬に良いですね。

 ビーチスポーツに参加しようとすると審判になってしまいますから仕方のないことです。

 海で泳ぐ手もありますが、今日はちょっと止めておきます。

 ゲームでは、一年の臨海学校の一日目と三日目がデートイベントになっています。

 好感度が一定以上の攻略対象が選択肢に現れ、選んだ相手と泳いだりビーチスポーツをしたりします。

 そして、二日目は……


――ザッバーン!

「キャアー!!」


 戦闘(バトル)イベントです。

 音のした方を見ると、海から巨大な(タコ)が頭を突き出していました。ゲームと同じです。

……ゲームではコミカルに描かれていましたが、リアルになるとちょっとグロテスクですね。

 ゲーム最初の戦闘は、バトルパートのチュートリアルです。

 あの蛸は大きいだけで魔物ではない普通の海の生き物です。それほど強くはありません。

 あの大きさだけでちょっと厄介ではありますが。

 とりあえず大蛸の方に向かいながら、ざっと周囲を確認します。

 ニゲラ殿下とローレルを確認。今日もビーチバレーをしていたのでしょうか?

 ケールも無事です。波打ち際あたりにいますが、被害は受けていないようです。

 ガザニア先輩は大蛸の方に向かって駆け寄っています。率先して対応しようというあたり責任感とリーダーシップを持っています。

 アスター先生は他の先生と一緒に生徒の避難誘導をしています。

 カルミア様も無事です。非戦闘員なので避難しています。

 そうこうするうちに、大蛸が砂浜に上陸しました。その足には何人かの生徒が絡めとられています。

 ああ、あそこに捕まっているのはカメリアさんではありませんか!

 ゲームのイベントで悲鳴を上げていた女生徒Aは貴女だったのですね。

 これは急いで救出しなければなりません。ローレル、漢を見せなさいよ!


「戦えない者は避難しろ! 戦えるものは集まれ!」


 ガザニア先輩が仕切っています。先生方は立場がありません。

 けれども、ガザニア先輩のリーダシップで生徒がスムーズに避難して行きます。


「私は治癒魔法と強化魔法を使えます!」

「よし、後衛に入れ!」


 ガザニア先輩は一瞬眉を顰めましたが、私を戦力に組み込みました。

 血統主義者であっても、戦力の足りない今、そんなこと言っていられなかったのでしょう。

 正しい判断です。

 現在の戦力は、まず水魔法を使えるガザニア先輩。

 火魔法が使えるニゲラ殿下。

 魔法は使えないけれど、素手でも並の剣士より強いローレル。

 実は風魔法が使えるケール。

 そして、光魔法を使う私、フリージア。

 アスター先生は救護要員として避難した他の生徒の面倒を見ているので戦闘には不参加です。

 魔法科の上級生の中には攻撃魔法を使える人が数名いたはずですが……とりあえずこの場にはいません。

 一年生のニゲラ殿下とケールは学園で正式に応用魔法を習っていません。

 入学前から覚えている魔法は、箔付のようなもので、威力はともかく制御に不安があります。

 ローレルは強いですが、今は素手の接近戦しかできません。大きな蛸相手に武器無しでどこまで通用するか。

 即席のチームでは仕方のないこととはいえ、ガザニア先輩としては頼りないメンバーでしょう。回復要員の一人も入れたくなると言うものです。

 この面子は、ゲームのイベントと同じです。つまり、普通に戦えば負ける方が難しい楽勝な相手です。

 もちろん、ゲームのことなど知らないガザニア先輩か安心する要素はありません。

 それに、私もこの戦闘を楽観できるほどゲームの展開を信用していません。

 既に色々とゲームとは乖離しています。ゲームと同じく楽勝という保証はありません。

 ただ、ゲームとの乖離は悪い事だけではありません。

 ゲームと違って、私は前倒しで光魔法を学んでいます。治癒魔法はエクストラヒールまで。強化系の支援魔法も覚えました。

 アスター先生、やり過ぎです。それに乗った私も私ですけど。

 でも、これでゲームよりも状況が有利になりました。多少の不測の事態があってもどうにかなりそうです。


「強化、行きます! 身体強化! 防御力強化! 精神強化!」


 こちらに向かって来た大蛸が砂浜に上陸したタイミングで私は強化魔法をかけました。

 身体強化は身体能力全般を強化します。強化の割合は大きくありませんが、動きやすく疲れ難くなります。

 防御力強化は守りを固め、打たれ強くなります。刃物を跳ね返すほどにはなりませんが、軟体な大蛸が相手なら有効でしょう。

 精神強化は精神力を高めます。魔法を扱う精度が高まり、威力も多少向上します。

 どれも極端に高い効果はありませんが、強化魔法に慣れていない者にはこの程度の方が自滅する恐れが無くてよいでしょう。


「まずは捕まっている者達を開放する。人に当てないように注意しながら攻撃せよ!」


 ガザニア先輩が大蛸を指さしながら指示を出します。

 その手には、小さな杖が握られています。

 杖と言っても、地面を突いて歩くためのものではありません。魔法を補助する器具です。

 杖が無くても魔法を使うことはできますが、杖の補助があればより速く正確に魔法を行使することができます。

 しかし、基礎訓練中の一年生には杖の使用が認められていません。そういう意味でもガザニア先輩が主戦力になります。


 ゲームでは、この戦闘(バトル)イベントは二段階に分かれています。

 一段階目では捕らわれた人を解放することが目的です。

 大蛸に攻撃して一定以上のダメージを与える毎に一人ずつ解放されて行きます。

 この間、大蛸からの反撃はありません。

 全員解放すると、第二段階です。今度は大蛸を倒すための戦いになります。

 ここからは、八本の足が自由になった大蛸も反撃してきます。

 大蛸の攻撃は威力も低いので、前衛のローレルの回復を怠らなければ負けることはありません。

 たとえ負けても、応援が駆けつけて大蛸を倒してくれるので、ゲームオーバーにはなりません。


 もちろん負ける気はありません。

 幸いこのチュートリアルバトルは勝っても負けても好感度に影響はありません。

 まあ、勝つと好感度が上がってしまう戦闘(バトル)イベントでも遠慮なく勝ちに行くつもりではありますが。

 戦闘に負けるリスクは、命に関わります。シナリオが進むリスクよりも優先すべきでしょう。

 しかし、勝ちに行くと張り切っても、私の出番はしばらくありません。

 今の私の役割は、支援です。強化魔法をかけ終わったら、後は誰かが受けたダメージを受けた時に回復するだけです。

 ローレルが前衛でタンク。

 他の三人がその後ろで攻撃魔法を放つアタッカー。

 私が一番後ろで強化と回復を行うサポーター。

 何だかバランスの悪いパーティーです。

 一応私も前衛をやれますが、回復役が前に出るわけにもいきません。

……ローレルが危なそうだったら、前に出ることも考えましょう。

 今はあの大蛸に攻撃を当てて捕まっている人を助けることが先決です。


「くっ、やり難い!」


 ですが、いきなり難航していました。

 ゲームと現実(リアル)の差がここへきて露呈しました。

 ゲームならば「魔法攻撃」で使用する魔法を選べば勝手に敵に向かって攻撃魔法が飛びます。

 ファンブルはあっても、フレンドリーファイアはありません。

 だからひたすら魔法攻撃を繰り返せばそれで終わります。

 しかし、現実には味方にだって魔法は当たります。

 大蛸に捕まっている生徒を避けて攻撃を当てるには技量が必要になります。

 魔法は放った後にもある程度コントロールできますが、魔力制御の訓練も終わっていないニゲラ殿下とケールには難しいようです。


「この、動くな!」


 ニゲラ殿下が命じても、大蛸が聞くはずもありません。

 あの大蛸は、魔法で攻撃しようとすると足で防御しようとします。そこに捕まえた人ごと。

 一応人に当てても致命傷にならない程度に威力は抑えられていますが、救出すべき生徒に攻撃を当てるわけにはいきません。

 別に大蛸も人質とか肉盾として利用しようとか考えているわけではないのでしょうが、魔法の精度に難のあるニゲラ殿下やケールでは攻めあぐねています。

 私の魔法制御能力ならばピンポイントに当てることもできるでしょうが、あいにくと攻撃用の光魔法はまだ覚えていません。

 結局ガザニア先輩だけが攻撃を当てられているのだけれど、元々水棲生物に威力低めの水魔法はあまり効いていないようです。

 ローレルは距離があるのでまだ手が出せません。ニゲラ殿下の護衛でもあるので、一人で吶喊することもできません。


「これでは埒が明かない。」


 ガザニア先輩も焦れてきました。ちょっと状況が悪いですね。

 今回は強化と回復に徹しようかと思っていましたが、私も少し手を出すことにしましょう。

 カメリアさんを早く救出したいですしね。


「私があの大蛸の気を引きます!」

「……よし、やって見ろ!」


 ガザニア先輩はちょっと嫌そうな顔をしました。元平民の私が活躍するのは気に入らないのでしょう。

 それでも状況が芳しくないことは確かで、結局許可は下りました。

 それでは、張り切って行ってみましょう。


灯り(ライト)!」


 私は灯り(ライト)の魔法で光源を二つ出しました。実体のない光の球のようなもので、攻撃能力はありません。

 ニゲラ殿下が、こちらをちらりと見て鼻で笑いました。

 世間、特に貴族の間では、魔法は攻撃魔法の威力ばかりが重要視される傾向があります。

 攻撃能力の無い初級の光魔法など、評価に値しないお笑い種なのでしょう。

 光魔法の適性が無くても使える灯り(ライト)の魔法を披露したところで自慢にならないことは確かです。

 けれども、魔法は使い方次第です。

 私は灯り(ライト)の魔法を大蛸に向かって飛ばしました。

 攻撃を警戒したのか、大蛸は足で防ごうとしますが、私のコントルールする光球は大蛸の足をひらりと避けて本体へと向かいます。

 実体のない魔法の光なので避けなくてもすり抜けるのですが、気分の問題です。

 そして、大蛸の目の前まで到達した光球は、そのままその大きな眼球へと潜り込んで行きます。


「……えぐい。」


 犯罪組織を裏から動かして悪さをするケールには言われたくありません。

 それはともかく、両目に一つずつ灯り(ライト)の光球を打ち込まれた大蛸は慌てました。

 攻撃魔法ではないので傷一つ付きませんが、眼球の内部から光が溢れたら、さぞや眩しいでしょう。


「今です! あの大蛸は何も見えていません。」


 大蛸は暴れますが、私は光球の位置を調整して眼球の内部に留め続けます。

 魔力の多い人や魔物には通用しない方法ですが、魔物ではなく眼球も大きな大蛸にはよく効きました。

 眼の内側から発する光は、瞼を閉じても目を足で覆っても防げません。


小火球(スモールファイア)!」

風球(ウインドボール)!」

水撃(アクアスプラッシュ)!」


 ここぞとばかりに魔法が飛び交います。

 魔力に敏感な魔物ならともかく、視界を塞がれた大蛸には避けることも防ぐこともできません。


「きゃあ」


 大蛸は堪らず捕まえていた生徒を一人放り出しました。カメリアさんが宙を舞います。

 落ちて来るカメリアさんをしっかりとキャッチしたのはローレルでした。

 よくやった、ローレル!


「ヒール!」


 私も前に出て、カメリアさんに軽く治癒魔法をかけます。

 大蛸の眼を封じながら治癒魔法をかけるには、私も前に出るしかありません。

 とりあえずカメリアさんに大事なさそうなので後はアスター先生に任せましょう。この場で完璧な処置をしている余裕はありません。

 名残惜しそうなカメリアさんを立たせて避難させます。

 その後、一人二人と大蛸に捕まっていた生徒が放り出されるようにして解放されて行きます。

 それをローレルが受け止めたり、私が防御力を強化して着地させたりしながら救出します。

 大きなけがを負った者はいないようなので、カメリアさん同様軽い治癒魔法だけかけて避難してもらいます。


「お前たちは、杖を取って来い!」


 おっと、どうやら大蛸に捕まっていた生徒の中に攻撃魔法の使える上級生がいたようです。

 ゲームで駆け付ける応援は彼らのことかもしれません。

 大蛸から解放されてから武器となる杖を持って駆け付けるので、バトルが終わった後にやって来るのも納得できます。


「これで思いっきり戦える! もう目隠しは良いぞ。」


 捕らわれていた者が全て解放されて、急に強気になったニゲラ殿下が横柄な態度でこちらに指示してきます。

 ただし、この場の指揮を執っているのはガザニア先輩です。

 確認のためガザニア先輩に視線を向けると、こちらも鷹揚に頷き返しました。

 問題ないようなので、灯り(ライト)を解除しました。

 眼球の内部から溢れる光から解放された大蛸は、少しきょろきょろとしていましたが、すぐにこちらに向き直りました。

 大蛸は、まだまだやる気のようです。

 捕まえていた生徒を放したことで身軽になった大蛸が、先ほどよりも軽快にこちらに向かってきます。

……どうして荷物にしかならない人間を抱え込んでいたのでしょう? 蛸の考えは分かりません。

 おっと、大蛸が足を一本こちらに伸ばしてきました。それをローレルががっちりと受け止めます。


火槍(ファイアランス)!」

風撃(ウインドブラスト)!」

水弾(アクアブリット)!」


 大蛸止まった隙に、攻撃魔法が叩き込まれます。

 これまでの鬱憤を晴らすように、強い攻撃魔法が連続して放たれました。

 捕まっていた生徒を避けてちまちまとした攻撃を繰り返すことに相当ストレスを感じていたのでしょう。

 ニゲラ殿下は魔法の細かい制御が苦手です。大蛸に捕まった生徒を避けるため魔法を大きく逸らし、そのまま大蛸に当たらずに終わることもしばしば。

 その度に悔しがって、人魂をポンポン出していました。魔力制御が乱れれば、魔法のコントロールも悪化し、余計にストレスを溜める悪循環です。

 しかし、生徒たちが開放されたことで細かな制御が不要になりました。

 ニゲラ殿下は調子に乗って、不必要に攻撃魔法を乱発しています。

 そして、攻撃魔法の嵐が一段落した時、大蛸は既に息絶えていました。


「どうだ、見たか!」


 勝ち誇るニゲラ殿下。

 ですが、所詮これはチュートリアルバトルです。

 相手は大きいだけの動物、魔物ですらありません。

 あれだけバカスカ魔法を撃ち込んでいれば倒せて当然の相手です。

 むしろ、一撃で倒せないことに己の未熟を感じるべきところなのです。

 私も早く攻撃魔法を覚えたい!


 まあ、そんなこんなで初めての戦闘は無事終了したのでした。


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