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花咲く王国で恋をしない ~乙女ゲームの世界のヒロインに転生した元男ですが、何をすればよい?~  作者: 水無月 黒
第一章 一年生編

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第十五話 臨海学校2

ブックマーク登録および「いいね」ありがとうございました。

 朝食が済むと、皆で連れ立ってビーチへ移動します。

 臨海学校で何をするかと言えば、当然泳ぎます。

 他にも色々とありますが、砂浜や海に入っての活動がメインになります。

 貴族たるもの、水泳くらいできなければなりません。

 海に面していない領地でも川や湖くらいはありますし、国内外の移動に水路を利用することも多々あります。

 海に投げ出されたくらいで簡単に死んでよいほど貴族の責務は軽くありません。

 だから水泳の練習をするし、ビーチスポーツで足腰の鍛錬も欠かしません。


「よーし、泳ぐぞー!」


「誰かー! ビーチバレーやろうぜ!!」


 傍から見ていると遊んでいるようにしか見えませんし、当人たちの意識もしっかり遊んでいますが、これも学校教育の一環なのです。

 それにしても、所々に前世に近い光景を見ます。

 水着もそうでしたが、ビーチボールや浮き輪なんかが普通にあります。

 ビーチサンダルもビーチパラソルもゴムボートっぽいものもあります。

 化学繊維とか合成樹脂とかいった素材はありませんが、魔物素材や魔法を利用した加工などで同様の物を作っています。

 ゲームがこの世界に影響しているのでしょうか? よく分かりません。

 まあ、値段が高いので庶民の手に入る物ではありませんが。海水浴は貴族だけの楽しみです。


 さて、自由時間の多い臨海学校ですが、学園の行事の一環なので決まり事も多いです。

 砂浜や海を移動してよい範囲は決まっていますし、決まった時間には集合しなければなりません。

 また、自由に泳いだり砂浜で遊ぶだけでなく、希望者には水泳教室も行われています。

 この世界では水泳は特殊技能に近いものがあります。海や川など水場が近くになければ泳ぐ機会もありません。

 貴族にだって泳いだことの無い人はたくさんいます。

 海の浅いところで先生に付き添われながらおっかなびっくり泳いでいます。

 あ、カルミア様も水泳教室の方です。

 泳げない人は、臨海学校の期間中に泳げるようになることが目標です。

 ただし、貴族に必要なのはスポーツとしての水泳ではありません。

 生き延びるための水泳です。水に浮いて、近くの陸や船までたどり着ければよいのです。

 スピードは求められていません。クロールでコンマ何秒のタイムを競ったりはしません。

 ぶっちゃけ犬かきです。犬かきを教えています。

 それと、顔を水から出したまま浮かぶ練習とかもやっています。

 水に落ちても溺れない、最低限の練習です。

 ただし、魔法科でこの水泳教室に参加している生徒はほとんどいません。

 なにしろ、滝行で慣れていますからね。

 何度水中に叩き落とされたことか。

 私は学園に入ってからは滝行で水没したことはありませんが、入学前に行っていた特訓で散々水に流されました。

 滝行は水に流されることが前提の修行なので、倒れたはずみで頭を打ったりしないように、水深が深めに作られています。

 そこそこ深い水槽に叩き落とされるので、泳げないと水から抜け出すのも一苦労です。

 安全設計のポイントが間違っている気がします。

 最悪溺れてひどい目に遭うので、みんな滝行に成功するよりも先に泳ぎを覚えてします。

 ニゲラ殿下でさえ何度も何度も容赦なく水中に落とされていましたからね。

 魔法の基礎訓練のはずなのに、随分とスパルタな水泳の特訓になっているのです。


 そんなわけで、魔法科の生徒は一年生でもあのレベルの水泳教室で教わる必要はありません。

 水泳教室に参加していなければ、今の時間は自由時間なので思い思いに過ごしています。

 あそこでビーチバレーをやっているのはニゲラ殿下ですね。

 ローレルが相方をやっているので、接待プレーとかしなくても普通に優勢です。

 ローレルは体力、反射神経、身体操作など体を動かす能力に秀でています。

 ニゲラ殿下も運動神経は悪くないので、ローレルのサポートがあればかなりの強さを発揮します。

 素人同士の試合ならば、このペアはとても強いのです。

 あ、カメリアさんも近くで観戦しています。ローレルの応援でしょう。心なしかローレルも気合が入っているように見えます。

 カメリアさんの水着は白のワンピースです。

 袖付きで肩から二の腕までを覆い、下はスカートで膝のあたりまで隠れています。

 露出は控えめで、可愛らしいデザインでカメリアさんの魅力を引き立てています。

 カメリアさん、攻めてますね。

 この世界の水着は前世における現代風なものが入っていますが、やはり露出は控えめで体の線があまり強調されないものが好まれています。

 まあ、露出控えめというのも前世基準なので、この世界の日常からすれば十分に大胆な格好です。

 向こうで泳ぎの練習をしているカルミア様は黒のタンキニです。

 セパレート型の水着ですがお腹はほとんど露出しておらず、ボトムは足首あたりまでを覆うゆったりとしたズボンタイプです。

 ゆったりしている分、水の抵抗は大きくなりますが、泳ぐ速さを競うわけでもないので問題ありません。

 男子の水着も似たようなものです。

 男子の水着は、基本的にゆったりとしたトランクスです。間違ってもブーメランパンツとかは穿きません。

 上半身は裸ですが、脚は膝の上まで隠れています。太腿を露出しないことが最低限の節度です。

 色や柄などの違いはありますが、やはり女子用の水着に比べるとバリエーションはありません。

 前世の人曰く、「野郎の水着なんてどーでもいいんだよ!」です。

 ただ、こうしてみるとグラフィッカーさんの実力が窺い知れます。

 ゲームのCGは美化120%といった感じです。

 もとより攻略対象は美形揃いで、水着になっても恥じることの無い引き締まった身体をしています。

 けれども、ゲームのCGはその魅力を最大限引き出す構図で描かれているのです。

 あのCGのクオリティを期待してこの光景を見た乙女がいたとすれば、幻滅とは言わなくても少々がっかりすることでしょう。

 観賞用の美形とはよくいったものです。


 なお、ほとんどの男子の水着はトランクス型の海パンのみですが、ローレルは上にタンクトップ型の水着を着ています。

 白と深緑のボーダー柄で、前世の人的には「どこの囚人服だ?」ですが、この世界にはボーダー柄の囚人服を着せる習慣はありません。

 もしかすると、防刃仕様の水着とかでしょうか? ローレルは一応ニゲラ殿下の護衛ですし。


 さて、他の人は何をしているのか……砂浜でビーチ・フラッグスをやっていますね。

 何でこの世界にビーチバレーやビーチ・フラッグスがあるのかとかは気にしないことにしましょう。

 何気にケールがビーチ・フラッグスに参加しています。

 あれ、風魔法使っていませんか?

 一年生はまだ魔法の実技を習っていませんが、入学前に初級の魔法くらいは覚えていても不思議はありません。

 ゲームではニゲラ王子とケールは一年生の時点で攻撃魔法を使うことができています。

 今使っているのは、風を起こす初級魔法ですね。追い風を作って加速しています。

 砂が舞い上がってちょっと迷惑ですね。

 ゲームと同様に攻撃魔法が使えるのなら、ケールは騎士科の落ちこぼれ程度撃退することは可能です。

 ただし、攻撃魔法を人にけて放つことは厳しく禁止されています。騎士科の生徒が剣を抜いた場合同様、厳しく取り調べられて必要性が認められなければ重い処罰が待っています。

 命の危険を感じるような場面でもなければ、攻撃魔法を人に向けることはできません。

 ゲームでも、この世界でも、ケールが落ちこぼれに反撃しない理由がこれです。

 まあ、裏の報復を行うつもりであえてやられていたのかもしれませんが。


 ビーチスポーツは何ヵ所かで行われていますが、スイカ割とか、砂でお城を作ったりとかしている人はいません。

 ビーチスポーツは鍛錬の一環です。

 砂浜以外では、海に入っている人も多数います。

 足の付く浅いところで水に浸かっているだけの人もいますが、何人かはがっつり泳いでいます。

……あれ? あそこで泳いでいるのは、アスター先生ではないですか!

 貴方は生徒の引率兼救護要員でしょう。

 生徒が危険な目に遭っていないか監視して、いざという時には治療を行う貴方が遊んでいてどうします。

 今生徒が怪我をしたり、アスター先生自身が溺れたりしたら誰が治癒魔法を使うのですか!?


 私ですか、そうですか。


 まあ、引率の先生は他にもいるから問題ないのでしょうけど。

……って、監視台に座って海の方を見ているのは、ガザニア先輩ではないですか。

 これではどちらが教師か分かりません。

 ガザニア先輩は面倒見は良いのだそうです。

 平民や下級貴族を下に見る言動は強烈ですが、上に立つ者として下々の者を導く義務があると考えてるようです。

 ノブレス・オブリージュと言うやつですね。

 ガザニア先輩は水魔法を使いますから、海難救助でも力を発揮するかも知れません。

 ただ、大きな事故が起こった場合に血統優先のトリアージを行いかねませんが。


 念のため海に入るのは後回しにして、ビーチスポーツを楽しむことにしましょう。

 ビーチスポーツは暗黙の了解で男女分かれてプレーしています。

 ニゲラ殿下やケールが遊んでいた辺りから少し離れた場所で女子が集まってビーチスポーツをしています。

 私は女子の集まっている方へと向かって行きました。


………………。

………………。

………………。


 気が付くと私は審判をやっていました。

 私はビーチスポーツは初めてでしたが、それは他の人も大差ありませんでした。

 少なくとも今の学園に先輩を含めて経験者はいても熟練者はいません。

 技量に大きな差が無ければ、純粋に身体能力の差が勝敗を決めます。

 はい、ビーチスポーツ各種で私が圧勝してしまいました。

 剣術女子の皆さんが参加していれば良い勝負ができたのでしょうが、彼女たち、特にガチ勢は臨海学校に参加していません。

 補習を受けている人もいますが、そうでなければ剣の修行をしています。

 他の女子とでは勝負にならないとなると、後は男子に挑むくらいしかありませんが、それもできません。

 男女別になっているのは身体能力の性差もありますが、不用意に男女が触れ合うことを避けるためでもあります。

 露出は少なめでも水着ですし、未婚の若い貴族としては、変な事故を避ける必要があるのです。

 ラッキースケベは貴族社会では致命的です。男女ともにどのような形で未来が閉ざされるか分かったものではありません。

 私が気にしなくても、男子側が拒否します。下手をすれば、私がわざと「事故」を起こして何処かの殿方に責任を取らせようとしているのではないかと勘繰られてしまいます。

 仕方がないのでしばらく審判をやっていました。


 その後、アスター先生が戻ってきたので、泳ぎまくりました。

 これも鍛錬です。


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