第十四話 臨海学校1
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七月になりました。
この学園には七月に重要なイベントが二つあります。
一つは学期末の試験です。
この世界では微妙に日本的なものが入り込んでいて、学園は三学期制になっています。
その最初の一学期を締めくくるのがこの学期末テストです。
月末に行っていた学力試験と異なり、本人の成績として記録に残る試験になります。
もちろん、主席をキープしました。
ニゲラ殿下が凄い形相でこちらを睨んでいますが、いつもの事なので無視します。
最近はカメリアさん以外にも何人か集まって勉強会を開いているので、うかうかしていると私以外の人にも抜かれますよ、ニゲラ殿下。
それにしても、今のニゲラ殿下の顔を見て攻略したいと思う乙女がいるでしょうか?
ゲームのCGはグラフィッカーさんの力作です。気品を損なわずに恨めしげな顔を見事に表現しています。
前世の人的にはそこまで凄いCGだと思っていませんでしたが、今そこにいる現物と比べると優秀さが引き立ちます。
この世界の今のニゲラ殿下は、まるでかんしゃくを起こした子供のようです。
こちらを睨む以上のことは自制しているようですが、ちょっと挑発すれば簡単に乗って来そうです。王族としてはかなり拙いのですけど。
今ニゲラ殿下が自制できているのも、王家の体面というよりもそれを言い続けてきたカルミア様のおかげかもしれません。いつもご苦労様です。
もう一つの重要イベントが、夏休みです。
七月下旬から八月いっぱい学園の授業はお休みです。
その間に生徒は実家に帰ったり、学園に残って部活動に勤しんだり、自主的に勉強したりします。
地方の貴族の中には王都との往復だけでも夏休みがほとんど終わってしまうことも珍しくないので、三年間ずっと寮で暮らす人もいるそうです。
私も基本は寮に残ります。帰省するにしても王都のチャールストン伯爵邸になります。
お義父様は頻繁に帰ってきて欲しいそうですが、私は学業優先なので甘えるわけにはいきません。
夏休み中も授業がないだけで学園の施設は利用できるものが多くあります。利用しない手はありません。
ゲームでも、夏休み中にも育成コマンドを実行できます。
そして、夏休み中にはあのイベントがあります。
臨海学校。
林間学校。
帰省する学生もいるので自由参加ですが、ゲームでは選択肢も無く参加確定です。
ゲームとは異なり自由参加なので参加しないことも可能ですが……当然ゲームのイベントが発生する学校行事です。
一年生の時点ではさほど危険なイベントではありませんが、下見をするにはちょうど良いということになります。
これは、参加するしかありませんね。
そんなわけで、やって来ました臨海学校!
学園から馬車に揺られて約一日。朝早くに出発して、夕方には海に着きます。
王都から意外と近くに海があります。
学園所有のプライベートビーチだそうで、豪華な宿舎から海岸まで全て学園の敷地です。
王立学園なのでこの海岸と施設は王家の所有物です。学園で使用しない時には王家の人間がバカンスに来ることもあるそうなので、ニゲラ殿下は来たことがあるかもしれません。
移動を含めて四泊五日、正味三日間の臨海学校です。
初日は移動日で、宿舎に到着したら食事をとって休むだけです。
そして翌朝。
今日からが臨海学校の本番です。
ゲームにおける臨海学校は、水着回です。
中世西洋風剣と魔法のファンタジー世界という世界観を無視して、全員が現代風の派手な水着を着こみます。
つまり、このイベントでは水着が制服です。
そして、この世界でも同じような状況です。
この三日間、私達は日中はほぼ水着で過ごします。
その水着のデザインは、だいぶ現代的(前世の人基準)です。
日頃は露出の多い衣装は下品だと言われるのですが、水着に関してはその辺り緩くなります。
さすがにハイレグとかTバックとかほとんど下着にしか見えない水着とかは着ませんが、腕や脚が剥き出しの水着ならば普通に着ます。
普段の衣装よりは体の線が出ますし、デザインも洗練されていて着る者の美しさを引き立てます。
普段との落差もあってより魅力的に魅力的に映ります。
眼福ものでしょう。
興奮で鼻息も荒くなります。
「お嬢様素敵です、最高です! ハアハアハア。」
主に私のメイドが。
本当は連れて来たくはなかったんですよね。水着くらい自分で着れますし。
ただ、臨海学校の期間中、施設の清掃や炊事洗濯等を生徒の連れてきた使用人が行うことになっています。
学生にやらせればよいと思うのですが、貴族の学園なので仕方がありません。
性格というか性癖はともかく、エリカは有能です。並のメイドの十人分くらい働いてくれるでしょう。
私の水着を選んだのもエリカです。多少彼女の趣味が入っているかも知れませんが、エリカのセンスは良いです。
ゲームではヒロインの水着はフリルのついたピンク色のワンピースでした。髪の毛と合わせて上から下までどピンクです。
可愛らしさの中にお馬鹿さを表現したグラフィッカーさんの力作です。
エリカの用意した水着の中にはゲームと同じピンクのワンピースもありましたが、私はお馬鹿さはいらないので、ライトブルーのセパレートタイプの水着を選びました。
セパレートなのでお腹は露出していますが、肩は出ていません。ボトムもスカート付きなので全体として露出は控えめです。
海に入らない時は水着の上に一枚羽織るくらいで、一日中水着のまま過ごします。
着替えが終わったら、大食堂で朝食です。
臨海学校では参加者全員が一堂に会して朝食を取ります。
「……ですから、課外活動の一環であることを忘れずに、規律正しく行動してください。」
全員が集まったところで引率の一人であるアスター先生が注意事項を説明しています。
それにしても、規律とか一番気にしなさそうなアスター先生が言うのはなんだか皮肉です。
アスター先生はこの手の行事にはたいがい参加するそうです。
学園でも医者は用意していますが、治癒魔法の使い手がいればより生徒の安全が確保されますから。
今年は私がいるのでさらに安心になります。
さて、食堂を見回してみますと……やっぱりいますね。
ニゲラ殿下とローレル。別の馬車でしたが、ちゃんと参加しています。
ケールもいます。彼は実家が王都なので帰省する必要がありません。
ガザニア先輩も来ています。生徒会長はこの手のイベントを仕切る側です。
攻略対象勢揃いです。
他には、カルミア様も来ています。彼女と話す機会はあるでしょうか?
カメリアさんもちゃんといます。参加するとは聞いていましたので、予定通りです。
ガザニア先輩やカルミア様がいることからも分かるように、この臨海学校は三学年三学科共通の行事です。
全校の生徒にその使用人までついてくるとかなりの大人数になります。
さすがに学園の全生徒を一度に収容するのは無理なので、臨海学校の参加人数には定員があります。
希望人数が多すぎれば申し込んでも参加できないこともあり得るのですが、これまで定員オーバーになったことはないそうです。
なぜならば、臨海学校や林間学校には厳しい参加資格があるからです。
それは成績です。
まず、赤点を取った者には厳しい夏季補習が待っているので、海にも山にも行く暇がありません。
補習を免れた者でも、成績が思わしくなければ参加資格はありません。夏休みは自主的に勉強しろ、ということです。
実際、参加者のほとんどは成績上位のAクラスです。
騎士科だけは成績とクラス分けが直結していないのですが、実技の実力も伴っていないと臨海学校に参加する余裕もないらしく、Aクラス以外からはあまり参加しないようです。
いずれにしても、学業成績でかなり厳しく足切りされるので、臨海学校の参加者は絞られています。
ニゲラ殿下の護衛のローレルだけは例外ですが、まあ、いつものことです。




