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第二話 四年前

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 私がチャールストン伯爵家の養子になってから、一年が経ちました。

 私ももう十一歳。後四年で王都の王立ブルーローズ学園に入学し、ゲーム本編がスタートします。

 この一年間私が行っていたことは、勉強です。

 貴族というのは、言ってみれば政治を行う一族のことです。

 農民が農業を行うように、商人が商いを行うように、職人が物作りを行うように、貴族は政治に関わることが家業なのです。

 そのために貴族の子息は幼少期から勉強を始め、平民の子供が働きだす年頃になっても学園に通って高い教養を身に付けます。

 武門の貴族でも、単なる兵士ではなく将校になるために、事務作業ができる程度の教養は叩き込まれるそうです。

 私も貴族の一員になった以上、しっかりと勉強しなければなりません。学園に入学する前に読み書き計算に貴族のマナー、最低限の教養を身に付ける必要があります。そうしないと学園での授業についていけません。

 貴族の令嬢の場合は政略結婚することが仕事だったりするので、社交界で必要となる教養のみを重点的に学び、学園にも人脈や派閥を作るためだけに通う人もいるそうです。

 ですが私は魔法の才能を見込まれただけの元平民、その才能を活かして国のため領地のためにバリバリ働く人間にならなければなりません。

 それに、私の将来を考えるとここで手を抜くわけにはいきません。

 今の私は前世の人の人格に引っ張られていて、男性と恋愛できそうにありません。

 はい、この時点でヒロイン失格です。

 今生の私が前世の人格を抑え込むために前世と同じくらいの人生経験が必要だとすると、私は完全に行き遅れになります。この世界の平民はだいたい十代で結婚しています。

 この世界、少なくともこの国の平民の生活を考えると、女の独り暮らしはとても大変です。女手一つで私を育てたお母さんの姿を見ていたから、それはよく分かっています。

 つまり、結婚できない女として独り寂しく生きて行くには、しっかりとした職に就いてお金を稼がなければなりません。公務員、最高です!

 まあいずれにしても、学園に通うために貴族の身分を与えられた私は、学業に励む義務があります。本来、ゲームのように色恋にうつつを抜かしている暇はないのです。

 私にとってまず必要なことは、文字の読み書きでした。

 この国の平民の識字率は惨憺たるものです。

 平民は自分の名前が書ければよい方です。私のお母さんも読み書きはまるで駄目でした。

 没落した貴族が代筆業で糊口をしのぐ、というのもよくあることだそうです。

 ゲームではしょっちゅう赤点を取る筋肉バカのローレル・ベスビアスでさえも、文字を読み書きできるという一点だけで平民よりも学力が上なのです。

 平民出身の私はこの点で出遅れていました。

 十歳の時点で私は読み書きができませんでした。日本語ではないので前世の記憶も大した役に立ちません。

 この国で使われる文字は、葉っぱを図案化したような葉文字(リーフ)と呼ばれるものです。また、葉文字(リーフ)を書き崩した筆記体の草文字(グラス)というものもあります。

 元の小説ではそういう文字を使っているという記述だけでしたが、書籍のイラストとしてそれっぽい文字を何文字かデザインし、その後コミカライズされた際に漫画家さんの手で全文字作られたそうです。

 葉文字(リーフ)草文字(グラス)はアルファベットを置き換えるもので、ニ十六文字の大文字小文字相当に加えて数字の十文字、合計六十二文字になります。

 前世の人はこれをゲーム画面に表示するために葉文字(リーフ)フォント、草文字(グラス)フォントなどを作りました。

 ゲームで使われていた文字と同じだったので多少は馴染みがあったかな、と言ったところです。

 表音文字で、綴りと発音が一致しているので、文字さえ覚えれば読み書きはどうにかなります。

 そして文字を覚えたことで本が読めるようになりました。これで勉強がはかどります。

 算数などは四則演算ができればよいので楽勝です。

 地理や歴史もゲームの設定として大まかなところは押さえてあります。

 魔法に関しては初体験ですが、本格的な訓練は学園に入学してからがメインなので、今は基礎的な練習をしています。

 問題は貴族の作法、礼法でしょう。

 相手と状況に応じて取るべき態度が変わったりするので、覚えることが多くて大変です。

 ゲームでは細かいところは端折っていたし、元平民ということで多少の不慣れは大目に見られていました。

 しかし、大目に見られていたということは厳密に言えばアウトなわけであり、下手な相手に目を付けられると不敬罪で捕まる恐れがあります。

 それにゲームのヒロイン、フリージア・チャールストンの引き起こすトラブルは貴族としての常識に疎いことが原因という設定でした。

 悲劇を避けるためにも、しっかりと貴族の勉強をするべきでしょう。

……考えてみると、イベントの発端となったヒロインの言動って、貴族の常識に疎いからというよりも、単なる我儘姫的な発想だった気がします。

 そして、ヒロインの台詞だけならば可愛い我儘で済むものを、ルートに入ってべた惚れ状態のお相手が暴走したあげくに悲劇が起こるのです。

 バカに権力を持たせてはいけないという良い例です。

 ああ、シナリオライターさんのどや顔が浮かびます。あの人は天才です。確かに考えれば考えるほどヒロインと攻略対象の残念さが際立ちます。

 ヒロイン視点とは言え、いじわるから邪魔をしているように見えるカルミア様が不憫です。彼女の言葉はまともなので、なるべく言うことを聞きたいと思います。


 さて、頑張って勉強している私ですが、最近少し困ったことが起きています。

 それは……


「おっ嬢っ様~、おっはようございま~す!」


 おっと、もう起きる時間でしたか。


「おはよう、エリカ。」


 この朝からテンションの高い女性は、エリカ。私の専属メイドです。平民なので家名の無いただのエリカです。

 私がチャールストン伯爵家に来た時に身の回りの世話係として付けられました。もう一年の付き合いです。


「さあ! お着換えして、朝食にしましょうねぇ~!」


 着換えくらい一人でできる、と元庶民としては思ってしまいますが、これも貴族の務めです。慣れるしかありません。

 実際、貴族の御婦人の衣装の中には自力で着ることが不可能なものもあるそうです。

 幸いコルセットでこれでもかと締め付けるようなドレスを着せられたことはありませんが、この世界に存在しないのか、お子様だから免除されているのかはまだ分かりません。


「ああ~、お嬢様。今日も愛らしいです~。ハアハア。」


 ちょっと危ない人にも見えますが、これでも有能なメイドなんです。

 ただ、エリカがメイドではなくて男性だったら物理的に首が飛びかねない光景です。

 平民が貴族の令嬢に不埒な真似をするということは、それだけの大事です。なんちゃって令嬢の私も、貴族の一員であることには変わりありませんから。


「おはよう、フリージア。今日も可愛いね。」


 食堂へ行くと、今日はお義父様がいらっしゃいました。忙しい方なので、毎朝顔を合わせられるとは限らないのです。


「おはようございます、お義父様。」


 私が笑顔で挨拶を返すと、お義父様は相好を崩します。

 義理とは言え娘は初めてだそうで、お義父様は暇があれば私を構います。

 チャールストン伯爵の公務で疲れているお義父様が少しでも癒されればと笑顔で応じていますが、実はこれが目下の悩みなのです。

 お義父様もエリカも、私を猫可愛がりして甘やかそうとします。

 お義父様やエリカだけならばまだよかったのですが、最近は私に勉強を教えて下さる家庭教師の方々までがなんだか甘くなってしまっているようなのです。

 これはちょっと問題です。

 前世の人も警鐘を鳴らしています。

 これが全ての原因なのではないでしょうか?

 一般庶民だったフリージアはチャールストン伯爵様に拾われて貴族の仲間入りをしました。今までの貧乏暮らしからすれば信じられないほど豊かで贅沢な生活です。

 そこに加えて、周囲からちやほやされ、甘やかされまくったら、我儘姫が出来上がっても不思議はありません。

 前世の人の知識や人格の助けを借りて我儘姫になることを防いでも、このままでは知識が不足したまま学園に入学することになりかねません。

 しっかり勉強して攻略対象の暴走を抑えよう作戦、早くも頓挫しそうです。

 ほんと、どうしましょう?


・エリカ

 誕生日:12月14日

 花言葉:自立

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