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第七話 ガールズトーク

評価設定、ブックマーク登録、「いいね」および感想ありがとうございました。

 アスター先生は仕方がないとして、攻略対象とはある程度距離を置き、変にイベントを進めることなく学園生活が始まりました。

 出だしは上々です。

 ゲームでは特に危険なイベントは三年生になってからが中心ですから、一年生では能力アップと情報収集、後は交友関係を広げておきたいところです。

 けれども、一つ問題があります。

 私、学園内の序列最下位なのです。


 学園内の序列は貴族としての上下関係を表します。個人の能力や成績は関係ありません。

 貴族の序列としては、まず爵位が挙げられますが、ほとんどの学生は爵位を持っていないのであまり関係はありません。

 ニゲラ殿下も王太子になっていないので、公的な身分としては一緒です。王太子や、貴族家の次期当主として正式に公表されている場合は公式の身分になりますので、爵位に準じる扱いを受けます。

 爵位を持たない貴族の子弟同士ならば身分は同じですが、それでも序列は生まれます。

 基本は家の爵位で決まります。親の力関係がそのまま学生同士の立場に反映されます。

 私のお義父様は伯爵で、爵位としては高い方です。ギリギリ上級貴族と呼ばれます。

 貴族家の格付け基準ならばそこそこ上位に入るわけです。

 けれども、序列に関してはもう一つの基準があります。

 それは、血統です。

 ガザニア先輩のように血統至上主義ではなくても、貴族の間では血統は重視されます。

 例えば、ラバグルト公爵が突然爵位を返上し、領主を含むあらゆる公務から引退して「平民になる!」とか言い出したとします。

 現実問題として不可能ですが、もしも望み通り貴族から平民になったとすれば、子供であるガザニア先輩とカルミア様は貴族としての特権を失うことになります。

 けれども、それで貴族としての未来が閉ざされたかというと、そんなことはありません。たとえ元でも公爵家の血筋を欲しがる貴族は多くいます。嫁や婿、あるいは養子とてしてどこかの貴族家に入り込むことは容易です。

 同様に、ニゲラ殿下が王子として不適格と判断されて国王陛下から勘当されたとしても、王家の血筋欲しさにすり寄って来る貴族は必ず現れます。

 まあ、それはそれで騒動の元なので、勘当して放逐ではなく、幽閉していつの間にか病死となることが多いそうですが……

 対して私はと言えば、お義父様――チャールストン伯爵家の後ろ盾が無ければ、貴族として何も残りません。

 チャールストン伯爵家が没落するか、お義父様に勘当されれば、私はただの平民に逆戻りになります。

 そうなれば貴族の血を持たない私に、他の貴族が引き取るだけの価値はありません。教会が喜んで取り込みに来るでしょうけれど。


 実は、爵位としては最下位の準男爵であるイントリーグ家には、家系を遡れば侯爵とか伯爵とか言った上級貴族の血が入っています。

 騎士爵や準男爵は功績のあった平民に対して褒賞として与えることのできる地位で、そうした平民上がりの貴族は旧来の貴族からは「成り上がり者の平民」として貴族の仲間とみなされない傾向にあります。

 しかし、イントリーグ準男爵家は特別です。本来一代限りの準男爵の爵位を代々受け継いでいる大商家です。

 その歴史の長さは、建国以来の名家に並びます。

 この国の制度では、男爵以上の爵位は領地と直結しています。

 領地を持たず、商業でこの国を支えてきた貴族、それがイントリーグ家です。領地を治めていれば侯爵家になっていただろうと云われれています。

 血筋としては、間接的に王家の血も入っているイントリーグ家は、その権威も貴族間の力関係もかなり上位に位置します。

 何かの事故等でイントリーグ家が全滅してケール一人が残ったとしても、必ずどこかの貴族が引き取って面倒を見てくれるでしょう。

 当然、学内の序列も下級貴族よりも上です。彼への態度を見ていれば、貴族の力関係への理解度を測ることができます。

 さすがに秀才揃いのAクラスには、ケールのことを準男爵家だからと侮るようなお間抜けはいないようです。


 まあ、そんなわけで、由緒正しい平民出の私は、見事に序列最下位です。

 私と同じように貴族の養子となった元平民か、平民から成り上がった騎士爵や準男爵の令息令嬢がいればまた違うのですが、あいにくと上級生を含めても平民出身は学園内で私一人でしょう。

 貴族が就学前の平民の子供を養子に取ることは稀ですし、騎士爵や準男爵でも学園に通うのは貴族の血筋の子供が大部分です。

 序列最下位の何が困るかと言えば、貴族には「格下の者から格上の者にむやみに話しかけてはならない」という作法があるからです。

 もちろん親しい者同士ならば序列は関係ありませんし、用事があって話しかける分には問題ありません。

 ただ、積極的にお友達を作ることが難しいのです。

 意味もなくこちらから話しかけることはできません。

 何か話しかける必要が生じた機会に上手く話を膨らませるか、相手から興味を持って話しかけてもらうのを待つしかありません。

 ゲームではそもそも学園内の序列なんて出てきませんでしたし、ヒロイン(フリージア)はニゲラ王子を始めとする序列上位の攻略対象に遠慮なく話しかけます。

 けれども、私はそんな不作法をやって顰蹙を買う気はありません。

 まあ、月末の試験が近付けば話しかけられる機会も増えるのではないかと思っています。これでも私、学年主席ですから。

 急いで変な人と関りを持ってもアレなので、ここはじっくりと行きましょう。

 それに、私はボッチじゃありません。


「あ、フリージアさん。よろしかったら御一緒にお茶にしませんか。」


 カメリアさんです。お友達になっておいてよかったです。

 私、同じ世代の友達がいなかったんですよね。十歳でチャールストン家に引き取られて、それからずっと勉強でしたから。

 しばらくはカメリアさんを相手に同世代のお友達との会話を練習させていただきます。

……魂の年齢はノーカウントです!


 さて、カメリアさんと他愛のない会話に興じているのですが、この年代の女子の会話には避けて通れない話題があります。

 それは恋バナです。

 私、この世界に生まれて十五年間、恋愛なんてしたことありません。

 そもそも、前世の記憶――おっさんの魂が宿っていますので、殿方に興味などございません。同世代の男子なんてガキですし。

 そんなわけで、恋バナなど振られても困ってしまいます。

 けれども、上手い躱し方を見つけました。


「私の理想は、お義兄様です!」

「まあ! それって理想高すぎません!?」


 私のお義兄様――バジル・チャールストンは学園では有名人でした。

 座学では普通科を抑えて主席、剣を取れば騎士科の生徒にも劣らず、希少な闇魔法の第一人者。

 文・武・魔全てを兼ね備えたお義兄様は正に私の理想です。私もお義兄様に続かなければなりません!

 え、意味が違う? ハイハイ、承知の上です。

 お義兄様は女生徒からも人気があったようですが、浮いた話一つありませんでした。

 ハイスペック過ぎて並の令嬢では釣り合わないと、かえって女子から近寄りがたく思われていたお義兄様が理想だと言えば、そこいらの男子に興味を示さなくても納得されます。


「そういうカメリアさんはどなたか気になるお方はいるのですか?」

「え、あの、私は……、その……」


 おやぁ、この反応は……恋する乙女ですね!

 既に気になる相手がいる様子です。ここは親友として一肌脱がなければなりませんね!


「ローレル・ベスビアス様が格好いいなって……」


 カメリアさんは消え入りそうな声で赤くなりながら言います。初々しい反応ですね……って、え? ええ?

 ローレル・ベスビアスですか?

 あの脳筋騎士ですか?

 確かに顔は良いですが。

 騎士として剣の腕も優秀ですが。

 実家は武門の名家、ベスビアス侯爵家で、何事もなければ次期当主予定。

……客観的に考えれは、超優良物件ですね。

 欠点はニゲラ殿下の側近であることと、ニゲラ殿下のやることに異を唱えないイエスマンであることくらいです。

 これだって、王族の警護を任せられるだけの実力と信頼を得ている証ですし、ただ何も考えていないだけのイエスマンも傍から見れば忠義に篤いと受け取られます。

 うーん、これ応援しても良いものでしょうか?

 世間的には優良物件でも、私にとっては要注意人物の一人です。

 本人に悪意はないのですが、ニゲラ殿下に付き従っているのでニゲラ殿下の悪行の片棒を担ぐことになります。

 ニゲラ王子ルートではニゲラ王子の起こすクーデターを主導した一人になりますし、皆殺しルートではその内乱の最中にニゲラ王子を守って討ち死にします。

 ローレルは国王陛下に命じられてニゲラ王子を護衛しているのですから、その本来の主は陛下なのです。ニゲラ王子の言うなりに陛下に弓引く行為は、忠義のあり方を間違っています。

 ローレルルートでも最後までニゲラ王子の配下として行動していたから、エンディングの後にニゲラ王子のクーデターに参加する可能性が高いのです。

 この世界ではなるべく穏便に済ませたいところですが、ニゲラ殿下が内乱を起こすようならば私は止めようと思っています。

 話の流れによってはローレルは私と敵対する可能性があるのです。

 ニゲラ殿下の内乱に加担すれば国家反逆罪、クーデターが成功しても政権は安定しないでしょうから血の粛清が続きます。武闘派のローレルは血なまぐさい現場の中心にいることでしょう。

 そんな危険な状況になる可能性のある男に憧れる親友を応援してよいものでしょうか?

 でも、現状では反対する理由がありません。

 ローレルもニゲラ殿下も、今はまだ悪事と呼べるほどのことはしていません。

 稚拙な言動が目立つニゲラ殿下と違って、寡黙なローレルはお馬鹿な部分が目立っていません。

 ベスビアス侯爵家はセレッソ子爵家から見れば少々格上ですが、縁談が躊躇われるほどの身分差ではありません。

 もちろん先方が認めなければ儚い恋に終わりますが、頭の足りないローレルにとって、秀才のカメリアさんは良いパートナーになれるのではないでしょうか。

 うーん、ニゲラ殿下とさえ切れれば、結構よい相手に思えてきました。

 そう言えば、ゲームのローレルルートではニゲラ王子よりもヒロイン(フリージア)を優先する場面がありました。

 ローレルの覚醒イベントもヒロイン(フリージア)の言葉に影響されて発生します。

 脳筋騎士のローレルも恋人の言葉ならば聞くのかもしれません。ただゲームのヒロイン(フリージア)は頭がお花畑でまともなアドバイスができなかっただけで。

 つまり、カメリアさんならばローレルを正しく操縦できるかもしれません。

……スルーしたローレルとの出会いイベントですが、今からでも発生可能でしょうか?

 ローレルが昼休みに鍛錬しているのは日課ですし、ゲームでもあまり日付は関係のないイベントです。


「ローレル様と言えば、昼休みに修練場で鍛錬しているのを見ましたよ。」


 フ、フ、フ。

 ローレルルート、進めてみようじゃありませんか。カメリアさんで!


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