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第六話 光魔法

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 光魔法は有名な魔法系統ですが、その詳しい内容はほとんど知られていません。

 それは教会が光魔法を独占しているからです。

 教会では光を聖なるものの象徴とし、光魔法を神の奇跡の表れとして扱っています。

 そのため、教会は光魔法に適性のある者を囲い込んでいます。そして、光魔法に関する技術と知識を秘匿しました。

 現在、誰でも使える灯り(ライト)以外の光魔法の使い手は、ほぼ全て教会に所属しています。

 私は教会には所属していませんがまだ灯り(ライト)しか光魔法を知りませんし、光魔法を色々と知っているアスター先生は教会に所属しています。

 教会の囲い込みはそれだけ強力に行われているのです。

 例えば、教会は無料で魔法適性の検査を行ってくれます。

 何らかの魔法適性とそれを使いこなせるだけの魔力があれば該当する系統の魔法使いになる素質があるということです。

 魔法使いに成れれば食い逸れることはないので、万に一つの可能性に賭けて適性検査を行う平民は多くいます。

 何らかの魔法の素質があれば教会から就職先まで紹介してもらえる(教会は紹介先からお布施という名の仲介料を受け取る)のですが、もしもそれが光魔法だったら教会は全力で取り込みに来ます。

 教会という大きな組織が全力で取り込みに来るので、貴族か豪商など特別な立場の人でない限り抗いようがありません。

 また、教会は孤児院も運営しています。ありがちな設定ですが、ゲームでも踏襲しています。

 しかし、教会は単なる慈善事業で孤児院を運営しているわけではありません。

……教会なのだから、慈善事業でもかまわないでしょうに。世知辛いです。

 教会の孤児院で行われていることは、人材育成です。

 孤児院の子供たちは教会の教義や戒律の他に読み書き算術を習うことになります。体力のありそうな子供は、剣術を教わることもあるそうです。

 そして当然魔法の適性を調べます。

 魔法の素質のある子どもは金の卵です。磨けば光る原石です。

 国や領の機関、商業や工業のギルド、魔法使いの血筋を取り込みたい貴族等、欲しがる相手はどこにでもいます。

 そういった相手に優秀な素質を持ち教会の教えに忠実な子供を売……人材として紹介することが孤児院の役割の一つです。

 ただし、光魔法の素質を持つ子供だけは、どれほど金を積まれても絶対に手放しません。

 私も、もしもお母さんが生活苦で私を手放していたら、あるいはお義父様が教会に頼らず自ら人材発掘を行おうと考えなければ、私は今頃教会に囲われていたことでしょう。


 本来ならば光魔法の素質を持ち、教会に所属していない人材を確保したところで、それだけでは役に立ちません。

 素質はあっても光魔法の使い方を教わる相手がいないからです。

 唯一知られている灯り(ライト)の魔法は光魔法に適性の無い人でも使えますし、それ以外の魔法を独自に開発するとなるとどれだけ時間がかかるか分かりません。

 教会にある魔法を使いたいならば、独自開発するよりも教会に頼んだ方が早い。これまではそうしてきました。

 けれども、お義父様は私を教会に預けるのではなく、チャールストン伯爵家の養子てして迎え入れました。

 この背景には、政治的な理由があります。

 簡単に言えば、教会が力を持ちすぎてしまったのです。

 この世界には高度な医療技術はありません。薬草を煎じただけの薬と、効果の怪しい民間療法が主体です。

 そんな中、光魔法による治療は破格の効果があります。

 医師が匙を投げた重い傷や病を、光魔法はいともあっさりと治してしまいます。

 その分お高いお布施を要求されるので貧乏人には縁がないのですが、命がかかっているだけに大枚叩いて教会に縋る者も多くいます。

 それは貴族や王族でも同じことです。

 時には国の要人の命を握る教会は、大きな発言力を得ました。

 更に孤児院で教会への忠誠を叩き込まれた人材を各所に送り込んでいます。

 国の役に立つ分には構いません。けれども、国の意思決定に大きな影響を及ぼすとなると困ったことになります。

 教会はこのフラワーガーデン王国だけにあるわけではありません。下手をすると他所の国の影響を教会を通じてダイレクトに受けかねません。

 特に王家や大貴族が教会の言いなりになると、本気で政治が宗教によって歪められることになります。

 このことに危機感を覚えた国の偉い人が教会と協議した結果、一部の光魔法の情報を国に提供することになりました。

 教会にしても、国と事を構えるのは避けたかったのでしょう。協力を約束しました。

 教会が情報を提供する手段として選んだのが、国側の人間を一人、教会に受け入れて光魔法を教えるというものでした。

 国と教会の双方に所属し、どちらの利益も損なわないように立ち回る調整役を置くということです。

 その大役に任ぜられたのが、貴族の中で光魔法の素質を持っていたアスター・カーディナルでした。

 他に適任者はいなかったというのが正直なところでしょう。国としてはそれだけ重要な仕事を身元のはっきりした貴族以外に任せられません。

 でも、任命した人も、受け入れた教会も、後悔していないでしょうか?


「光魔法は大きく分けて、目に見える光を操る魔法、肉体に作用する魔法、精神に作用する魔法があります。」


 授業は、まず理論から入ります。実技は基礎訓練が終わって魔力の制御ができてからになります。

 危険のまずない灯り(ライト)くらいならば前倒しでやっても問題ないでしょうが、他の系統、特に火魔法なんかは気楽に実践できません。


「光を操る魔法は、光を発する灯り(ライト)の魔法の他にも、遠くの光を引き寄せて見る魔法や、実体のない幻影を見せる魔法などがあります。」


 遠くの光を引き寄せる……望遠鏡の様な魔法でしょうか。そのまま覗きに使えそうです。

 幻影を見せる魔法はゲームでもありました。自分の幻影を作り出して、一回だけ敵の攻撃を無効化する魔法です。

 上手く応用すれば光学迷彩なんかもできそうです。

 夢が広がります……が、犯罪者御用達になりそうで怖いです。


「肉体に作用する魔法は、怪我や病気を治す治癒魔法が有名です。他には肉体の力を強める強化魔法があります。」


 この治癒魔法が国として欲しかった魔法です。私も習得する必要があります。

 ただし、治癒魔法専門の治癒師になる必要はありません。

 いざという時に治癒魔法を使える人間が国の管理下にいれば、教会からの無茶な要求は撥ね退けられますし、それを知っているから教会も無茶なことは言いません。

 普段は教会にお布施を払って治療してもらえばいいのです。

 貧乏人には縁遠いのは相変わらずですが、それは一朝一夕にどうにかなるものではありません。


「精神に作用する魔法は、精神を高揚して士気を高めることができます。また、相手を魅了したり、洗脳したりする魔法もあるそうです。」


 はい、出ました魅了(チャーム)の魔法。たぶんこれ、教会が隠している魔法です。

 更に洗脳とかおっかない単語も現れましたが、魅了(チャーム)の時点で洗脳と大差ありません。

 そう言えば、怪しげな噂に「教会に連れて行かれた人が別人のようになっていた」などというものがあります。

 都市伝説のようなものですが、光魔法に魅了(チャーム)や洗脳があると知れれば真実味が増します。

 いくら光魔法の授業とはいっても、教会がひた隠しにしている秘密をいきなり暴露してよいものでしょうか?

 やはり、ゲームと同じくこの世界でもアスター先生は口の軽い男と考えて間違いないようです。


「肉体や精神に作用する光魔法は、活力を与える方向に働きます。けれどもやり過ぎると副作用があるので注意が必要です。大きな怪我を一気に治すと体力を消耗しますし、精神を高揚し過ぎると奇行に走る場合もあります。」


 これも、教会が秘匿している事柄でしょう。ただ、光魔法を使う以上は副作用についても知らないわけにはいきません。

 教会では光魔法を聖なる力扱いで良いこと尽くめのように宣伝していますが、もちろんそんな都合の良いものではありません。

 前世の人はシナリオライターさんから魔法についての設定も聞いていました。

 地、水、火、風の四系統とは異なり、光と闇には概念的な部分があります。

 光魔法の特性は、活性。変化や運動と言った能動的な作用を引き起こします。

 闇魔法の特性は、鎮静。変化を打ち消したり、運動を止めたりと光魔法の反対の性質を持っています。

 治癒魔法は自然治癒能力や免疫作用を活性化するものです。活性化した分、本人の体力を消耗します。

 身体強化の魔法は筋肉や心肺機能を活性化します。こちらも本人の体力を消耗しますし、やり過ぎれば骨や腱が持ちません。場合によってはオーバーヒートしてぶっ倒れます。

 精神に作用する魔法はさらに危険です。

 精神を活性化するため気分が高揚しますが、それはつまりハイになるということです。下手をすると変な風に暴走します。

 また、相手の精神を都合よく変質させるのが魅了(チャーム)や洗脳の魔法です。

 なお、魅了(チャーム)や洗脳で変質した精神を光魔法で治そうとすると、捻じ曲がった精神を逆方向に捻じ曲げることになるので精神に大きな負担がかかります。

 だから魔法が切れて自然に治るのを待つか、闇魔法で復元するのが一番なのだそうです。

 前世の人曰く「光魔法と闇魔法、逆じゃね?」です。

 闇魔法が人の精神を支配したり歪めたりし、光魔法がそれを治す。前世の人はそんなイメージを持っていました。

 この世界でも一般の人の持つイメージは似たようなものです。教会が頑張って光魔法のイメージを広めていますから。

 しかし、おかしな言動をして洗脳等の精神支配が疑われる人を教会に連れて行ったとして、そこで行われることは教会による再洗脳なのです。

 下手をすると、教会への忠誠心を植え付けられて帰って来るかも知れません。

 この情報だけでも国にとって重要なものですが、実はアスター・カーディナルが初めてもたらしたものではありません。

 教会が毛嫌いしている闇魔法の研究から判明している事実です。

 だから世間的には悪く思われている闇魔法も、国としては保護対象で確保すべき人材です。

 お義兄様は結構重要人物なのです。

 お義兄様の場合、闇魔法を使える教師がいなかったため、闇魔法を研究している学者を特別講師として招いて、文献から半ば独学で習得したのだそうです。

 一方のアスター先生ですが、教会から光魔法の知識と技術を持ち帰りました。アスター先生自身も治癒魔法を使えるそうです。

 しかし、国と教会の間に立つ調整者の役割は果たせているのでしょうか?

 あの口の軽さだけで十分に不安材料になります。それに、教会に配慮すべき点の説明が完全に抜けています。

 教会の人も後悔しているかもしれません。こんなに軽い人間が来るならば光魔法を教えるのではなかった! とか。

 国の人も頭を抱えているかもしれません。教会の人も途中で気付いて知識の出し惜しみをしたかもしれませんし、逆に国の重要な情報を教会に漏らしているかもしれません。

 あ、アスター先生が学園で教師をやっているのも国家機密とかに触れさせないためかもしれません。

 滅多にいない光魔法の素質を持った学生を教えるだけなら、私のような光魔法の素質を持つ学生が入学した年だけ臨時講師をやれば済みますからね。


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