第四話 学園初日
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昨日は入学式だけだったので、今日から学園生活が始まります。本日が初登校です。
勉強は明日からですが。
クラス分けと本日の予定は事前に知らされています。朝食が済んだら制服に着替えて早目に登校しましょう。
エリカに見送られながら寮の部屋を出ます。
寮に使用人を連れて来ることはできますが、学園にまで連れて行くことはできません。エリカはここでお留守番です。
逆に言えば私達が学園に行っている間は使用人はフリーになります。その間に寮生活や学園生活で追加で必要になったものを手配したり、貴族家本家と連絡を取り合ったりするのだそうです。
特に必要が無ければ使用人個人の私的な時間として使えるみたいですね。
私のいない間、エリカが何をしているのか? 知りたいような、知りたくないような……
それはともかく、初日から遅刻したくないので、さっさと教室に向かいます。
王立ブルーローズ学園はとても大きな学園です。
千人以上の学生を収容する校舎。
その生徒に対応するために、こちらも多数いる教員や職員の利用する教職員棟。
三つの学科それぞれに固有の各種施設。
部活動用の部室が集まった部室棟。
研究施設の入った研究棟。
さらには一部の学生寮も敷地内に存在します。
敷地が広いうえに増改築を繰り返してきた学園は複雑怪奇な構造をしていて、新入生がよく迷うと云われています。
ゲームでは、初日にヒロインが迷って遅刻しそうになるところを、攻略対象の一人ケール・イントリーグと出会って一緒に教室に向かうイベントがあります。
もちろんそんなイベントに付き合うつもりはありません。
今日は余裕をもって早めに出てきましたし、教室の場所も事前に調べてあります。
ぬかりはありません!
でも、ゲームでは二年、三年に進級した際にも同様のイベントが発生して、その時点で最も好感度の高い相手と教室に向かいます。
やはりゲームのヒロインはかなり頭が悪いと思います。成績とか記憶力とかの問題ではなく、事前準備を怠り、同じ失敗を繰り返すという意味で。
無事、教室に到着しました。
途中、道に迷うこともなく、変な男に引っかかることもありませんでした。幸先良いです。
魔法科の一年生はAからEまでの五クラスあって、私はAクラスです。
事前試験の良い順にAクラスから振り分けられるのだそうで、原則Aクラスには座学の成績の良い学生が集められれています。
Aクラスの生徒は二十名ほどです。五クラスあるから百名くらいと思っていたのですが、少々違ったようです。
クラス分けは人数均等ではなく成績優先、特にAクラスは学力が一定以下の学生は排除したので人数が少ないのだそうです。
ただ、何事にも例外はあります。
まず、ニゲラ殿下は成績に関係なくAクラス固定です。王族だから特別扱い、というよりも警備の都合だそうです。
王族に対する安全の確保は他の貴族よりも一段引き上げる必要があります。そのような重要人物は少人数の管理しやすいクラスに入れられるらしいです。
まあ、ニゲラ殿下は成績だけは良いので、そうした配慮が無くてもAクラスですが。
ゲームでは、ヒロイン、悪役令嬢に次ぐ事前試験の第三位がニゲラ王子です。
この世界でもそれは同じようで、ニゲラ殿下は新入生中第三位です。事前試験の上位者は公表されていたので間違いありません。
場違いなのは、脳筋騎士ローレル・ベスビアスです。成績を考えれば絶対にAクラスには入れない人間です。
本人の資質を考えれば、Aクラスどころか魔法科にいること自体が間違いです。騎士科に行くべきです。
座学の成績でクラス分けされる魔法科と普通科とは違い、騎士科は実技で順位が付けられるそうです。
騎士科ならばローレルは間違いなくAクラスです。
そんな彼が場違いな魔法科にいるかと言えば、ニゲラ殿下の護衛だからです。
特例措置で、赤点を取ろうが、授業について行けなかろうが、ニゲラ殿下とセットでAクラス固定です。
ちょっとかわいそうな気もします。
ローレル・ベスビアスがニゲラ殿下の護衛に選ばれた理由は、騎士としての剣の腕前の他に土魔法に適性があったからだそうです。
ゲームでは、ヒロインのアドバイスによって土魔法で仲間を守る鉄壁の守護騎士へと成長する展開もあります。
ローレルの覚醒イベントを起こす気はありませんから、きっと魔法の使えない脳筋騎士のままで終わるでしょう。
さて、クラスに不釣り合いな生徒がいる一方で、いて然るべき人がいません。
それはカルミア様です。
事前試験で第二位のカルミア様がこの教室にいないのは、朝早くてまだ登校していないからではありません。
貼り出されたクラス分けを見て確認しました。このクラスにカルミア様の名前はありません。
気になってよく調べて見たところ、カルミア様の名前を発見しました。ただし、魔法科ではなく、普通科のAクラスでした。
ちょっと不思議です。
生粋の貴族であるカルミア様は、魔法の資質を活かさなければならない私と異なり、社交界で活躍する道もあります。だから普通科を選択することもあり得ます。
しかし、魔法科は魔法の才能のある者だけが入れるエリートコースです。
文官を育成する普通科、武官を養成する騎士科に対して、どちらへの道も開けている魔法科には一定以上の魔力と何らかの系統の魔法への適性が無ければ入学できません。
だから、条件さえ満たしていれば、魔法科に入学させるものなのだそうです。
カルミア様は条件を満たしていたはずです。兄妹揃って魔法科を卒業すれば公爵家としても拍が付くから、可能なら魔法科に入れると思うのですが、なぜでしょう?
そう言えば、ゲームでも授業中にカルミア様が出て来るイベントはほとんどありませんでした。
昨日のような登下校時、放課後、学園全体で行われる行事等。授業中に起こるイベントでも、カルミア様が現れるのは合同授業だったはずです。
やはりゲームでもカルミア様は別のクラスだったのでしょうか?
シナリオライターさんに聞くか、原作小説を読めばそのあたりの設定も分かるのかもしれませんが、あいにく前世の人はそこまで知らないようです。
あっ、もしかするとカルミア様の適性のある魔法の系統が問題なのかもしれません。
この世界の魔法は、土、水、火、風、光、闇の基本六系統と、そこから派生した無数の派生系統の魔法が存在します。
その中でも特に基本六系統は優れた魔法だと考えられていて、攻略対象の五名は闇を除いた基本六系統の魔法の系統が割り当てられています。
私も含め、基本六系統の魔法の適性者はそれだけでエリート扱いです。
一方、カルミア様が適性のあった魔法は、土と水の派生系統である植物魔法です。
ゲーム内でもあまり見る機会はありませんが、植物の成長を促進したり品種改良を行ったりできるそうです。
別に、派生系統の魔法が悪いわけではありませんが、植物魔法のように戦闘に使えない魔法系統は一段低く見られる傾向があります。
成長促進ができると言っても、突然巨大な木が生えて相手の攻撃を遮るとか、地面から蔦が伸びて相手をからめとるといった派手なことはできません。このため植物魔法は農業専用の魔法と思われています。
ラバグルト公爵家は武門寄りの貴族なので、戦場で使えない魔法の評価は予想以上に低いのかもしれません。
ゲームの知識ではなく、この世界で得た情報としても、カルミア様の魔法の系統は伝わってきません。
魔力が多くて魔法に適性があることは知られているのに、どの系統の魔法かは伝わってこないというのは不自然です。公爵家側で隠しているとしか思えません。
ゲームの設定と違っていたとしても、カルミア様の適性は非戦闘向けの魔法で、ラバグルト公爵家は隠したがっていることは確かそうです。
良いと思うのですけどね、植物魔法。花咲く王国にぴったりの魔法です。
あ、私の光魔法はとっても戦闘向きですよ。
最初は松明代わりにしかなりませんが、中盤では貴重な回復要員兼死霊系特効、そして最終的には戦略兵器へと育ちます。
戦闘パートにおける画面全体を埋め尽くす巨大レーザーのエフェクトは、前世の人渾身の作です。
前世でも、「これ本当に乙女ゲーム?」とか「あ、あれは憎しみの光だ!」とか大評判でした。
この世界でも光魔法は戦闘向けの魔法と認識されています。戦略兵器はともかく、回復役やアンデット対応を行う人は教会にいるそうです。
可能ならば回避するつもりですが、戦闘パートの入る危険なイベントもあることですし、私もある程度の戦闘能力は身に着けておくつもりです。
戦略級の魔法は必要ないと思うのですが……
さて、クラスメイトが登校し始めました。初日から遅刻しないためか、みなさん余裕を持って登校してきます。
平然と重役出勤をやるニゲラ殿下と、イベントの都合(?)でギリギリに登校してくるケール・イントリーグはまだ来ていないので知った顔はほとんどいません。
生まれついての貴族ならば貴族同士の付き合いで知り合いもいるかもしれませんが、私にはそこまでする余裕はありませんでした。
多少の入れ替えはあるかもしれませんが、これから三年間の付き合いとなる方々です。なるべく仲良くして行きたいものです(一部攻略対象は除く)。
そうそう、ほとんど知らない人ばかりですが、面識のある人もいます。
「おはようございます。フリージアさん。」
「おはようございます。カメリア様。」
彼女はカメリア・セレッソ。セレッソ子爵家の令嬢です。昨日お友達になりました。
そう、入学式の前にニゲラ殿下に突き飛ばされていた彼女です。
ゲームではあのイベント以降出番のないモブキャラですが、なんと同じクラスにいたのです。
ニゲラ殿下は憶えてもいないでしょうし、子爵家の令嬢が王族に文句を言うわけにもいきません。
しかし、「女生徒に駆け寄る」選択肢もあるヒロインが話題にも出さないのはどういうわけでしょう?
まあ、ゲームでは攻略対象以外のクラスメイトはほぼ全員名前も顔も出ないモブキャラ扱いでしたけれど。
ゲームでは名もないモブキャラですが、魔法科のAクラスに所属する成績優秀将来有望な学生たちです。
殿下としては、国の将来を背負って立つ有能な人材を見極める好機です。
完全に無関心なニゲラ殿下の態度は問題でしょう。カルミア様がいればお説教間違いなしです。
そういう意味でもカルミア様を魔法科に入れなかったのは間違いです。ニゲラ殿下を更生させるチャンスを一つ潰してしまいました。
……ニゲラ殿下がその程度で更生するかは疑問ですが。
まあ、殿下たちとは距離を置くにしても、将来有望なクラスメイトとは良い関係を築きたいものです。
・カメリア(椿)
誕生日:1月27日
花言葉:生来の価値