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陰謀の始まり

 幼稚園。マジ楽しいぃぃぃ!!うひょうぅ!


『マスターが楽しそうでよかったです。もちろん皮肉ですけど』


 タイムリープして赤ちゃんから人生をやり直しているが、最近の俺は幼稚園の遊具に絶賛沼っていた。


「おまえ。いつも滑り台ばかり!わたしとおままごとしろ!!」


 幼馴染のエレウテリアは俺がいつも滑り台やほかの遊具ばかりで遊んでいるもんだからすぐに文句をつけてくる。


「そういうのは女の子同士でやってください!男の子は滑り台!滑り台!」


『え?マジでドはまりしてるんですか?うわぁ…』


 頭の中のカイ・フィーがうるさいが、幼稚園で遊ぶのマジで楽しいのだ。だって前世のラストの俺って腕も足もないし左もなんか脳みそまで穴通ってるし、で全くいい思い出がない。戦争しかしていないのだ。


「むぅうう!ならわたしもやる!」


 エレウテリアはいつも俺の傍によってくる。他の子たちに揶揄われるけど、これでも中身は大人なので、余裕でスルーしている。というか幼稚園児って意外と男女で別なのよね。カーストっぽいものはないけど、男女はほぼ一緒に遊ばないのは本当に不思議だ。


「まったくもう。仕方ないなぁ。じゃあ一緒に滑るか」


「わかった!おまえといっしょ!わたしうれしい!」


 ここまでストレートに好意を出されると子供相手でも結構照れる。


『ロリコンなんですか?』


「はは!在り得ない。僕はおっぱいとくびれと大きいお尻が大好きだよ」


 結果的に前世では女性経験には恵まれず童貞だった。というかあんなにフル改造された状態でどう女と付き合えと?このやり直しの世界では彼女が一人でもできるといいな。マジでそう思う。


「きゃー!」


「わーー!」


 エレウテリアを後ろから抱きしめて一緒に滑り台をすべる。すごく楽しいです。やっぱりこう二人同時だと重くなるからスピード出ててスリルがあるんだよね。


『ほんと大丈夫ですか?幼稚園ガチ勢になれると困るのですが』


 カイ・フィーは誤解している。今のうちにこうやって幼稚園児にきちんと擬態しておけばこの先色々工作をしても疑われることはないのだ。まあ楽しいのは事実だけど。俺とエレウテリアが滑り台に夢中になっているときに近くでぱんと音がした。


「あんたほんとなまいき!」「そうよー!」「そーよ!」


 三人の女子園児が一人の女子園児を囲んでいた。お隣の組の子たちだ。


「ちがうの。私そんなんじゃないの」


「じゃあなんでこんなはでなかみかざりしてるの!」


 囲まれている女子は長い黒髪を後ろで縛って止めていた。その縛っている髪留めが確かに派手だった。金色の蝶々の髪留めは長い黒髪の中でとても映えていた。


「これはおかあさんのいえのだいじなものだから」


「なに?おかねもちじまん?ほんとさいてー!こんなの!」


 いじめっ子のリーダーっぽい子が髪留めに手を伸ばしてそれをはぎ取った。


「やめて!返して!」


「いやよ!ぜったいかえさない!」


 まあいじめってこういう年でも起こるんだね。せつねー。俺はそのいじめっ子たちの背後に回り込んで、後ろから髪留めを奪い取る。


「え?ちょっと!あんたなによ!」


「だせぇからそういうのやめとけ」


「なによ!あんたおとこのこでしょ!おんなのせかいにくちをはさまないで!」


 なかなかおませな言い回しで、イラっとさせられる。だけどここで退くほど俺は子供じゃないのだ。かつて俺を守ってくれた人たちがいた。その人たちは散っていた。それはもうタイムリープでなかったことになってしまったけど、それでもあの人たちに誇れる自分でありたい。


「だったらおれはおとこのいじととおす!」


 いじめられたいた黒髪の女子をいじめっこたちから守る様に俺は立った。


「このこからもうなにもうばわせたりしない!おれはそれをゆるさない!」


 これでも歴戦の軍人だったのだ。相手への圧の掛け方くらい分かってる。俺はいじめっ子たちを睨む。彼女たちはだんだんと涙目になって最後には泣いて俺たちの前から去っていった。


「だいじょうぶ?これかえすよ」


「あ、ありがとう!」


 黒髪の女の子は髪留めを両手で大事そうに握る。本当に大事なものらしい。


「これお母さんの形見なの…お母さんパイロットだったけど宇宙で死んじゃって。これだけが残骸から見つかって…」


「あ、ああ。そうなんだ」


 意外にも重たい背景が出てきてビビった。


「おれいをさせてください!おばあさまがいってました!恩には必ずお返しをしなさいと!この蛾の髪留めはとても大事なものですから!沢山お礼します!」


 黒髪の女の子は髪留めで再び髪の毛を結んで止めた。てか蝶々じゃなくて蛾なのか。なんかすげーセンスしてるな。


「ぜひ幼稚園が終わったら式武家にいらしてください!おもてなしさせていただきます!」


 うん?式武?俺ははっとした。目の前の女の子の顔をよく見ると、あの式武中尉とよく似ている。


「私は式武樒と申します!あなたのお名前をぜひともお教えください!」


「…俺は…」


 悩んでしまった。ここであの式武中尉と関わってもいいのだろうか?式武中尉は女性だったため俺とは違って徴兵ではなく志願兵だった。式武中尉は国連軍十二騎士と言われるくらいの最高峰のパイロットの一人だった。まあ俺の特攻に付き合わされて死んでしまったのだが。


『マスター。ここで式武樒との交友を持つことを推奨いたします』


 頭の中のカイ・フィーが俺にそう言ってきた。


『その意図は?』


『式武家は日本の名門であり政治や経済界に大きな繋がりがあります。今後のことを考えれば利用価値は大いにあります』


『利用価値…。俺はそういう風にこの子を捉えたくないよ』


『もちろんそれはわかります。ですからこう考えてはいかがですか?あのような結末に至らないためにマスターがそばで式武中尉をお守りすればいいのです。例えば軍に志願させないように思考誘導するとか』


『…なるほど。わかった。そうしよう』


 俺は式武樒と目を合わせて自己紹介する。


「俺は泡沫枢。下の名前で呼んでくれていいよ」


「わかりました。枢さん。何か不思議な音色の名前ですね。綺麗に聞こえます」


 式武樒は優し気に笑った。それは何の憂いもない可愛らしいものだった。


「私のことは樒とお呼びください」


「わかったよろしくね。樒」


 前世では大人になった後に出会ったけど、こうして俺はこのやり直しの世界で樒と早期にであうことになったのだった。


「おまえ!そいつはだれだ!」


 なんか俺たちの出会いに水を差す奴が出てきた。


「この子は式武樒さん。今お友達になった」


「なに?ともだち?だがてれびでいっていた!だんじょのゆうじょうはそんざいしないと!おまえはわたしにうそをついているな!」


「言っておくけどテレビはいつも事実を語るわけじゃないぞ。それにおれとエレウテリアだって友達だろ?」


「わたしとおまえはおとことおんなだからちがうぞ!」


「ちがうの?!いつも一緒にいるのに?!」


「わたしはおまえの!……なんだろう?」


 俺はがくっと肩を落とす。むしろこの年で男女に友情以外の感情が芽生えたらそっちのがいやだよ。


「とにかく!わたしとおまえはともだちではない!もっとすごいかんけいなのだ!」


「うーん。よくわからないけどわかったよ」


「ふむ!それでよい!ところでしきみとやらのいえにいくのか?」


 エレウテリアはどこか不機嫌そうにそう言った。


「まあ行くけど」


「わたしもいく!おまえとわたしいつもいっしょ!」


「ええ…。あー樒。この子連れてってもいい?」


「え?うーん。いいですけど。お礼の饗応はその子にはなしですけど。それでも良ければ」


 意外としっかりと扱いを変えてくるのね。幼稚園児なのにしっかりしてるよ。まったく。こうして俺は幼稚園時代に未来における重要人物の一人とお友達になったのであった。







 幼稚園時代にやらなければいけない重要なことが一つあった。


「カイ・フィー。ここでいいんだな?」


『はい。ここで間違いありません』


 日曜日。俺は式武家に遊びに行くと両親に嘘をつき、都内の本郷にやってきていた。ここには帝都大学のキャンパスがある。日曜日だがキャンパスには学生や教職員たちがいた。俺もキャンパスの中に入り込んで歩き回っているが、とくに怪しまれていない。おそらく教職員の子弟だと思われているのだろう。


『子供は最高のステルスですね。誰も怪しんだりしない』


「だからテロリストが利用するんだよなぁ。…ああ、宇宙人恭順派の少年兵の自爆攻撃は今でもトラウマだよマジで」


 世の中変な思想は生まれるもので、敵対していた宇宙人を神聖視するものたちも前世の世界ではいたのだ。そういうやつらは国連軍などにさんざんテロを仕掛けてきた。曰く宇宙人は王子が降臨するのを待っているだけだと。その王子は宇宙人と共に安らかに宇宙を統べるのだという。意味がわからないイデオロギー。一種の終末論だったのかもしれない。


『恭順派はゴミカスですが、ある意味私たちにとっては反面教師ではあります。私たちは宇宙人の目的が何なのかを知らぬままに戦争をさせられていたのですから』


「侵略しに来たというのが一般論だったけど、最後にあのコアが発した言葉からはそんな意思は感じられなかった」


『前の世界では人類はダイモーンとの接触に失敗しました。ですがあの最後の感触からすれば意思の疎通ができないとは思えないのです』


「だからこそ怪しい。あのリロイもダイモーンのコアを狙って陰謀をやっていた。あの戦争。もしかして人類側が何かをやらかした結果発生したのではないのだろうか?あれは宇宙人側からすればもしかしたら自衛でしかなかった可能性がある」


『ええ。だからこそ調査しなければなりません。公式発表では宇宙人が地球圏にやってくるのはまだもう少し先です。ですが兆候、あるいはすでに宇宙人が来ること自体は想定の範囲内であった。その可能性は大いにある』


「そしてそのデータがあるとすれば。ここの研究所ってことになる」


 そして俺たちは工学部のエリアにある航空宇宙学科のビルにやってきた。前の世界で一番最初に宇宙人の観測を行って発表したのはこの大学の研究チームだった。ビルの入り口は学生証か教職員のIDカードがないと入れない。だけど今の俺は子供である。


「あー次の授業ダルいなぁ」


「まじそれな!」


 俺はダラダラと駄弁っている学生たちの後ろにぴったりとついて、ビルの入り口を潜った。


「ちょろ」


『まあ所詮は大学ですからね。警備なんてこんなものでしょう』


 そしてビルの中を俺は歩いて、目的の研究室までやってきた。研究室のドアは開いていた。別に誰かが侵入してくるなんて夢にも思っていないざるさ。俺は研究室の中に堂々と入る。


「あら?ぼくちゃんは何処の子かしら?」


 俺は中にいた女子生徒に見つかった。だけどべつにこれは想定の範囲内だ。


「あの!パパのお仕事がどんなのか知りたくて!来ちゃいました!」


「ぱぱ?ああ!樋口教授の息子さん?あら。こんなにかわいい子だったのねびっくり。先生はパーティーとかBBQやっても家族連れてこない人だったから知らなかった」


 勝手にこの研究室のボスの息子さんと勘違いしてくれた。


「でもごめんね。今パパは別のお仕事中なのよ。なんか重要な会議があるんですって」


 ああ知っている。予定は把握済みだ。教授がいないタイミングが重要なのだ。


「そうなんですかぁ…」


 俺は子供らしくがっかりしたような演技をする。すると女子生徒が気を利かせてくれて。


「じゃあ私が研究室を案内してあげる!」


 女子生徒さんは研究室の中を案内してくれた。


『子役デビューでもしますか?』


『悪くないね。でも世界を救う方がずっと大事だから遠慮しておくよ』


 研究室の中では宇宙で使用する様々な重機や船などの研究が行われているようだ。だけどそれは表向きの話のはずだ。宇宙人が地球圏に来たことを感知したのはこの研究室の作った量子レーダーだったそうだけど。のちに宇宙人との全面戦争になったときに人型兵器ヒューマノイドクールスの試作機を国連軍に提供したのもこの研究室なのだ。あのクールスという人型兵器も今考えれば怪しい。


『なあそもそもこの時代に人型兵器を研究して予算が国から降りるものなのか?』


『ありえませんね。人型兵器はそもそも役立たないのです。人の形は兵器には根本的に向いていないのですから』


『だけど俺が戦争で使ったクールスは既存の兵器のすべてを上回る性能を誇っていた』


『ええ。それはコアにひみつがあるはずです。我々にはクールスのコアは人の形をした機械でしか起動しないという科学的には考えづらい性質だけが開示されていました。それ以外のすべてがブラックボックス。最高峰の支援AIの私にさえもその理由は与えられていませんでした』


『人型兵器のコアの秘密、最初に宇宙人の観測した事実。すべてはつながっているのか?確かめなければいけない』


 俺たちは案内の途中で怪しげな部屋を見つけた。


「この部屋は何をやっているのですか?」


「ああ、この部屋はね。宇宙で使う船や重機の操作をシミュレーションする部屋なの。そうだ!どうせなら体験してく?」


 女子学生は部屋のロックを解除して中に入れてくれたそこには巨大なサーバーコンピューターとクールスの操縦席に酷似した操縦席のシミュレーターが置いてあった。


「その席に乗ってみて!」


 言われるがままに俺は操縦席に座った。


「ハイこれ被って」


 いろいろなコード類が刺さったヘルメットを被せられた。個人的には前世の強化手術後の自分を思い出して不快だっけど。そして女子学生はシミュレーターを動かした。ヘルメットのゴーグルに宇宙の風景が投影される。同時に機械との神経接続が行われた感触を覚えた。


「表示されてる機械の手はね。今あなたの手の感覚とリンクしてるの!念じて動かしてみて!」


 それならよくわかる。神経接続による機械操作はこの時代に現れだした技術だった。まだあんまり民生品には使われてないけど、あと十年たてば一般的な技術になる。俺は画面に表示されている機械の手を念じて動かすじゃんけんのぐーぱーチョキを繰り返す。


「上手上手!初めての人って戸惑うんだけど、坊や才能ありそうね」


「いやまぐれですよ」


 クールスの操縦は神経接続が基本だった。これくらいは一般兵だってできる。さて現在俺の脳の神経とシミュレーターは接続されている。このシミュレーターは間違いなくあの大きなサーバーともつながっている。


『カイ・フィー。やれ』


『イエス。マイマスター』


 カイ・フィーがサーバーへのハッキングを開始した。俺はその間シミュレーターで女子学生と遊んでいた。そしてしばらくして。


『マスター。データの吸出しは終わりました。ついでにバックドアも仕掛けておきました。今後データが更新されるたびにこちら側にデータが流れるように仕組んであります』


『よくやった。カイ・フィー。ではずらかるとしよう』


『いえすさー!』


 俺はシミュレーターから降りて、女子学生さんに抱き着く。


「お姉さん!僕すごく楽しかったよ!」


「あらそう?それはよかったわ」


「でもごめんね。お姉さん実は謝らないといけないことがあって」


「なにかしら?」


「ここに来たのはママには内緒なんです。きっと僕が勝手に来たことがパパを通してママにバレると…僕…」


 まるでDVを受けているような可哀そうな少年の演技をする。女子学生はそれで勘違いしてくれたようで神妙な顔をして。


「わかったわ。今日ここに君が来たことは誰にも言わない。もちろん先生にも…ごめんね。助けになれなくて」


 もしかしたやばい母親から逃げてきて父親を頼った子供とでも勘違いしてくれたようだ。


「今日はありがとうお姉さん!またね!」


「ええ、またね」


 お姉さんは研究室の入り口で俺を見送ってくれた。だますのは心苦しいけど、これも世界を守るため。割り切らなきゃいけない。だけどこれであの戦争がなぜ発生したのか。その真相に迫れる可能性が出てきた。俺は必ず暴いてやる。あんな悲惨な未来を作り出した連中を暴き出し復讐を果たしてみせる。



よろしかったら★★★★★をください。よろしくお願いいたします。

あとラブコメも描いているのでよろしかったらどうぞ

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