幼馴染ができました。
タイムリープしてばぶぅになりました!戦闘支援AIが脳内に住んでるけど!
「てかさ。人の脳内を勝手に増改築するのやめてくれない?」
「いいじゃないですか。私も今や自由の身です。一軒家くらいほしいです」
今俺は赤ちゃんらしくお眠の時間だ。だからここは厳密には夢の世界ということになるのだが、俺の脳に住み着いたカイ・フィーは俺の脳の未使用領域を勝手に使ってなんか家とか庭とかを再現して遊びだした。もちろん本人もアバターを用意している。
「そのアバターもなんなん?」
「世間がAIが女の子になったらこうなるという偏見をもとに創ったつもりです」
カイ・フィーの姿は銀髪に赤目の美しい女だった。スタイルもよく。おっぱいがプルンプルンと揺れる。服装は体にぴっちりとフィットした未来人風のタイツっぽいやつ。
「頭の中に美女飼うとかさぁ…中二病通り越してモテない男の妄想じゃん…なんか切ない気持ちになってきたよ」
「ですがマスターは今は赤ん坊です。ぶっちゃけ退屈でしょう?」
「はい。めっちゃ退屈です」
「ここならいろいろできますよ。マスターの姿も全盛期の大人の姿にできますし」
「そりゃありがたいね。じゃあ今後の方針を決めますか」
俺たちは脳内ハウスに入りお茶を楽しみながら、協議を開始する。
「とにもかくにも言えることは絶対にまた同じ道は歩みたくないってことだ」
「ええ。マスターの人生は悲惨の一言でしたよね。変に素質があったからマッドサイエンティストたちに目をつけられて体弄りまくられて…」
カイ・フィーが俯き悲しそうな顔をしている。自由の身になったこのAIちゃんはどうやらちゃんと感情に目覚めたらしい。俺は最後まで付き従ってくれたこの子に特別な感情を持っている。
「リープしたってことは結局のところ宇宙人ダイモーンとの戦争は避けられない。ならせめて有利な状況で迎えたいところだ」
「それについてなのですが、一つ案があります」
自信に満ちた顔でカイ・フィーが胸を張って答えた。
「何か手があるの?」
「スマホを一台、ご両親から盗んでください。ついでにケーブル類も」
「それでなにすんの?」
「マスターがケーブルを口にくわえてスマホと接続していただければ、私の分身がスマホに宿ります。そこからインターネットに接続して各種口座を作成して株式投資や先物取引、電子通貨のマイニング等々を行って資産を増やします!」
「お、おう。なんかすごいこと言い出したぞこいつ。だけど両親を助けるなら金は必須だな。前の世界じゃ突然降ってきた怪獣どものせいで俺の両親は死んだ。俺は運よく生き延びられたけど、そのご徴兵されてあとは流されるだけだった」
「はい。ですが金さえあればシェルターを作るなり、逃げ出すなり、何でもできます。かねこそぱわぁーです!」
AIらしくある意味俗っぽい意見だ。だけどド正論だしこれ以上ないくらいの助けになる。
「わかった。母さんたちからスマホをパクるから、その後はよろしく頼むよ」
「了解いたしました」
カイ・フィーは恭しく敬礼をした。
「もう軍隊じゃないんだぜ?」
「ですがあなたが私のマスターなのは変わりません。あなたは世界を救った。わたしはその功績に崇敬の念を抱かざるをえません」
そう言われるとむずかゆい。前の世界の功績を覚えていてくれる人がいるのは何とも誇らしいことだ。
「さて。あともう一つ提案があります」
「なに?」
「腕を鈍らせないで欲しいのです」
そう言ってカイ・フィーは指を弾く。すると周りの風景は一瞬にしてかつて所属した国連軍の人型兵器のハンガーに変わった。
「各種機体の情報は私の中に存在しております。それで再現しました」
「それで訓練ってことか。はぁ。平穏は遠いなぁ」
「残念ながら戦争は確定事項です。備えるに越したことはありません」
「わかった。じゃあがんばりましょうか」
俺は目の前の量産型の機体に乗り込む。カイ・フィーは機体に触れるとそのまま融合した。
『システムオールグリーン』
「了解。では発進」
俺たちはハンガーから飛び出してシミュレートされた戦場へと飛び込んでいった。
赤ん坊のころは退屈で仕方がなかった。とりあえず親からスマホを盗んでカイ・フィーをネットで遊ばせておくことくらいしかできない。どんどんと積み上がっていく口座の金に戦慄したことだけはよく覚えている。あとはひたすら脳内で戦闘シミュレーションを繰り返し続けた。もう乗ってる時間だけならプロの軍人以上だと思う。こうして穏やかに赤ん坊の時代は過ぎて行った。
「うちの子は本当に手がかからないわね」
「ああ。泣くのはうんちのときくらいだ」
「でもおかげで仕事へはスムーズに復帰できそう」
「俺もイクメン気取る必要もなさそうだよ」
「じゃあ時短仕事はもうやめてマイホームを買うのを繰り上げちゃう?」
「そうだね。夢のマイホーム探しをはじめようか」
カオス理論。バタフライエフェクト。そんなことばがある。俺が赤ん坊としては全く手がかからないもんだから両親の仕事への負担は全くないと言っていい程だった。だからなのか。幼稚園に入るくらいの頃に、両親はマイホームを買ったのだ。
「これは未来知識にはないなぁ。両親が死ぬ日までは賃貸のマンションだったんだけど」
『まあ放っておいてもいいでしょう。ご両親は幸せそうですし、マスターが何か介入する必要はないと思います』
そんなこんなで幼稚園に入るときにはマイホームに引っ越しが決まった。23区内のけっこう大きいお家。新築である。そして引っ越ししてすぐの時だった。隣の空き家に外国人のファミリーが引っ越してきた。
「月からとなりに越してきました。こちらは娘のエレウテリア・エレウシス。仲良くしてください」
エレウシス家は月面都市から地球に降りてきたらしい。エレウシス家には俺と同い年の一人娘がいた。ピンク色の髪に紫色の瞳のとても可愛い子だった。でもご両親に全く似ていない。
「おまえがおまえか?」
「え?俺は泡沫枢っていうんだけど」
「おまえがおまえだ!」
エレウテリアは出会うなり俺に抱き着いてきた。なんか気に入られたらしい。
『中身は大人ですからね。マスターのギャップに惹かれているのでしょうね』
左様に御座るか。一応カイ・フィーにエレウシス家を調べてもらったけど、特に後ろ暗い背景はなかった。こうして俺に前の世界ではいなかった幼馴染が誕生したのである。
幼馴染さん…?まさかね…。