ニッポン人よ、七面鳥を食え
「なぜ、なぜこうも流行しない……ッ! 日本人は七面鳥を食わんのか……ッ!」
アメリカ現大統領、ジョーは固く握った拳を机に叩きつける。机は少々のことにはびくともしないマホガニー製。なぜならアメリカ大統領の机には「2m近い大男の拳骨に耐え続ける」という役割があるからだ。
副大統領のニックはジョーの剣幕に怯えることもなく、サラサラと書いたメモを机にそっと置き、彼が落ち着くのを見守った。ジョーは立ち上がり、やれタコなんてものは食い物じゃない、スシはアメリカが改良してやったから世界に認められただのと、日本人の食生活がどれだけ原始的であるかを熱弁していた。ビッグ・アメリカを率いるというのだからこのくらいのパワーは必要だ、と苦笑いするニック。
ひと通り思いを爆発させたジョーはふん、と鼻息荒く席に戻り、机の上のメモに気づいた。ニックは耳元でこう囁いた。
「大統領、我々は日本を開国させた歴史があります。智者は歴史に学ぶもの、いかがでしょうか、ゴニョゴニョ……」
ジョーは彼の痛快な作戦をひどく喜び、立ち上がって叫んだ。
「ブラボー、ニック! これは素晴らしいアイデアだよ! 日本に対して七面鳥が輸出できれば、アジア諸国に対する我が国の経済的優位性は大きく改善される!」
「ありがたきお言葉です。では、早速準備を。」
ニックはキビキビと大統領室を後にした。
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数日後、神奈川県横須賀市に不思議な船舶が訪れた。
「監視塔より連絡、未確認の船舶が3時の方角より出現、距離およそ8km、アメリカ国旗を掲揚しています」
海上自衛隊に緊張が走る。米国旗を掲げているとはいえ、連絡もなしに領海に侵入しようとする船があるのはおかしな話だ。
「監視塔より連絡、船舶は鳥のような形をしている模様」
海上自衛隊に走っていた緊張は、明後日の方へ駆け抜けて行った。
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「あー、日本の諸君。我々はアメリカを代表して来た者だ。浦賀港への入港を許可願いたい」
船首に大きな鳥の頭をつけた船から通信が入る。どうやら紛れもなくアメリカ本国のものらしい。自衛隊内でも賛否あったが、結局は決断を先延ばしにして国際問題にまで発展することを懸念し独自の判断で入港を許可した。
しかし、これが悪手だった。なんと例の船舶には2本の脚があり、自律歩行が可能だったのだ。海を上がって爆進し続けるのは、船首から火を吹きながら港を歩く機械仕掛けの鳥。侵略行為だ! と自衛隊が反撃しようとした時、その鳥から声が発せられた。
「思い出したか、日本の民よ。これこそ現代に甦りし黒船、サイボーグ七面鳥である! 日本人よ、七面鳥にも門戸を開け! 開国、開国ゥ!」
そう、日本はかつて黒船の威光にひれ伏した歴史がある。となれば今回の七面鳥騒動も、黒船で解決すれば良い、というのがニックの提案だったのだ。
自衛隊もさすがにどうすれば良いのか分からず戸惑っていると、あたりに肉が焦げる匂いが立ち込めた。間髪入れず続いての声明が周囲に響き渡る。
「日本は土地が小さく、家が小さく、オーブンも小さいと聞く。だから鶏の年間消費量1億羽に対し、七面鳥は3000羽しか食されぬのだと! そこで我々アメリカは、このサイボーグ七面鳥にて貴国民らにターキーの神髄を味わわせて進ぜよう! さあ、ほろほろと崩れるターキーの肉に心酔するが良い!」
数年後、そこにはケバブ屋と鎬を削るサイボーグ七面鳥の姿があった。
(お題:サイボーグ七面鳥)