113『キャラクリも立派な本編』
『この間は突発コラボお疲れ様』
大変だったね、とゆいなちゃん…あーちゃんが通話越しに言った。
「あ、ありがと…でもすっごく楽しかった」
『そっか。まぁ、なんていうか…ユニークな人だったね、夢咲カナンさん』
「うん…なんか、初めてコラボしたのに全然そんな感じがしなくって…親近感が湧く人だった」
思い返してみると、あそこまでオレと考え方というか、感性が近い人とは初めて会ったなぁと思う。間違いなくオレの敬語が外れたのも最速記録だっただろうし。
『あー…確かに。ひかるに似てるとこあるかも。ふふっ…魚のやつ笑ったわ』
「は、恥ずかしすぎる…」
あの時はだいぶ深夜テンションが入ってたのもあって、脊髄でノータイムに話してた節が無きにしも非ず? というやつだったからな。…普段から割とそんな感じだって? まぁそれはほんとにそう!
『めちゃめちゃ可愛かったから大丈夫だよひかるちゃん!』
「あ、ありがと…」
『…それは私も同意するけど…なんでいるの?』
今日、オレとあーちゃんは先日のオークションの商品である「あかりちゃんと一緒券」で約束した、新作の狩ゲーを一緒にやるために通話を繋いでいた。てっきり仄ちゃん…せーちゃんのことはあーちゃんが呼んだのだと思っていたのだが…この様子だとどうやら違うらしい。
『ひかるちゃんいるところに私あり!』
『あんま会話通じてる感じしないな…』
『まぁまぁいいじゃん! あきらも私に会えて嬉しいでしょ??』
『きも』
短く吐き捨てるかのように呟くあーちゃん。それを聞いてせーちゃんは「ひどっ!?」と大袈裟に叫ぶ。…素直にいいなぁ、とそう思う。
「二人って本当に仲良しだよね…」
『…まぁ否定はしないけど、今の聞いてそれ言う?』
「なんか、そういう気軽な…軽口みたいなのを言い合えるのがすっごい仲良し感あるなーって」
『じゃあひかるもなんか軽口言ってみなよ。たぶんこいつ、ひかるになら何言われても喜ぶと思うし』
「えっ??」
い、いきなりそんなこと言われても…えーとえーと…そ、そうだ!
「せ、せーちゃんってオークションのときいきなり髪の匂い嗅いできたり、い、意外と変態さん…だよね…?」
『死っ』
死っ!?!?
「ご、ごめん! 今のはさすがに言い過ぎだったよね…!」
『良い子すぎ。大丈夫大丈夫。この変態がこんなのでショック受けるわけないから』
『ありがとう…ありがとうひかるちゃん…!!』
『ほら』
「ええ…」
オレの困惑を他所に、せーちゃんは涙声で感謝の言葉を繰り返している…というかもはや大泣きしている。そして大きく深呼吸したかと思えば、次の瞬間にはすごい早口でさっきの「変態さん」扱いに対して語り始めた。
『まず、まずね、私がひかるちゃんの初めての軽口相手になれたって言うのが何より嬉しい。私、ひかるちゃんの初めてコレクターだから。もうひかるちゃんの初めて全部欲しいから。で、次にその内容なんだけど。ひかるちゃんが私に変態さんって言ったわけじゃん? しかも配信外の、ひかるちゃん成分100%の状態でだよ?? たぶん、ていうか間違いなくひかるちゃんが変態さんなんて言うの私にだけじゃん。唯一無二。単なる変態、じゃなくて変態さん、なのもすごくいいよ。なんか余計言わせたくなる感じ。ひかるちゃんの育ちの良さ…お嬢様感が美味しくて…』
『もうミュートしてゲームしよ。しっくりくる武器あった?』
「あっ、うん。弓楽しいなぁって…」
『あーいいね。私は大剣かな』
迷いなくガン無視を決め込むあーちゃんの姿に、やっぱり二人ってすごく仲良しだなぁと微笑ましくなりつつ、オレもゲームを始める。同じ集会所に集まると、お互いの進行状況を確認して、それから今日やるクエストを決めた。
『あっ、ていうか今更だけど二人とも配信つけないんだ?』
十分くらい経ってようやく正気に戻ったらしいせーちゃんが言う。オレもてっきり配信でやると思っていたのだが…
『だってせっかくの一緒券だし。独り占めしたいじゃん』
…とのことで、今日のところは配信外でやることになったのだ。オレとしてもまだ操作がちょっと覚束ない部分があるし、ある程度上手くなってから配信したいと考えていたので好都合ではある。このままやったらコメント欄にバカにされるのが目に浮かぶからな。どうせなら下手くそだろうと思っているリスナーさんたちをぎゃふんと言わせてやりたい!
『待って私も一緒にやりたい!』
『えー…てか、これ私の券使ってやってる私だけの独占イベントなんですけど? 券落とし忘れた人は帰ってくれない?』
『うぅ…あれは本当に私がバカだった…永遠遥歌…あの女の策略にまんまと乗せられて…! でもひかるちゃんがこの前の配信で言ってくれたから! 私となら一緒券なんてなくてもいつでもどこでもずっと一緒だって! 夢咲カナンのこともそれがあったから耐えられた!!!』
『この猿攻撃方法きったな』
「回復飲めなくなったんだけど!?」
『置いてかないで!! 私もやる! 私もやるから!!』
『あんたまずゲーム買うところからじゃん』
『買う! 買ってインストールするから待って!』
あーちゃんは会話しながらでも全然余裕があるみたいだが、オレの方はかなり必死だった。たぶんこいつそんな強い感じのやつじゃないのに! あーちゃんに助けてもらってようやく倒すことができた。…割と真面目にオレがこのゲーム配信したら必死過ぎて無言か、はたまたダメージ貰って叫んでるシーンくらいしか見せられないまであるな??
『ていうか、あんた的には夢咲カナンさんはそういう判定なんだ?』
『私が好きそうなタイプだなって? 私はあかりちゃんがあかりちゃんだから好きなのであってね…』
『その話長くなる?』
『待って今のはそっちから聞いてきたんじゃん!? さすがにひどくないっ!? ひかるちゃんあきらがひどいよ~』
「えっ、あ…うん…」
お、オレがオレだから好き…せーちゃんのこういうこと照れずに真正面から言えちゃうところ、本当にすごいなぁと思う。
『てかインストール終わった! キャラメイクであかりちゃん作るから待っててね!』
『それ無駄なこだわり発揮してめちゃめちゃ時間かかりそうなんだけど』
『は? あかりちゃん再現するのに無駄な部分とかマジで一つもないから』
『怖っ。終わるまでにもう一、二体余裕で狩れそう。次行こ、次』
「おっけー」
その後たっぷり三時間くらいをかけてせーちゃんがキャラメイクを終えてようやく合流した。
『思ったより早く出来たよ…このキャラメイクだけでも私ずっと遊んでられそう』
『わかる。でもお前もう軽く三時間以上経ってんだけど??』
『お前!?』
「だいぶ上手くなった…気がする!」
『めっちゃ上手くなったと思うよ。弓かなり合ってて良い感じ』
「ありがと!」
武器が手に馴染んできたのか、露骨な被弾も減ったし、そのおかげで回復してる時間が減って攻撃してる時間をしっかり取れるようになってきた。まぁ結構介護というか、もはや姫プされてる感も拭えないけど、そこは逆にあーちゃんが上手すぎるのだと思っておくことにしよう!
『すごいカチャカチャ聞こえるけどキーマウでやってる? あんたパッド持ってなかったっけ?』
『私の胸は天然だよ! 美乳!』
『死ね』
『死ね!?!?』
そんなこんなでさらに賑やかになりながらゲームは進んでいく。たまには配信外でこういう風に遊ぶのもいいなぁと、そんなことを思ったのだった。
……しかし美乳、美乳か…。
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