111『一番星が見つけた約束の地』
まだ少しオレに向ける視線が怖い気がする百々ちゃと、たぶんこの場で一番このコラボを満喫している気がするカナンちゃん、そして今日は結構まとも寄りな気がするオレという三人組のコラボはまだ続く。
『ゆいなちゃんと一緒にゲームするのすっっごい楽しみだけど…前にゲームした時がアレだったから、また迷惑かけちゃったりしないかちょっと心配なんだよね…』
思い返してみれば、あの時は本当に色々な意味でやらかしたと思う。まさか女の子の方のオレがあそこまでホラー耐性よわよわだとはまったく想像もしていなかった。
『前…柚月ゆいなさんと暁仄さんと一緒にホラゲーやって、気を失っちゃったやつだよね? なんでかアーカイブなくって、切り抜きでしか見れてないんだけど…』
『そうそれ! まぁ今回はホラー要素一ミリもないアクションゲームだから大丈夫だと思うけど!』
たまにオフの時間でゲームしてる時も全然大丈夫だったしな。それにホラーだってもう今なら正直大丈夫だし? この間ママと一緒にテレビでやってたホラー映画見たけどぎりぎり一桁くらいしか悲鳴上げずに済んだし??
¥1,800
【ホラゲー懐かしいな】
【なんでかじゃないが??】
¥900
【アーカイブ残ってない理由は察して余りあるんだよなぁ】
【やっぱまだホラーは苦手のままなんだ…】
¥5,000
【ホラゲーも再チャレンジしろ】
¥3,000
【アクションゲームもアクションゲームで大丈夫か感が漂う】
【正直下手くそそう】
【指示厨が途中で諦めそう】
¥500
【ゆいなちゃんは大抵どのゲームも上手いから何とかしてくれるさ】
¥4,100
【コントローラー見ないで操作できる?大丈夫??】
『さすがに舐めすぎなんだが??』
こいつらオレをどんだけ不器用だと思ってるんだよ!
『ゆいなならあかりがどれだけ迷惑をかけても許してくれるだろうから大丈夫』
『そ、そもそも迷惑かけないとは言ってくれないんだ…?』
『そういうところもあかりちゃんの持ち味!』
『か、カナンちゃんまで…!』
そもそもオレは何かしら迷惑なりトラブルを起こすのが前提らしい。今までだってそんなに起こして…ないこともないけど! それにしたってこういう時くらい全肯定してくれたっていいもんだと思う!
『もう次行くから! 次!』
『ごめんごめん。次は夏華先輩の絵のモデルに…となるとこれ、オフコラボ?』
…百々ちゃに言われて気が付いたけど、そうじゃん。これたぶんオフコラボじゃん!?
『えっ、やば…あ、あんまり知らない先輩と二人っきり…? も、百々ちゃも一緒にとか…』
『夏華先輩が落札した一緒券だから…』
『か、カナンちゃんはこう、知らない先輩…カナンちゃん一期生だから後輩か…と、一緒にコラボするってなったら、ど、どうする…?』
き、きっとオレよりVtuber歴の長いカナンちゃんなら良いアイデアを…!
『諦めて…寝る…かな…』
『わかる…! めっちゃわかるけどぉ…!』
今聞きたいのはそういうことじゃないんだよね! てか、オレとよーく似てるカナンちゃんと一緒に対策を立てても、もしやオレと似たような結論しか出ないのでは…?
¥5,000
【夢咲カナンのこれまでが詰まった結論ではある】
¥10,000
【宵お前も大抵そんな感じで乗り越えてきただろ今回もやれ】
¥2,000
【宵って結構対策フェイズ設けてる気がするけど大体何も役に立ってないよな…】
【絶望顔とてもたすかる】
【もっと絶望しろ】
【活動中止を経て優しくなってたリスナーたちはもういない…】
¥1,000
【ひまは結構常識人寄りだし人懐っこいから大丈夫だろ】
『人懐っこいはコミュ障陰キャ的にはあんまプラス要素じゃないんだよなぁ…』
でも実際、シチュエーションが特殊なこともあって対策の立てようもないし、コメントとオークションの時に少し話した印象を信じてノー対策で臨むことにした。単に諦めたとも言う!
まぁオフコラボだとしても、オレをモデルにして絵を描いてもらうだけだからな。夏華先輩も集中したいだろうし、あまりトーク自体しない可能性もある…あるかな…? なんか考えれば考えるほど、夏華先輩の性格的にもめちゃめちゃ喋ってきそうな気もするけど…たぶん大丈夫だろう! その辺りはいつものように未来の自分に任せておくことにする。
『で、最後。最強の強敵である因幡先輩だけど…なんと普通にゲーセン一人で行くらしい。つよつよすぎない??』
オレの常識からすると考えられないほどの神業だ。やっぱり実はオレと同格みたいなフリをして、今までずっとオレのことを嘲笑っていたのかもしれない…それで今回、こうして圧倒的な実力の差を見せつけるためにこのシチュエーションを選んだのだろうか…。ライバルだと思っていたのはオレの方だけだった…?
『つ、つよつよすぎる…こうなったらあかりちゃんも一人で行ける場所を提案して一勝一敗に持ち込むしか…』
『確かにもうそれしかないかも…』
『すごいかわいい作戦会議』
【わかる】
【百々ちゃの専用の癒し空間かな?】
¥10,000
【てかそもそも勝利条件はなんだよ】
¥4,117
【遊びに行くのに勝ち負けを考えるな】
【宵の因幡に対する謎のライバル意識すき】
【本当にそれしかないかな…?】
【このガキ同士の会議感】
¥9,999
【先手必勝!ギャルファッションでギャル宵になって陽キャ感を出して威圧していけ】
『ギャルで陽キャ感出して威圧…ありだな?』
『ぎゃ、ギャル…!?!?』
『カナンちゃんもこれ良い作戦だと思うよね!?』
ガタガタッと大きな物音が聞こえてきたので、きっとカナンちゃんも賛成してくれているんだろう! これなら行動で優位を取れなくとも勝てる可能性があるかもしれないからな。それに先手必勝という言葉がすごく気に入った! オレも一端? のオタクだからな、ギャル…特にオタクに優しいギャルには一家言あるのだ。頑張ってつよつよギャルを再現してやる!
『じゃあ一緒に服選びに行こう』
『百々ちゃ選んでくれるの!? やった! 勝ち確じゃん! あっ、でも永遠さんも服選んでくれるって…』
『なら私と永遠さんの二人で選んであげる』
『この勝負間違いなく勝ったな!!』
『ギャル…推しのギャル姿…それはそれとしてももよいとても助かる!』
【こいついつもとても助かってるな】
¥5,000
【百々ちゃのインターセプト!!】
【永遠さんならそれはそれで楽しみそう】
【夢咲はさぁ…】
¥1,900
【次に描かれるのはギャル宵か…】
¥7,000
【ゆいなちゃんにギャル道を学ぼう】
【デカパイギャルを極めろ】
¥50,000
【勝つさ】
その後も対策会議は続く。メインとなる作戦は決まったがサブの作戦はいくらあってもいいからな。カナンちゃんと百々ちゃ、そして時折コメントの力も借りつつ作戦を立てていく。そして気がつけば、時刻はなんと…朝の四時を回っていた。
『よ、四時…!? えっ、オレここまで起きれたの初めてかも…』
『私も…なんか時間分かったら急にめちゃめちゃ眠くなってきた…』
『ね…』
カナンちゃんと二人、感動しつつも逃れられない眠気を感じていると、百々ちゃがそろそろお開きにしよっかと言った。まだもうちょい、と言いたかったが、この睡魔くんはかなりの強敵だ。
『本当に…今日の出来事があれば…一生生きていける…ありがとう私の最推し…』
『オレも…すっっごい楽しかった…ありがと…!』
眠気に抗いながらなんとか言葉を紡ぐ。最後に、最後にもう一言、何か言おうとそう思って。
『また…いつか…』
自然と、オレの口からはそんな言葉が出ていた。カナンちゃんのこれまでのオレへの推し方から察するに、もしかすると次の機会はないのかもしれない。今回だって彼女が誤スパチャを夢咲カナンのアカウントでしてしまったからこそ実現したコラボだった。いくら名前で呼び合うくらい仲良くなったとはいえ…推し方は人それぞれある。推しに認知されたいって人もいれば、そうではなく、影からその物語を見守りたいという人もいる。
だからきっと、直接関わることはなくとも、彼女はこれまでみたくコメントでオレのことを見守ってくれることだろう。寂しいけれど、オレも彼女をひっそりと見守りながら応援することにしようと思う。
『うん…また、ね』
それでも「また」と返してくれた彼女に感謝して、眠気に負けつつも百々ちゃに手伝ってもらいながら配信を終える。こうして、宵あかりと夢咲カナンちゃん…オレを推してくれている、もう一人のオレみたいな人との道は再び別れていった。…限界を迎えて夢の世界へと落ちていきながら、オレは。
約束の地から見える星が、いつまでも一番星であってほしいと、そう思ったのだった。
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