カラオケボックスにて 【夏葉は音源を入手する】
今週は後、1話公開予定です。
次は土曜日か日曜日の予定です。
「おまたせ。オレンジジュースです」
夏葉は部屋に戻るとオレンジジュースを優太の前に置く。
夏葉は優太の隣に座ると彼の手元に視線を落とすと、ジト目を向けた。
「何を歌うか決まりま……って。曲を決めておいて下さいって言ったじゃないですか!」
夏葉が見つめるタブレット端末はトップページを表示しており、曲を検索した形跡は無かった。
夏葉の言葉に優太はどこか困ったような表情を浮かべると。
「一緒に歌うって言われてもなぁ。
夏葉ちゃんとカラオケするのって今回が初めてだろ?」
友人達やすずとカラオケに行ったことは何度も有るがその席に夏葉ちゃんが居たことは一度も無かったはずである。この状況で一緒に歌う曲を一人で選ぶなんてムリゲーだろう。
彼女がよく聞いている曲はいくつか知ってはいるが、聞いている曲=歌える曲ではないのだから……
夏葉は優太の言葉にキョトンとすること約二秒。何かに気付いたのだろう『はっ!』とした表情を浮かべると気まずそうに視線を反らして、
「で、でもですね。探してますよ……くらいのアピールはあってもバチは当たらないですよ。
だからこれは先輩が全面的に悪いのです」
そう言って、あるミスを誤魔化すのであった。
実は。
優太が友人達とカラオケをしている時、必ずといっていいほど夏葉もヒトカラに訪れていた。
毎回、彼等の部屋の隣を指定してのヒトカラを。
だから夏葉は優太がよく歌う曲は全て知っているし歌えるというある種ストーカー染みた事をしていた。だからお互いに何を歌うっているか知っているものと勘違いしてしまったのだった。
これはあまりバレたくない夏葉の秘密である。
「じゃあ。先輩、一緒に考えましょう」
決められそうにない優太に夏葉は身体をのり出すと。優太に体をあずけるように寄りかかり、タブレット端末を操作し始める。
「夏葉ちゃん。近い。近いってかこの状況いろいろヤバイって……」
左肩に感じる心地よい重さと柔らかさと女の子独特のどこか甘い匂いに焦る優太。
夏でも何故か首回りや脇の肌が露出しない厚手の服を必ず着込んでいる夏葉。そんな彼女と触れ合うことで一つ分かることがあった。
着痩せするタイプなんだな夏葉ちゃん。
厚手の服からも感じる夏葉の存在感にくらくらしながらそんな事を思ったのだった。
「先輩。この曲なんてどうですか?」
夏葉は駄目元でいつの日にか彼とデュエットしたい曲をタブレット端末に表示させた。
彼女が選択したその曲は、約十五年前に流行った曲で優太もよく知る曲であった。
優太はタブレット端末の表示を見て、表情を曇らせる。
「ごめん。この曲は……俺には無理」
小さな頃にすずの元気がない時によく歌ってあげた思い出の曲。
そして、曲名を見た瞬間、気持ち悪くなった。
優太自信も好きな曲であるが、体がすずに拒絶反応でも出ているのだろか?
『もう二度とこの曲を歌うことは出来ないかもしれない』そんな考えが頭に浮かぶ。
夏葉はタブレット端末を再度操作すると。
「この曲はどうですか?」
「この曲か……うん。いいよ」
曲名を見て頷く。
この曲は最近カラオケに行くと必ず歌う得意曲であった。
「しかしすごい偶然だなぁ」
「何がです?」
優太のつぶやきに首を傾げて聞き返した。
「いやな。二曲連続で俺の得意曲だったから、まるで知っ……」
「ホントですかっ!
私達相性いいかも知れませんね。先輩!」
慌てて優太の言葉をさえぎる夏葉。その目は完全に泳いでいた。
「気のせいか、さっきからちょくちょく物凄く焦ってないか?」
「そそ、そ、そんなことないですよハハハ……
そ、そんなことより初めての先輩とのカラオケ。デュエットじゃないですか!
記念に録音していいですか?」
ポケットからスマホを取り出して、じーっと優太からの回答を待つ夏葉。
そんな夏葉の可愛らしい姿に優太は苦笑すると頷いてみせる。
「別に聞かなくてもいいよ。録音くらい好きにしてさ」
「本当ですか。やったー!」
優太からの予想以上の返事に夏葉は喜びのあまり思わず抱きついていた。
「まっまた……もがっ!」
言葉も途中に優太は埋まったのだった。
この日、夏葉は優太とのデュエットした音源をいくつか手に入れた。
この音源は二人の運命の歯車をゆっくりとだが確実に回したのだった。
〖カラオケボックスにて 【夏葉は音源を入手する〗を最後までお読みいただきありがとうございます。
何故か書いている内に夏葉が頭の中で元気に暴走してしまい、少しヤバイ感じの女の子になりつつある……元々の設定に無かった新たな秘密が書いて気付いたらできていた。
追伸
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